中村 泰信(ナカムラ ヤスノブ) 48歳 (東京大学 先端科学技術研究センター 教授) |
平成 2年 | 東京大学 工学部物理工学科 卒業 |
---|---|
平成 4年 | 東京大学 大学院工学系研究科 超伝導工学専攻修士課程 修了 |
平成 4年 | 日本電気株式会社 基礎研究所 研究員 |
平成13年 | デルフト工科大学 客員研究員(~平成14年8月) |
平成14年 | 理化学研究所 客員研究員兼任 |
平成17年 | 日本電気株式会社 基礎・環境研究所 主席研究員 |
平成23年 | 博士(工学)取得(東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻) |
平成24年 | 東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 教授 |
平成24年 | 東京大学 先端科学技術研究センター 教授(現職) |
平成26年 | 理化学研究所 創発物性科学研究センター チームリーダー 兼務(現職) |
平成11年 | 応用物理学会 講演奨励賞 |
---|---|
平成11年 | サー・マーティン・ウッド賞 |
平成11年 | 仁科記念賞 |
平成16年 | アジレントテクノロジー 欧州物理学賞 |
平成20年 | サイモン記念賞 |
平成26年 | トムソン・ロイター 高被引用論文著者 |
平成26年 | 江崎玲於奈賞 |
巨視的量子機械
量子状態の高度制御による新たな物性・情報科学フロンティアの開拓
量子力学は、物理学の基本理論として多くの科学分野の発展の礎となり、現在の情報社会の隅々にまで恩恵をもたらしています。その進歩を引き継ぎ、今世紀に入る前後から湧きおこってきた新たな波が量子情報科学です。従来の情報通信技術においては、量子力学が、いわば縁の下の力持ちであったのに対し、量子情報科学のもとでは、重ねあわせや量子もつれといった量子の性質を最大限に活かした、優れた応用が可能であると期待されています。しかし、任意の量子状態を任意の時間にわたって保持し続け、その上で自在に量子状態を制御するためには、雑音による誤りの発生など、いまだに多くの課題が存在します。
このような背景のもと、本研究領域では、研究総括がこれまで世界に先駆けて独自の研究を構築してきた超伝導量子ビットとそれを用いた量子回路に関する技術を発展させ、高精度な量子状態制御・観測技術を確立します。さらに、多様な計算に対応可能な量子コンピュータの実現に向けて、誤り耐性を持つ量子情報処理方式を実装するための拡張性の高いプラットフォームを開発します。加えて、今後ますます重要になると予想される、超伝導量子回路と異種の物理系を融合したハイブリッド量子系の構築を通じて、新たな量子情報処理技術の可能性を大きく飛躍させることを目指します。
具体的には、ナノ加工技術・実装技術を活用して超伝導量子ビットの2次元稠密(ちゅうみつ)集積化を行い、高精度な量子ゲート操作を実現することにより、新しい誤り耐性符号の実装に挑戦します。加えて、超伝導回路上のマイクロ波量子光学ネットワークやハイブリッド量子系などの新規量子インターフェイスの実現に挑戦します。
本研究領域を通じて、量子状態制御技術の飛躍的向上により、複雑かつ柔軟な「量子機械」の制御に挑みます。これは量子コンピュータ実現へのマイルストーンとなり、新たな科学の基盤技術の創出につながると期待されます。また、量子誤り耐性符号化の実現により、物性物理などとの境界領域における新たな発展が、量子インターフェイス技術の実現により、分散型量子情報処理や量子中継など量子通信応用への展開が期待されます。
沼田 圭司(ヌマタ ケイジ) 36歳 (理化学研究所 環境資源科学研究センター チームリーダー) |
平成15年 | 東京工業大学 工学部高分子工学科 卒業 |
---|---|
平成17年 | 東京工業大学 大学院総合理工学研究科博士前期課程 修了 |
平成19年 | 東京工業大学 大学院総合理工学研究科博士後期課程 修了、博士(工学) |
平成20年 | 日本学術振興会 海外特別研究員(タフツ大学) |
平成22年 | 理化学研究所 バイオマス工学研究プログラム酵素研究チーム 上級研究員 |
平成24年 | 理化学研究所 バイオマス工学研究プログラム酵素研究チーム チームリーダー |
平成27年 | 理化学研究所 環境資源科学研究センター バイオマス工学研究部門酵素研究チーム チームリーダー(現職) |
この間
平成15年 | BASF社(ドイツ) インターンシップ |
---|---|
平成18年 | Royal Institute of Technology(スウェーデン) 研究留学 |
平成23年 ~現在 |
マレーシア科学大学 Visiting Professor 兼任 |
平成26年 ~現在 |
Spiber株式会社 Visiting Fellow 兼任 |
平成23年 | 平成23年度理化学研究所 研究奨励賞 |
---|---|
平成26年 | 高分子学会 高分子研究奨励賞 |
平成26年 | 高分子学会 Polymer Journal論文賞-日本ゼオン賞 |
平成26年 | 理化学研究所 ゲノム科学総合研究組織(GSC) 七夕ミーティング2014 フェロー |
平成27年 | 高分子学会 第61回高分子研究発表会 ヤングサイエンティスト講演賞 |
平成27年 | 高分子学会 バイオ・高分子研究会 若手研究奨励講演賞 |
オルガネラ反応クラスター
気候変動時代の食料安定確保を実現する環境適応型植物設計システムの構築
近年のバイオテクノロジーの発展に伴い、生物による物質生産技術はさまざまな分野で利用され始めています。特に植物は、葉緑体や液胞といった固有の細胞内小器官(オルガネラ)を持ち、これらを制御することで、光や二酸化炭素をエネルギー源として光合成を行うなど、独自の物質生産を行っています。こうした植物固有の特性を用いれば、微生物や動物では達成できない物質生産技術を創出することが可能であると考えられますが、幅広い実用化は容易ではありません。その理由の1つとして、オルガネラ間の物質輸送や相互作用、そしてそれらが植物全体の物質生産能力に与える影響が未解明であることが挙げられます。植物を物質生産の反応の場として活用していくためには、植物細胞中の各オルガネラの機能とその相互作用や代謝、物質生産などに及ぼす影響について、理解を深めることが不可欠です。
本研究領域では、植物細胞中の複数のオルガネラを複合的に操作・改変する技術を確立するとともに、オルガネラ間の物質輸送やオルガネラの細胞内局在が物質生産に与える影響を総合的に明らかにすることで、物質生産に最適な植物個体の作出や植物個体の機能改変に向けた基盤的な知識を構築することを目指します。
具体的には、オルガネラに選択的に物質を輸送できる「融合ペプチド」を技術的な基盤として、複数のオルガネラを複合的に改変する技術を確立します。また、バイオイメージングや計算科学の手法を取り入れ、細胞内のオルガネラ間の距離と代謝反応の相関関係を数値化することにより、オルガネラの相互作用と生産性を定量的に評価する指標を開発します。さらに、これらの取り組みで得られた知見を基礎として、植物における物質生産に最適な代謝経路の設計に挑みます。
本研究領域により、これまで未知であったオルガネラに対して、工学と植物科学の融合による体系的な理解が進むとともに、世界に先駆けて複数オルガネラを改変する技術を確立することにより、物質生産に最適な植物を設計することが可能となります。これにより、創薬や食料生産、化学産業など、植物を起点とした多様な産業への展開を実現するための技術的な基礎を確立することが期待されます。
蓮尾 一郎(ハスオ イチロウ) 38歳 (東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授) |
平成14年 | 東京大学 理学部数学科 卒業 |
---|---|
平成16年 | 東京工業大学 大学院情報理工学研究科 数理・計算科学専攻修士課程 修了 Radboud University Nijmegen (ナイメーヘン・ラドバウド大学、オランダ) 計算機科学科 博士課程学生、初級研究員(平成19年4月まで) |
平成19年 | 京都大学 数理解析研究所 助教 |
平成20年 | Radboud University Nijmegen 計算機科学科博士課程 修了、学術博士 |
平成23年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 講師 |
平成27年 | 東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授(現職) |
この間
平成19 ~23年 |
科学技術振興機構 さきがけ研究者(「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」研究領域、西浦 廉政 研究総括) |
---|---|
平成27 ~28年 |
京都大学 数理解析研究所 客員准教授 |
平成20年 | cum laude(クムラウデ)(オランダの優秀な博士号取得者に与えられる名誉称号) |
---|---|
平成24年 | 藤原洋数理科学賞 第1回奨励賞(日本数学会後援) |
平成26年 | 最優秀論文賞 CONCUR 2014-Concurrency Theory-25th International Conference(卜部夏木氏:東京大学大学院 情報理工学研究科 修士課程1年(受賞時)と共同受賞) |
メタ数理システムデザイン
社会における支配原理・法則が明確でない諸現象を数学的に記述・解明するモデルの構築
今日の製造業においては、高度な情報処理技術を導入することにより、設計から生産に至る工程の様相を根本的に変える取り組みが進んでおり、設計工程および生産工程の自動化とソフトウェアによる支援がさまざまな業種で採用されつつあります。また、自動運転などの例に見られるように、ソフトウェア制御によって工業製品の機能が飛躍的に拡大するなど、今後ますますソフトウェアが設計・生産工程の効率化や工業製品の品質向上に大きく寄与するようになると考えられます。
このような背景のもと、本研究領域では従来のものづくり技術にソフトウェア科学の成果を導入し、仕様策定から設計、実装、保守まで工業製品開発のさまざまな側面を支援するソフトウェア・ツールの構築を目指します。また、これと並行して、工業製品開発において重要な制御理論とソフトウェア科学の双方を数学的に融合した汎用的な理論体系の構築も目指します。将来、これらの基礎的・応用的成果をまとめることによって、工業製品開発のためのソフトウェア・インフラ(統合開発環境)構築の基盤とすることを目標とします。
具体的には、「形式手法」というソフトウェア科学における数学を基盤としたシステム設計の技法を取り込むことにより、製品の品質保証や効率化へのソフトウェアによる支援を大きく推進します。工業製品の開発に形式手法を適用するには、物理系の連続ダイナミクスや確率・時間などの連続的要素を包含するように、形式手法に対してさまざまな拡張を行うことが必要です。そこで、形式手法の拡張の過程そのものを数学的に解析し、高次(メタレベル)の理論を構築することで、日々多様化する工業製品の利用環境に対応するよう、形式手法を一挙に拡張します。この成果を、自動車業界など産業界の各分野に展開を図る予定です。
本研究領域で構築するソフトウェア・ツールおよびその発展形として将来的に期待される統合開発環境は、複雑化する工業製品の品質保証および効率化における工程数・コストを本質的に削減して、製造業に広く貢献します。また同時に本研究領域が構築する理論体系は、ソフトウェア科学・制御理論および数学一般において新たな展開を拓くことが期待されます。