中村 道治 理事長の後任として、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の経営を担うことになりました。皆さまのご支援をよろしくお願い申し上げます。
科学技術の振興とイノベーションの創出は、わが国の成長のためにはなくてはならないものです。また科学技術の振興・イノベーションの創出は、地球環境の変動や人口増加などの地球規模の課題解決にも大きく貢献するものであり、わが国に対する期待は大きいと考えます。JSTは、イノベーションのナビゲーターとして、わが国の科学技術の発展を牽引し、広く世界を先導する組織であると認識しています。私は、この責任の重さを自覚するとともに、大学や産業界の方々とさらに協働を深め、全力で職責を果たしてまいる所存です。
21世紀も15年を過ぎ、いま私たちは第4次産業革命ともいうべき大きな変革期、すなわち、情報通信技術の加速度的な進展を背景に、社会構造や産業構造の大転換期の最中にあります。このような時代認識の下、JSTは、世界の科学技術の潮流を的確にとらえながら、近未来をエビデンスに基づき予測し、人類社会に希望をもたらすイノベーションを生み出していく責務があると考えます。これまでに築き上げてきたイノベーション創出機能に磨きをかけるとともに、これを機敏に、柔軟かつ大胆に刷新していくことも必要でしょう。国立研究開発法人として、成果の最大化に最大限の努力を傾注してまいります。
このような中、JSTの理事長に就任するに際し、私が重要だと思う点を申し上げます。
第4次産業革命ともいわれる大転換期を迎える今、超スマート社会の実現が大きな課題となっています。この際、私たちはどのような社会を構築していくのかということを、さまざまな側面から考えなくてはなりません。超スマート社会を実現するための研究開発は、もちろんなくてはならないものですが、これを受容する社会との関係も多角的にとらえることが必要です。例えば、少子高齢化の進展一つをとっても、社会のあり方やニーズに大きな影響を与えます。私は、このような社会的な事象もとらえながら、近未来を予測した取り組みを行うことが重要であると考えます。この未来社会創成型ともいうべき取り組みにより、世界を先導する革新的なイノベーションを創出してまいりたいと思います。
科学技術を支えるのは「人」であり、人材育成は常に最重要課題だと考えています。研究者、PMやURAといった研究マネジメント人材、産学官や異分野をつなぐ橋渡し人材、企業家マインドを持つ人材など、現在の科学技術活動の質を格段に上げるため多様な人材が求められます。一方、多くの分野において、わが国の科学技術活動の質の低下が懸念されています。人材が最も育つのは、質の高い研究が行われる現場です。その意味で、JSTには格好の人材を育む現場がたくさんあります。JSTの全事業に、世界に通用する人材育成の観点を取り入れ、大学や産業界と連携し、わが国の研究開発人材の質と量を格段に引き上げたいと考えます。さらに、将来を見据えて、青少年の育成にも力を注ぎたいと思います。
イノベーションが効率的に創出され社会全体に展開していく、あるいは科学技術の成果がスムーズに社会の豊かさにつながっていくエコシステムを構築していく必要があると考えています。日本は、個別要素技術は強いものの、これをシステム化・統合化する部分が弱いといわれます。ベンチャー市場の未成熟など、さまざまな要因があると思いますが、COIなどの経験を生かしつつ、日本独自の、日本型イノベーション創出エコシステムを追求していかなければならないと考えます。また、同時に大切なことは、イノベーションの礎となる基礎研究に一層磨きをかけることです。JSTの、産学官をつなぐ個性的な存在としての特徴を生かし、他ではできない取り組みに果敢に挑戦し、日本を世界で最もイノベーションに適した国にする、言い換えればイノベーションの構造化を先導する組織として活動してまいりたいと思います。
以上、私が重要と思う点を申し述べましたが、これらの取り組みをはじめ、JSTの諸活動を進めるにあたっては、常にグローバルな視点を忘れないようにしたいと思います。科学技術は、本来的にグローバルな営みです。創造的な研究開発の推進、人材育成、エコシステムの構築など、すべての活動において世界の中でのインパクトや位置関係などを意識して取り組んでまいります。
また、もう1点重要な点があります。JSTの取り組みは、社会からの理解・信頼・支持を得ることが活動の大前提です。振り返れば、東日本大震災では、科学者コミュニティへの国民の信頼が十分に得られなかったという思いがあります。一方、科学技術に対する信頼性を著しく損ないかねない論文データの改ざん、剽窃、盗用が、近年頻発しています。1999年ブダペスト宣言で述べられた「社会における科学と社会のための科学」という言葉を改めて思い起こしつつ、JSTは、国民と研究者の間の対話をさらに促進するとともに、研究推進における透明性と説明責任を徹底していきます。
最後に、JSTが創造し、挑戦する機関であり続けるために、職員一人一人が協力して、そのアイディアと努力がしっかりと生きる職場になるように努めてまいりたいと思います。皆様方のご理解とご協力を、よろしくお願い申し上げます。
平成27年9月29日
濵口 道成
濵口 道成(はまぐち みちなり) | ||
昭和26年 | 2月 | 19日 生まれ (64歳) |
昭和44年 | 3月 | 三重県立伊勢高等学校卒業 |
50年 | 3月 | 名古屋大学医学部医学科卒業 |
55年 | 3月 | 同大学院医学研究科博士課程修了 医学博士 |
昭和50年 | 4月 | 大垣市民病院研修医(昭和51年3月まで) |
55年 | 4月 | 名古屋大学医学部附属癌研究施設助手 |
58年 | 4月 | 名古屋大学医学部附属病態制御研究施設助手 |
59年 | 7月 | 同助教授 |
60年 | 9月 | 米国ロックフェラー大学分子腫瘍学講座研究員(昭和63年8月まで) |
平成 5年 | 12月 | 名古屋大学医学部附属病態制御研究施設教授 |
平成 9年 | 7月 | 同アイソトープ総合センター分館長(平成13年7月まで) |
平成14年 | 3月 | 同大学院医学研究科附属病態制御研究施設長(平成15年3月まで) |
平成15年 | 4月 | 同大学院医学系研究科附属神経疾患・腫瘍分子医学研究センター教授 |
平成16年 | 4月 | 国立大学法人名古屋大学大学院医学系研究科副研究科長(平成17年3月まで) |
5月 | 同大学院医学系研究科附属医学教育研究支援センター長(平成17年3月まで) | |
平成17年 | 4月 | 同大学院医学系研究科長・医学部長 |
平成21年 | 4月 | 同総長(平成27年3月まで) |