JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第1067号 > 資料1
資料1

研究総括および研究領域

<研究総括>

齊藤 英治 (サイトウ エイジ)

(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構/金属材料研究所 教授)

<研究領域>

研究領域名:スピン量子整流

概要

電子の新たな自由度として、「スピン」を積極的に利用するスピントロニクスが、新しい電子技術として注目されています。従来のエレクトロニクスは電子の電荷のみを利用してきましたが、スピントロニクスではコマのような回転の性質を持つスピンを利用します。スピンの流れである「スピン流」は、大幅に消費電力を低減した不揮発性磁気メモリーや量子力学を応用した量子情報伝達を実現できると考えられており、さらに、スピンを用いたエネルギー変換技術など、多様な応用展開が期待されています。

本研究領域では、スピン流の本質的な機能を引き出すために、磁石中のスピンの回転方向が一方向に偏っているため、熱などの物質中のランダムな運動を一定の方向にそろえることができる機能(整流性)に注目し、これを基礎とした物質中のゆらぎの利用原理の構築と、スピンを用いた力学的・電磁気的・熱的エネルギーの流れの制御を目指します。物質中のミクロなスピンを記述する量子力学を、物体そのものの運動の影響を扱えるように拡張することによって、物質の物理理論における新しいパラダイムの創成に挑戦します。このパラダイムに立脚したスピン発電機、量子モーター、スピン回路技術を開発することで、スピン流に基づく科学技術、スピンを用いた新たなエネルギー変換方法を開拓します。これらの研究開発により、新たなスピントロニクス制御の理論構築、力学運動を組み込んだスピントロニクスデバイス・回路の創出、従来のエレクトロニクスでは不可能と考えられていた材料・機能デバイスの実現が可能となります。さらに本研究領域では、スピンの量子整流性を利用した材料内部におけるエネルギー変換や情報処理という新たな科学技術の概念を「スピン量子整流」として確立し、社会への展開を目指した革新的なスピン利用技術を開拓していきます。

スピンを用いてゆらぎを整流し、さまざまな形態での利用を可能とする