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参考1

平成28年度 募集の概要

1.事業の目的

戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)は、社会の具体的な問題の解決を通して、社会的・公共的価値の創出を目指す事業です。社会問題の解決に取り組む関与者と研究者が協働するためのネットワークを構築し、競争的環境下で自然科学と人文・社会科学の知識を活用した研究開発を推進して、現実社会の具体的な問題解決に資する成果を得るとともに、得られた成果の社会への活用・展開を図ります。

2.研究開発領域・プログラムの概要

① 「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」の概要

近年、日本では、犯罪の認知件数は減っていますが、家庭、または、家庭と同様に外部から隔離され、同調圧力が強く閉鎖的な空間である職場やスポーツ集団、学校などにおいて、子ども、女性、高齢者が継続的な暴力を受けるケースや、サイバー空間での関係性に由来する事件やいじめが顕在化し、安全・安心上の新たな問題となっています。また、交通事故など公的空間で起こる事故が減る一方で、転倒や溺死、家庭内事故が増加し、外部から発見・介入しづらい「私的な空間・関係性」における問題が顕在化しています。

顕在化する背景には、世帯の小規模化や高齢化、地域社会からの個人の孤立、インターネットやソーシャルメディアの普及・拡大といった社会構造的な変化と、それらによってもたらされる「親密圏」と「公共圏」の変容に、既存の安全機能(法制度・公的組織、あるいは、家庭・地域社会による予防や支援機能)が対応しきれなくなっていることがあります。具体的な例として、世帯の小規模化や地域コミュニティの縮小・希薄化に伴い、家庭や地域社会が持つサポート的な機能が低下して養育者や養護者の孤立が深刻化し、育児や介護において虐待が生じるケース、また、ソーシャルメディアでいつでもつながれることによって、学校や職場・家庭の外で緊密な人間関係が形成され、周囲が気付かないままに逃げ場のないいじめが起きてしてしまうケースがあげられます。

従来、親密圏については自助、自治に任せるものであるとの考えもありましたが、国民の関心や人権意識の高まりもあり、多様なレベルでの社会的な支援や介入が徐々に広がりつつあります。センサーやロボットなどの科学技術を使い、親密圏での加害・被害またはそれにつながるリスクの早期発見や要因解消に貢献する研究開発も求められてきました。社会的な支援という側面からも親密圏と公共圏の関係性は変容していますが、一方に、社会的な支援を届けようにも制度が壁となる場合もあります。

さらに、平成28年に決定された第5期科学技術基本計画では、サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した「超スマート社会」を実現するための取組が強化されました。こうした流れは、私的な空間・関係性やプライバシー概念の変化に大きく関連すると同時に、技術的な側面からは、ビッグデータ解析技術を用いることにより、事件・事故などの予見・発見を容易にすることが期待されます。

このように、1)私的な空間・関係性で起きる安全・安心上の問題の顕在化、2)親密圏と公共圏の関係性、境界の変容、3)サイバー空間と実空間の一体化による予見・発見の容易化とプライバシーの概念の変化、が進行しているとの認識のもと、RISTEXでは発見・介入しづらい空間・関係性における危害や事故の予防と低減に関わる研究開発を推進します。

② 「持続可能な多世代共創社会のデザイン」の概要

近年、日本は人口減少、少子高齢化、エネルギー問題、経済の停滞と財政赤字など厳しい状況に直面しており、これに加え、地球規模の気候変動などに伴う環境面の課題についても対応がせまられています。特に都市・地域では、高度成長期に増加した人口が高齢化の急激な進展と少子化により減少に転じた結果、人口・社会構造が大きく変化してきています。経済、インフラなどの機能の維持や都市・地域に暮らす人々の生活水準、生活の質を含めた持続可能性が今後ますます重要な課題となることが予想され、社会全体として複合的、多元的な課題の解決が必要とされています。これと同時に、特に2011年3月の東日本大震災以降、物質的・量的豊かさだけではなく、人々の多様性や創造性を認め、人や自然とのつながりや助け合い、絆といった心の豊かさや、環境や文化・伝統的価値の保全・再生などに新たな価値を見出す流れが強くなっています。

また、国連などにおける持続可能な発展の議論においては、環境の持続可能性を基盤とした社会と経済の持続可能性の各側面をバランス良く統合する一環したアプローチの重要性が強調され、well-being(個人の豊かさ、生活の質、福祉など)の視点が注目されています。OECD(経済協力開発機構)の社会発展政策においてもポスト成長期の社会目標としてwell-beingが打ち出されており、国際的にも目指すべき成熟社会の在り方が提示されています。

成熟社会へと移行しつつある日本においても都市・地域の持続可能性を考える際に、このような視点を考慮した取り組みが必要といえます。今後予想される社会的な課題を見据え、多世代・多様な人々のwell-beingを実現し、都市・地域社会を環境、社会、経済などの多面的な側面から持続可能とする、先見性のある取り組みが求められています。

そこで本領域では、子供から高齢者まで多世代・多様な人々が活躍するとともに、将来世代も見据えた都市・地域を、世代を超えて共にデザインしていく研究開発を推進します。RISTEXがこれまで取り組んできた複数分野の知見や、多様なステークホルダーとの協働による研究開発を進めるためのノウハウを生かしてマネジメントを実施します。

③ 「研究開発成果実装支援プログラム」

研究開発成果実装支援プログラムは社会技術研究開発センターに固有のプログラムです。研究の成果が実用化され定着するまでには研究・開発・実証・普及の4段階があります。産業のための研究開発では成果による便益があると考えられれば、個別の企業がリスクを負担して研究から普及までのすべての段階を一環して実行します。

一方、社会のための研究開発は実現すれば極めて効果的であると思われるものであっても、研究開発の段階に留まっています。その理由は研究開発の成果が社会に便益をもたらすかを実証するリスクを誰が負担するかが不明確だからです。そのため研究開発の成果は実用化されることなく知の倉庫で眠り続け、いつしか忘れ去られてしまうものが少なくないのです。

実証・普及は受益者の負担であるという考えから一歩踏み出し、実証段階を支援することによって研究開発から実用化までをシームレスにつなぎ、研究開発の成果をできるだけ早く社会に届ける装置として考え出されたものが研究開発成果実装支援プログラムです。

④ 「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」

サービスは社会的・経済的価値を生み出す機能を持ち、金融業や小売業、情報サービスなどから、環境・エネルギー、行政、福祉・医療などの公的サービスまで幅広い分野に至りますが、日本では、従来、商品に付加的なもの、あるいは製造業と区分されたサービス産業における商品として捉えられてきた側面があります。一方、サービスにより生まれる価値には、サービスと貨幣の交換による価値に留まらず、モノやサービスを利用することによる利用価値までも含まれ、サービスとモノとは不可分であるという考え方が近年、世界的に拡がりつつあります。

「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」では、社会の具体的あるいは潜在的なニーズを把握し、実データや事例を利用し、単なる既存サービスの科学的アプローチによる効率化だけでない、分野融合型でサービスの提供者と被提供者を含むアプローチによる問題解決のための科学的な概念・技術・方法論などの開発を行うとともに、「サービス科学」の研究基盤構築を目指した研究を推進します。また、研究成果のさまざまなサービスへの活用により問題解決をすることでの社会貢献、「サービス科学」の研究者・実践者のコミュニティ形成に貢献します。