■ 概 要 ■ |
独立行政法人 科学技術振興機構(JST,理事長:沖村憲樹)は、戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけタイプ)の追跡調査を初めて実施し、8月12日までに調査結果をまとめた。
追跡調査は、平成8年度に研究を終了した研究者72名を対象に平成14年、平成15年に分けて実施した。その結果、平成15年度に調査した48名のうち6名(8人に1人)については、個人型研究の成果として発表した論文(主要な論文1報のみを追跡)が現在までに100回以上引用されていることが確認された。また研究者のコメントから、個人型研究独特の支援制度が、独創的な研究成果を開花させる契機となっていたことがわかった。
本追跡調査により、下記事実が明らかになった。
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個人型研究の成果として発表された論文の被引用件数の年次推移を調べたところ、被引用件数が顕著に高い業績を確かめることができた。例えば、大野英男教授(東北大学電気通信研究所)の磁性半導体に関する論文1 (ヒ化ガリウム基板に、ガリウム、マンガン、ヒ素を堆積させ、強磁性を示すヒ化ガリウム半導体の作成に初めて成功したもの)の被引用件数は、研究期間終了後に飛躍的に上昇し、単独で400回以上引用されている。また、大野教授の成果を含め、個人型研究の成果として発表された論文のうち、100回以上引用される論文を発表している研究者は、平成15年度に調査を実施した48名中6名(12.5%)いることが明らかになっている。こうした被引用回数が高い業績は、学術的に大きな影響を及ぼしていると考えられる。
1 Applied Physics Letters 69(3) 363-365 (1996) |
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研究者の獲得グラントの追跡調査から、研究終了後に新たに1億円以上のグラントを獲得して、大型プロジェクトを牽引している研究者(分担者を含む)が、調査対象である72名中16名(22%)いることもわかった。 |
個人型研究は、萌芽段階にある基礎研究に取り組み、将来の飛躍が期待される研究者を支援するJST独自の制度である。萌芽段階にある基礎研究は、研究期間中には必ずしも目に見える成果が得られるとは限らない。そのためJSTでは追跡調査を重視し、研究期間終了から数年後に研究テーマの発展状況や研究者の活躍状況を調査することで研究支援の効果を確かめている。本調査結果は、今後の事業運営や新規事業の提案に役立てられる。
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1.対象領域 |
平成3年度発足・平成8年度終了 3領域
研究領域 |
研究総括 |
課題数 |
構造と機能物性 |
高良 和武 東京大学 名誉教授 |
24件 |
光と物質 |
本多 健一 東京工芸大学 学長 |
24件 |
細胞と情報 |
大沢 文夫 愛知工業大学 教授 |
24件 |
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2.追跡調査の目的 |
終了研究領域の研究者・研究課題の研究終了後の研究活動、及び研究成果から、研究分野の開拓、及び参加研究者の成長等を調査し、今後の事業の運営の改善に役立てることを目的とする。 |
3.追跡調査の進め方 |
「光と物質」領域の調査は平成14年度、「構造と機能物性」「細胞と情報」領域の調査は平成15年度に実施した。追跡調査の進め方は以下の通りである。
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研究総括・領域アドバイザー・研究者の所属を確認 |
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研究者よりデータ(論文・口頭発表等)の収集 |
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不足する情報の補完、各研究課題の内容調査(「構造と機能物性」「細胞と情報」のみ実施) |
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一部の研究者に対するインタビューの実施 |
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領域アドバイザーの意見調査 |
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研究総括総評 |
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まとめと分析 |
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4.追跡調査結果 |
追跡調査報告書は、個人型研究に参加した研究者の研究の進捗状況の調査結果と、研究者や領域アドバイザー、研究総括からの制度に対するコメントをまとめたもので構成されている。研究の進捗状況については、 発表論文数等の統計データ、 個別の研究の状況・成果に関する調査である「研究サマリー(*)」、に分けてまとめた。統計データは、追跡調査の委託先機関による独自調査と研究者へのアンケートによって作成した。研究サマリーは、追跡調査の委託先機関の調査員が研究者の論文等を独自に調査してまとめた後、研究者に確認した上で完成させた。事業に対するコメントは、研究者等に対するアンケートとインタビューの結果をまとめた。
(*)研究の概要を、個人型研究の研究期間前・中・後の期間で区切って記述したもの。「構造と機能物性」「細胞と情報」のみ作成。
(1)統計データからわかったこと
統計データからは、研究期間終了後、その分野の第一人者に成長している研究者の実績を裏付ける数値データが得られた。例えば、「構造と機能物性」領域では、個人型研究の研究期間中に得られた成果に関する主要論文を追跡した結果、単独で425件の被引用回数が認められる成果が判明した(図1参照)。また、「細胞と情報」領域では、単独で被引用回数が100回を越える成果が5件以上あることがわかった(図2参照)。研究者の自己申告にもとづく獲得グラントの追跡調査から、調査対象者72名中16名(22%)の研究者が代表者あるいは分担者として1億円を超える大型プロジェクトの研究を牽引していることがわかった。例えば「細胞と情報」領域では、1件1億円以上のグラントを獲得できる実力者が、さきがけ研究者として採択される前は不在だったのが、さきがけ研究期間終了後は4名になっていた。
(2)研究サマリーからわかったこと
研究サマリーからは、統計データでは測ることのできない独創的研究の具体的な発展状況が明らかになった。例えば、HGF阻害因子を発見し、それを用いた新しい癌治療を目指すベンチャー企業を設立(「細胞と情報」領域 松本邦夫・大阪大学助教授)、大強度X線を発生する世界最小の卓上型シンクロトロンの実現と市場への投入(「構造と機能物性」領域 山田廣成・立命館大学教授)といったものがあげられる。こうした研究成果の実現は、個人型研究への参加が契機となっていることが、研究者へのインタビューによって、裏付けられている。
(3)制度に対するコメントからわかったこと
研究者、領域アドバイザー、研究総括に対するインタビューにより得られたコメントの中でも、多くの研究者から語られたものをまとめた結果、さきがけ研究制度については、(1)提案内容を重視する採択基準により、独創的研究を行う機会を研究者に提供できる、(2)雇用などを含めたJST独自の研究支援体制が、研究者に独立した研究環境を提供できる、(3)領域会議を開催することなどで研究者の交流を促進できる、という効果があることが確認された。 |
■ 追跡調査報告書 ■ |
下記URLにて公開予定。
http://www.jst.go.jp/kisoken/presto/seika/h3_tsuiseki/h3tsuiseki.html |
■ 問い合わせ先 ■ |
瀬谷 元秀(セヤ モトヒデ)
独立行政法人 科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第二課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8 川口センタービル
TEL:048-226-5641 FAX:048-226-2144
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