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別紙1

不正使用調査結果詳細

1.調査の概要および結果

大阪大学から研究費の不正疑惑に関する報告があり、JSTは不正の疑われる直執行研究費の取引実態などの調査を実施した。具体的には、平成16年度以降の研究機器などの全調達2,854件について、取引先企業(176社)から提出された売上台帳などの取引事実を証明できる証拠または大学から提供されたデータをJSTが保有する関係証拠書類と突き合わせた。また、調達に関与したすべての者(合計16名)および取引先企業(3社)に対して聞き取り調査を行った。

なお、大阪大学への委託研究費については、同大学により調査が行われた。

(1)調査体制

調査委員会は以下の構成(平成27年12月25日現在)で、5回開催した。

委員長:理事 甲田 彰 員:総務部長 倉田 栄一、経理部長 寺本 吉広、契約部長 岩田 一彦、研究公正室長 安藤 利夫、德永 良(三菱電機株式会社 社友)、内藤 貞夫(内藤貞夫法律事務所 弁護士)

(2)不正使用と認定した事業名および不正使用額

事業名 戦略的創造研究推進事業(総括実施型研究)
研究実施期間 平成16年度~21年度
不正使用額 85,246,405円
不正認定期間 平成16年度~20年度
事業名 戦略的創造研究推進事業(個人型研究)
研究実施期間 平成14年度~17年度
不正使用額 7,918,550円
不正認定期間 平成16年度~17年度

(3)不正使用の内容

上記事業の直執行研究費に関して、平成16年度~20年度までの期間に、取引先企業3社で合計93,164,955円の預け金および品名替があったことが判明した。

なお、私的流用は確認されなかった。

①当事者
  • 四方 哲也 大阪大学 大学院情報科学研究科 教授(元JSTプロジェクトグループリーダー)(以下、A元グループリーダーという)
  • B 元JSTプロジェクトスタッフ
②関与した取引先企業
  • a.W社
    1)期間:平成16年度~20年度
    2)不正使用額:71,904,875円
    3)種別:預け金および品名替
    4)内容:消耗品の架空請求および伝票記載と異なる消耗品などの納入
  • b.X社
    1)期間:平成16年度
    2)不正使用額:11,321,620円
    3)種別:預け金
    4)内容:消耗品の架空請求
  • c.Y社
    1)期間:平成16年度
    2)不正使用額:9,938,460円
    3)種別:預け金
    4)内容:消耗品の架空請求

(4)事実関係

A元グループリーダーの指示に基づきB元プロジェクトスタッフおよび事務担当のプロジェクトスタッフが預け金および品名替の実務処理を行っていたことを確認した。なお、A元グループリーダーは、B元プロジェクトスタッフなどへの指示を認めていないが、証言および資料からA元グループリーダーが預け金や品名替の指示を行っていたと判断した。

2.不正使用の発生要因

(1)納品確認者であった研究者が、発注の必要性を判断するプロジェクトスタッフと共同して不正を働き、取引先企業もこれに荷担した(平成18年度まで、研究者に納品確認を委ねる仕組みであり、チェック機能が不十分であった)。

(2)研究者、プロジェクトスタッフおよび取引先企業は、公的研究費を正しく執行するという責任感や倫理観が著しく欠如していた(平成24年度まで、JSTとして研究参画者に対する研究倫理講習受講の義務づけがなかった)。

3.再発防止策

(1)JST内部でのコンプライアンス意識の再徹底

①職員への研究倫理講習の実施
JSTのコンプライアンス月間などで、職員全員に対し、研究倫理講習を開催し、コンプライアンス意識を再徹底する。
②不正行為などの事例の周知徹底と注意喚起
不正行為などの事例および対応についてJST内の周知徹底と注意喚起を行う。

(2)研究者などに対して

①研究者などへの研究倫理講習受講の完全実施
採択された研究者および研究参画者には、平成25年度採択から全員に対し研究倫理に関するeラーニングの受講を義務づけてきており、この措置を継続していく。また、一定の期間内に受講の確認ができない場合には、確認できるまでの間、当該研究者の研究費の予算執行を停止するなどの運用を平成26年度より実施しており、徹底していく。
また、平成25年度から採択された研究者全員に対し、不正を行わないなどの誓約書提出を義務づけており、今後も継続していく。
②応募資格要件
平成27年度から、JSTの研究費に申請する研究者については、所属機関などで研究倫理講習を受けていることを応募要件とした。受けていない者は申請を受け付けないことにしており、今後も継続していく。
③研究者および研究参画者の委嘱契約および雇用契約の見直し
研究者などが不正に関与した場合には厳正な処分を課すなどの内容を平成16年度から応募要項に記載していたが、平成28年度からは契約書に追記する。また、各人に、適正な研究および研究費の執行、不正があった場合の厳正な処分など、必要な説明を行う。
④告発窓口の一層の周知
研究費不正の告発窓口の一層の周知を行う。

(3)研究機関に対して

①監査、実地調査などの強化
委託先の監査組織と情報交換し適切な監査が行われるよう働きかける。
②委託先への周知徹底
新規採択時の研究機関向け事務処理説明会などにおいて、「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」やJSTの事務処理要領の遵守を求めてきたが、さらに一層の徹底を図る。特に、a)発注者と納品確認者の分離、b)納品確認、検収の確実な実施、徹底、c)採択された研究者と経理担当者の連携を密にする、事務の透明化を図るなどの一層の徹底を要請していく。

なお、戦略的創造研究推進事業においては、現在は制度の改正に伴い、平成26年度限りで直執行を廃止し研究機関での執行(委託研究)に移行している。

4.処分

(1)職員

プロジェクトスタッフおよびJST本部職員については、JST就業規則などに基づき、処分を検討する。

(2)関与した研究者

関与した研究者については、「研究活動における不正行為等への対応に関する規則」に基づき、研究費申請資格の制限などの処分を検討する。

(3)関与した取引先企業

関与した取引先企業に対しては、不正金額の全額につき遅延利息を付加して返還を求めるとともに、「物品購入等契約に係る取引停止等の取扱規則」に基づき、一定期間取引停止などの処分を検討する。

(4)その他

「研究活動における不正行為等への対応に関する規則」に基づき、法的対応を検討する。

以上