別紙2



「日本周辺の海洋環境および海洋生物データベース」事後評価結果


1.課題名

日本周辺の海洋環境および海洋生物データベース
(公開名:水産海洋データベース   略称:JFODB)
(URL:http://jfodb.dc.affrc.go.jp

2.開発・運用責任者

独立行政法人水産総合研究センター 中央水産研究所
 開発責任者:石田行正 (資源評価部長)
 運用責任者:渡邊朝生 (海洋生産部 上席研究官)

3.課題概要

 主に中央水産研究所に保存されている明治・大正から現在に至る膨大な海水温や塩分などの海洋環境調査資料と魚の卵・稚仔や魚体測定データなどの海洋生物調査資料を電子化しデータベース化した。水産海洋研究の研究素材を提供するほか、生データの保管庫となるデータベースが出来上がった。また、観測データの原資料を画像データとして収録したことにより、この画像を閲覧して検索したデータの品質や観測の状況等の電子化されていないテキスト情報を得ることが可能である。
 これにより20世紀初頭から現在に至る日本周辺海域の海洋環境、水産生物の生態の変遷をこれまでよりも格段に多い情報から解析することが可能となり、水産資源変動の機構解明、地球温暖化等の地球環境変動が水産資源に与える影響の解明を進める研究の基礎資料を提供することができるようになった。
 海洋生物関係のデータの多種多様さに対応するため、数値データとともに付随する情報を網羅的に入力し、観測原票にある情報をできるかぎり保持するようにした。また、海洋調査データ等の形式が固定されたデータについては一括してダウンロードできる機能を設けており、利用者は効率的にデータを入手することができる。
 本事業での海洋環境データの電子化により日本周辺海域の戦前の海洋観測データが大幅に増加し、特に沿岸域の海洋環境変動研究に貢献するものとなった。卵・稚仔や魚体測定データはこれまで未公開であったデータであり、水産資源研究の新たな発展をもたらす研究資源となる。

<データ項目とデータ量>
 
海洋環境データ
 定地観測データ 12万件(1921~1984)
 定線観測データ(定点・横断観測等) 66万件(1918~1993)
海洋生物系データ
 魚体測定データ 35万件(1936~1994)
 産卵調査データ 2万件(1949~1988)
 漁獲量データ 131魚種(1894~2001)
原資料の画像データ 19万頁
(平成17年1月現在)

<開発期間> : 平成13年10月~平成16年9月

4.アクセス状況

  公開時(平成16年10月)~平成17年1月末 : 8,798件

5.外部発表

 *開発中
発表年度 件数 備考
平成14年度 2件 月刊海洋 特集「水産海洋研究におけるモニタリング」他
平成15年度 2件 北太平洋海洋科学機構(PICES) 第12回年次会合他

 *開発終了後
発表年度 件数 備考
平成16年度 7件 水産海洋学会シンポジウム「過去1世紀の水産海洋データの発掘と利用」他

6.事後評価結果

6-1 当初計画の達成度
 わが国周辺の海洋に関しては、主として漁業上の関心から、古くから種々のデータが蓄積されてきたが、多くは紙の媒体であり、かつ様式、保存場所もバラバラであった。本計画はこれらのデータをデータベース化して利用者の便に供するとともに、データの散逸を防止することを目的としている。特に、温暖化等の地球環境変化が、海洋環境、海洋生物に与える影響を調べるには、過去のデータの利用が不可欠であるという観点に立っている。データ収集対象資料が多彩であり、データの種類により、重複データの排除、収録すべき観測地点の整理、電子化はしたが整理不充分でデータベースへの収録が遅れているデータ、新規発掘データの収録、当初計画外であったデータの収録等ばらつきはあるが、データベース全体としては当初計画を達成したと考える。とくに、漁獲量データ、原資料の画像データを収録したことは、データ保存の観点からも非常に意義があると考えられる。
 ただ、原資料が国内向けの調査資料のため英語版の完成が遅れており、早期の整備に期待する。

6-2 データベースの評価
 本データベースは、中央水産研究所に主として紙媒体で保管されていた歴史的観測・測定資料を発掘、電子化し、現代によみがえらせたという側面を含んでおり、データ整備の過程で新たに貴重なデータが発掘されたこともあり、過去100年以上に及ぶ水産海洋データと新しいデータとを結ぶことができるようになったことは評価できる。
 また、もともと異なる目的のために採取された多岐にわたる異質なデータを可能な限り収録するという考えで進められたことから、統一した概念に基づく整理は難しく、データベースの複合体として割り切った整理をしたことにより、むしろ使いやすいものとなっている。
 一方、機能面ではグラフ化やデータ区分別ダウンロードといった便利な機能があるが、対象件数が多い場合での検索時間の短縮、データの収録状況を予めよく把握しないと検索結果がゼロ件ばかりになるという傾向を回避するためのデータの存在状況に応じたプルダウンメニューの整備など今後の検索システムの改良を期待したい。

6-3 データベース化終了後の公開運用体制及び運用状況
 既に英語版の拡充、データ追加、生物系データのダウンロード、水産海洋学会シンポジウムでの当データベースについての発表内容の掲載等に対応中である。水産総合研究センターの平成16年度計画では「研究情報及び調査結果等のデータベースシステムの活用」を設定して取り組んでおり、また、運用担当者の役割分担が明確になっており、運用体制については問題ないと考える。
 平成16年12月の水産海洋学会研究発表大会では本データベースを中心としたシンポジウム「過去1世紀の水産海洋データの発掘と利用」が開催され、本データベースを活用したマイワシ資源急減の研究等、様々な研究への活用について議論されたこともあり、利用状況は当初想定した以上のアクセス件数があり良好である。

6-4 運用の今後の展開
 現時点では、利用者層は当該分野の研究者が中心であろうが、今後、海洋、水産分野での研究のみならず、環境問題、教育等に即した利用方法の開発を期待する。とくに地球環境にとって海洋データの整備は急務であり、データの整備と利用の広がりを進めることが必要である。ユーザソサエティを作り利用に関する意見を聞く場を持つ等の対応が望ましい。
 さらに、利用者層を拡げる手段のひとつとして、学問的な詳細な内容の解説とは別に、国民にアピールするような分かりやすい広報資料的な内容を持たせることも有効である。国内のみならず、海外の学会や雑誌での発表にも努めるべきであろう。
 水産資源等のデータ保護の観点からは多様なユーザの利用目的に合わせたデータベースの入口を用意し、セキュリティレベル等の異なる利用法を選択させるといったことも今後の検討課題であろう。
 データベース作成の経験に基づいて、今後のデータ採取について標準的な方法をフィードバックできるようになることを期待する。

7.総合評価

 100年に及ぶ膨大な海洋環境、海洋生物データを電子化、収録したものであり、データの種類により多少ばらつきがあるものの全体として当初計画どおりのデータ量に達している。このデータベースの公開が契機となって新たなデータが発掘されており、過去の貴重な観測データの散逸を防止して、保存と活用をはかるという目的から意義深いものである。
 運用面では運用体制も整い、当初の予想を上回るアクセスがあるなど順調に推移している。
 システム機能面で検索速度が遅いなど基本的な部分で改良の余地が残されているが、検索結果のグラフ表示、データのダウンロード機能等の便利な機能が導入されており、専門性が高いデータベースであることに加えて一般の利用者への広がりも期待できることから「良好」であると判断する。