JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第1181号 > 別紙2
別紙2

平成28年度 採択研究課題の概要

※研究課題の並びは、研究代表者名の五十音順です。また、研究課題名は採択時のものであり、相手国関係機関との実務協議などの結果、変わることがあります。

環境・エネルギー分野 研究領域「地球規模の環境課題の解決に資する研究」

研究課題名 砂漠化対処に向けた次世代型「持続可能な土地管理(SLM)」フレームワークの開発 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
恒川 篤史
(鳥取大学 乾燥地研究センター 教授)
相手国エチオピア連邦民主共和国 主要相手国
研究機関
バハルダール大学
研究課題の概要
本研究は、エチオピアを対象にして、土壌侵食防止機能の強化、土地生産力の向上、住民の所得向上を組み込んだ次世代型持続可能な土地管理(SLM:Sustainable Land Management)のフレームワークを開発することを目的とする。「持続可能な土地管理」は、砂漠化対処に向けて世界で広く実施されているが、その効果や持続性の問題が指摘されている。具体的には、降雨による土壌侵食の激しい青ナイル川上流域の3地域(高地、中間地、低地)に設置する研究サイトにおいて、土壌侵食の削減や耕畜連携システムの導入により土地生産力を向上する技術を開発し、さらにそれを住民の生計向上につなげる手法を開発する。最終的には、開発された個別要素技術と普及していくための取り組み・手法を定式化し、次世代型SLMフレームワーク(エチオピアモデル)を提案する。事業終了後は青ナイル川流域および世界の乾燥地への展開を目指す。
研究課題名 コーラル・トライアングルにおけるブルーカーボン生態系とその多面的サービスの包括的評価と保全戦略 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
灘岡 和夫
(東京工業大学 環境・社会理工学院 教授)
相手国フィリピン共和国/
インドネシア共和国
主要相手国
研究機関
フィリピン大学ディリマン校(フィリピン共和国)
海洋水産省 海洋水産研究開発庁(インドネシア共和国)
研究課題の概要
本研究は、世界的に見て生物多様性がきわめて高い「コーラル・トライアングル」と呼ばれる地域の中心に位置するフィリピンとインドネシアを対象に、沿岸生態系が蓄える炭素(C)であるブルーカーボンに着目し、沿岸生態系の保全や回復力の強化によるブルーカーボンの増強や、ひいては地球環境改善にも貢献する「ブルーカーボン戦略」を、さまざまな調査やモデル開発・分析に基づいて策定・提言することを主な目的としている。そのために、両国沿岸域におけるブルーカーボンのストックの空間分布構造のみならず、その動態を規定するさまざまなフラックスの実態を定量的に明らかにする現地調査を多角的に実施し、その成果に基づいて、物質循環・炭酸系動態・生態系応答などに関する、新たな統合モデル体系を構築する。その上で、構築されたモデルに社会経済的パラメータをリンクさせた将来シナリオ分析などを行うことで「ブルーカーボン戦略」を策定し、両国政府に提言する。
研究課題名 チェルノブイリ災害後の環境修復支援技術の確立 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
難波 謙二
(福島大学 教授/福島大学 環境放射能研究所 所長)
相手国ウクライナ 主要相手国
研究機関
ウクライナ国立戦略研究機構
研究課題の概要
本研究は、原子力災害からの復興途上にあるチェルノブイリ周辺地域を対象として、福島で得た環境放射能に関する科学的知見を活用し、当該地域の環境回復技術および法体制の確立に貢献することを目的とする。現在当該地域では、クーリングポンド(冷却水供給池)の水位低下に伴う環境影響評価、経年の放射線量低下に伴う避難区域の再編、汚染森林地域で発生する火災などによる放射能飛散対策に関連する放射能動態モニタリング体制の構築等が課題になっている。本研究では、これら課題に対応するための研究を行うとともに、モニタリングデータを活用して既存の放射性物質動態予測モデルを発展させ、放射線リスクの広域的かつ中長期的な予測を行う。得られた知見をもとにチェルノブイリ周辺地域の住環境や農林水産分野の規制を適正化し、原子力災害後の安全かつ効率的な環境回復を目指し、日本側若手研究者の原子力災害関連の知見の拡大も促進することで、次世代の原子力災害対策を担う人材を育成する。
研究課題名 食料安全保障を目指した気候変動適応策としての農業保険における損害評価手法の構築と社会実装 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
本郷 千春
(千葉大学 環境リモートセンシング研究センター 准教授)
相手国インドネシア共和国 主要相手国
研究機関
ボゴール農科大学
研究課題の概要
本研究は、気候変動の適応策である農業保険制度の試行的取り組みを開始したインドネシアを対象として、保険制度の中核となる損害評価を効率的に実施するための新しい損害評価手法を確立することを目的とする。そのために、(1)水稲の干ばつ害、病虫害、水害を損害評価対象災害として、衛星、UAV(無人航空機)、GIS(地理情報システム)、実測調査データなどの空間情報を駆使した客観的、効率的、広域的に損害評価を実施する手法の確立、(2)現行保険制度と新しい損害評価手法の統合と社会実装、(3)損害評価手法の運用および改良に必要な情報基盤の整備、(4)評価手法の開発および運用に関するキャパシティ・ディベロプメントを行う。これにより、インドネシアにおいて気候変動によって生じる農業生産者の経済的損害を軽減し、農業生産の支援体制を確立でき、食料安全保障の実現に寄与する。

環境・エネルギー分野 研究領域「低炭素社会の実現に向けた高度エネルギーシステムに関する研究」

研究課題名 バイオマス・廃棄物資源のスーパークリーンバイオ燃料への触媒転換技術の開発 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
椿 範立
(富山大学 大学院理工学研究部(工学) 教授)
相手国タイ王国 主要相手国
研究機関
チュラロンコン大学
研究課題の概要
本研究は、農業国であるタイに豊富にある農産資源や加工残渣などのバイオマス資源から、ガス化・触媒化学転換により高品位なバイオ燃料・化学品を製造する技術を開発することを目的とする。具体的には、稲わらなどのような非可食系バイオマス資源・農産廃棄物を対象とし、触媒転換に適した合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を高効率に製造するガス化技術や得られた合成ガスから各種高品位バイオ燃料を選択的かつ高収率で製造する高性能触媒の開発、バイオ燃料等製造試験、製品分析・利用検証等を行う。併せて、社会実装を見据えたLCA(ライフサイクルアセスメント)分析や全体システムの検討を行い、人材育成や情報発信にも取り組む。
研究課題名 マルチモーダル地域交通状況のセンシング、ネットワーキングとビッグデータ解析に基づくエネルギー低炭素社会実現を目指した新興国におけるスマートシティの構築 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
坪井 務
(名古屋電機工業株式会社 グローバル事業推進室 室長)
相手国インド 主要相手国
研究機関
インド工科大学ハイデラバード校
研究課題の概要
本研究は、交通量増加の著しいインドにて、エネルギー消費の低減と、低炭素スマートシティの実現に向けた研究開発および適応戦略手法の開発を目的とする。具体的には、情報通信技術を活用した交通量センシングで収集した交通ビッグデータと、交通信号機の動的制御を基に、人・モノの移動をシミュレーション解析し、エネルギー消費削減にむけた最適交通手段選択を情報端末に提供するシステムを研究する。研究成果はインド工科大学ハイデラバード校に構築する交通プラットフォームのシステム化とアーメダバード市内交通2路線での実証実験により、都市全体の低炭素効果のモデル構築と適応戦略手法へのフィードバックに活用し、標準化へのガイドラインとしてインド社会はじめ、アジア周辺地域にも適用可能なものとする。研究終了時までに産・官・学連携による地域コンソーシアムを中心に対象地域拡大と本仕組みを他の新興国への展開を目指すとともに、日本の高齢社会でのマルチモーダル化(複数の交通手段の連携)に生かす。

生物資源分野 研究領域「生物資源の持続可能な生産・利用に資する研究」

研究課題名 ストライガ防除による食料安全保障と貧困克服 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
杉本 幸裕
(神戸大学 大学院農学研究科 教授)
相手国スーダン共和国 主要相手国
研究機関
スーダン国立研究所
研究課題の概要
本研究は、サブサハラ地域に蔓延し食料生産を阻害する最も深刻な生物的要因である根寄生雑草ストライガのより汎用性が高く効果的な防除技術の確立を目的とする。最も研究が進んでいる自殺発芽誘導剤については、地中海沿岸を中心に分布する近縁のオロバンキへの有効性やイネへの応用を検証し、適用地域の拡大を図ることで経済性を高め社会実装を加速する。また、ストライガ種子の発芽時のエネルギーとして利用される糖の代謝を阻害する化合物を探索し発芽阻害剤の開発を目指すほか、スーダン側で探索される発芽を促進あるいは阻害する微生物について代謝産物から活性成分を同定するとともに、微生物資材としての社会実装にも取り組む。さらに、ストライガに含まれる有用成分を探索し有用植物として利用する方策を探る。スーダン人研究者との共同研究を通して天然物化学と分子生物学の基盤を構築して人材育成を図り、併せて近隣諸国への防除技術の普及を目指す。
研究課題名 遺伝子導入と肥沃度センシングの結合によるアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
辻本 泰弘
(国際農林水産業研究センター 生産環境・畜産領域 研究員)
相手国マダガスカル共和国 主要相手国
研究機関
マダガスカル農業省
研究課題の概要
本研究は、アフリカの風化土壌にみられるさまざまな養分欠乏に応じた施肥技術と養分利用に優れた革新的なイネの品種開発を統合することで、肥料投入が限られた地域のイネの生産性を大幅に改善することを目的とする。具体的には、アフリカ第2のコメ生産国であるマダガスカルを対象に、コメ生産を阻害する欠乏養分の評価法、リン欠乏耐性遺伝子PSTOL1など新規遺伝子の導入系統、圃場養分特性に応じた局所管理技術を開発する。さらに、開発技術の普及に必要な条件と農家所得・栄養改善への影響を明らかにし、技術マニュアルと普及への提言をまとめることで、マダガスカル農業省主導の普及活動に貢献することを目指す。また、参加型試験を軸に、技術に対する農家の主体性を醸成し、開発技術の定着と農家間の技術伝達を図る。一連の活動を通した人材育成と現地分析拠点の確立により、低投入低肥沃度環境のみならず、枯渇する肥料資源にも対応できる、養分利用に優れた作物生産技術の開発をリードする共同研究体制を構築する。
研究課題名 ブルキナファソ(コジャリ)産リン鉱石を活用した農業生産性向上と貧困削減 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
南雲 不二男
(国際農林水産業研究センター 生産環境・畜産領域 領域長)
相手国ブルキナファソ 主要相手国
研究機関
環境農業研究所
研究課題の概要
本研究は、ブルキナファソの在来リン鉱石を活用した国産リン肥料および地域適合型複合肥料の製造法を提案するとともに、その普及可能性を解明することを目的とする。具体的には、以下の4つの課題からなる。(1) 低品位のために従来原料として利用されてこなかった在来リン鉱石を加工し、安価で施肥効果の高いリン肥料、およびそれを主体としたNPK(チッ素・リン・カリウム)複合肥料の製造法を提案する。(2) 試作されたリン肥料および複合肥料の施肥試験から、施肥効率の高い施肥法を明らかにするとともに、対象地域において施肥栽培の普及可能性を解明する。(3)リン鉱石を加工せず直接利用するために、作物によるリン鉱石由来リンの吸収メカニズムを解明し、その知見を応用した技術化を図る。(4)これらの研究を通じて、リン鉱石の総合的有効利用法の技術パッケージの提案を行う。以上の研究成果をもとに、低投入型農業から持続的集約型農業への転換へ貢献することを目指す。
研究課題名 マリカルチャビッグデータの生成・分析による水産資源の持続可能な生産と安定供給の実現 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
和田 雅昭
(公立はこだて未来大学 システム情報科学部 教授)
相手国インドネシア共和国 主要相手国
研究機関
海洋水産省
研究課題の概要
本研究は、インドネシアのマリカルチャ(海面養殖業)をICTにより支援することでインドネシア政府の優先政策である地方開発を実現し、地球規模での水産物の安定供給に寄与することを目的とする。インドネシアの養殖業は高いポテンシャルを持つ一方で、大量へい死や環境破壊といった課題を抱えており、生産性向上と環境保全の両立が緊急の課題である。そこで、自然環境要素と社会環境要素を収集し、インドネシア海洋水産省との連携によってマリカルチャビッグデータを生成・分析することで、養殖業を最適化する。また、情報リテラシの教育訓練を通じて、漁村に技術指導者としてのリーダーを育成することで漁村の自立を促す。本研究では、マリカルチャビッグデータの活用による養殖業の高度化とそれによる雇用創出、所得向上を目指す。さらに、海洋水産省がシステムを管理運用し、養殖業を基盤とする漁村の経済発展に活用することで社会実装を図る。

防災分野 研究領域「開発途上国のニーズを踏まえた防災に関する研究」

研究課題名 ブータンにおける組積造建築の地震リスク評価と減災技術の開発 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
青木 孝義
(名古屋市立大学 大学院芸術工学研究科 教授)
相手国ブータン王国 主要相手国
研究機関
内務文化省 災害管理局
研究課題の概要
本研究は、ブータン伝統建築の耐震化指針と減災教育マニュアルを作成し、その運用を災害管理行政に組み入れ、地震に強い地域づくりに資することを目的とする。具体的には、版築・石積建築の耐震性能評価法を開発し、実大試験体を用いた静的・動的実験で検証する一方、新築および既存建物の耐震化に有効な補強方法や模範となる施工方法を確立し、併せて実施する地震ハザード評価の結果を加味した耐震化指針をまとめる。また、技術者・施工者講習によって指針を普及させ、住民教育により建物挙動と地域危険度に基づく避難行動を周知するなど、実効的な地震災害管理の枠組み作りを支援する。伝統建築の耐震性能向上を普及できる国内外の人材育成と起業支援を行い、地震に強い国づくりに協力し、将来的には、ブータン国民幸福度指標に地震災害に対する住民の安全確保を具体的に反映させ、災害脆弱性克服開発モデルとして他の国々にも寄与することを目指す。
研究課題名 フィリピンにおける極端気象の監視・警報システムの開発 研究期間 5年間
研究代表者
(所属機関・役職)
高橋 幸弘
(北海道大学 大学院理学研究院 教授)
相手国フィリピン共和国 主要相手国
研究機関
フィリピン先端科学技術研究所(ASTI/DOST)
研究課題の概要
本研究は、雷放電計測と超小型衛星を用いた稠密積乱雲観測システムにより、人命や社会活動に対する極端気象による被害を軽減することを目的とする。具体的には、フィリピン全土に雷放電電波受信機を、またマニラ首都圏に鉛直電場計測器と気象観測計器を組み合わせた稠密観測ステーションを設置し、全国および東南アジア全域の積乱雲および台風の活動動向と、マニラ首都圏上空の積乱雲発達状況を、リアルタイムで把握するシステムを構築する。同時に、超小型衛星のオンデマンド運用で得られる雲の画像を解析し、雲の立体細密構造を把握する手法を開発する。さらに、地上からの積乱雲観測と衛星による雲の観測データを統合することで、局所的な豪雨にかかるナウキャスト(防災気象情報)を可能にする技術を開発し、それに基づく警報システムの開発を目指す。