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プレカーサープロセッシングによる新しい共有結合性セラミックス |
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状態図に基づく材料設計 −Si-B-C-N系セラミックス− |
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超耐熱材料の材料設計の基礎として、組成と高温での熱力学的安定性、プロセス制御に関わる平衡状態図の研究を4元系であるSi-B-C-N材料システムに対して行った。4元系状態図の構築にあたっては、各構成元素の組み合わせに対応する2元系、3元系状態図の実験的、数値データの最適化からCALPHAD法に基づいて行った。
Si-B-C-N系は室温で固相であるが、炭素とSi3N4との反応のため1484℃で窒素ガスが発生する。それ以上の温度では、C+BN+SiCでは2310℃まで、BN+SiC+Si3N4では1841℃まで安定である。熱力学的にはC+BN+SiC+Si3N4系は1484℃までしか安定ではない。3成分領域C+BN+SiCに近い組成の材料が2000℃までの安定性を示すと報告されてきた理由は、共有結合性相中の遅い拡散速度と特殊な微構造による動力学的な効果のためであろう。さらに、高温構造材料としての応用を目指す上ではC+BN+SiC+B4C系が2285℃まで安定であり、有望であることを見出した。 |
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高分子の構造設計と合成、分子構造と熱的安定性の関連 −Si-B-C-N系セラミックス |
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異なる分子構造をもつSi-B-C-N系高分子を合成する手法を開発し、高分子構造の違いによる熱分解過程と得られた材料の熱的安定性の関連を系統的に研究した。
高分子の合成経路として、モノマーから出発する手法(M)、ポリマーから出発する手法(P)、B[C2H4Si(R)H2]3(R=H,CH3)から出発する手法(D)を開発した。プロセス開発ではより高い合成収率、合成課程の容易さ、発生する副産物の取り扱い易さを目指した。合成した高分子は構造と合成手法の組み合わせにより、例えば、1M、3Dのように表記した。
高分子の熱分解によるアモルファスへの変換過程ではガスが発生する。高分子(2M)のメチル基を水素で置換した高分子(1P)と(1M)において、高分子からアモルファスへの高い変換収率(各々86.5%及び88%)が達成された。アモルファスへの変換収率は置換基Rで主に決定され、合成手法にはあまり影響されなかった。
高分子の熱分解過程のプロセスは固体NMRで調べた。水素とメチル基は300℃から500℃の温度領域で消失し、炭素は1050℃でsp2及びsp3の混成軌道結合を取った。
アモルファスのさらなる高温での熱的安定性は、高分子の種類により大幅に変化した。3P、4M、5M材料では窒化ケイ素組成のアモルファスが1500℃程度で分解してSiCが結晶化したのに対して、より窒素含有量の少ない1M、1P材料では1750℃でSi3N4とSiCが結晶化するものの、それらは2000℃まで安定であった。
Si-B-C-N系材料が、状態図で予想されるよりも高い温度まで熱的に安定であった理由は、SiC及びSi3N4のナノ粒子の周囲を層状のBN(C)相が、くるみの殻のように覆っており、Si3N4と炭素の反応による分解プロセスを抑制したためと考えられた。
Si-B-C-N系材料(1P、1M)の大気中における耐酸化性は、SiC及びSi3N4よりも優れていた。 |
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高分子からアモルファス、セラミックスへの変換過程の分子的プロセス |
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プレカーサー高分子からアモルファス、セラミックスへの変換過程を固体NMR、赤外分光、質量分析計により解析し、その分子機構を解明した。
ポリシラザンとポリカルボジイミドはプレカーサー高分子であり官能基R,R'となる、H(シラン結合)、HC=CH2(ビニル結合)、CH3(メチル結合)等の組み合わせに応じて、多種類のプレカーサー高分子を設計できる。
300℃以下ではビニル基の重合による架橋がおこる。それ以上の温度ではSi-C結合の均等開裂により、Si-H基とsp2混成軌道で結合した炭素が生成する。また、Si-CH3基のSi-C結合の開裂は架橋反応、及び、sp3混成軌道で結合した構造単位をアモルファス中に形成する。共有結合の開裂は炭素、水素、窒素を含む気体種を発生する。引き続く反応により、プレカーサー中のSi-C結合は次々にSi-N結合に変換されていき、[SiN4]4面体からなるアモルファスが1050℃で形成される。最終的にアモルファスマトリックス中に5から10Å程度の窒化ケイ素の粒子が析出する。熱力学的に安定な結晶相に対応する構造は、アモルファスの段階においても原子スケール、あるいは中距離スケールの構造においてすでに出現している。すなわち、Si3N4-C領域の組成ではSi3N4とsp2混成軌道のグラファイトが存在したのに対して、Si3N4-SiC-C領域では炭化ケイ素に対応する構造ユニットも含まれた。
さらに高温では、アモルファスから熱力学的に安定な結晶相へと相転移した。 |
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Si-C-O系セラミックスの合成と構造 |
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プレカーサー高分子からバルクセラミックスを合成する手法を、ポリカルボシラン(PCS)を出発原料として、Si-C-O三元系に対して開発した。
酸化架橋熱処理したPCS粉末の冷間等方圧成形体(CIP)を1300℃まで熱処理し、熱分解、セラミゼーションによりバルク形状のSi-C-Oセラミックスの合成に初めて成功した。更に高温での熱処理を進めると、この材料は均一なアモルファス構造ではなく、SiC、C、SiCxOyアモルファス相を含んだナノ複合セラミックスへと変化する。
シリカの熱炭素還元反応に類似したSiCxOy相の熱分解反応を巧みに利用することによって、SiCxOy相をSiCに変換した。すなわち、単一の化学組成をもつプレカーサー高分子から出発して、1500℃から1700℃での高温熱処理により、Si:C:O化学組成比を広範に制御したSi-C-Oバルクセラミックスを合成することに成功した。このSi-C-OバルクセラミックスのC/O原子比は、最近注目されているゾル・ゲル法によるSi-C-OガラスのC/O原子比よりも高く、より優れた熱機械特性が期待される。 |
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プレカーサー・セラミックスの高温変形挙動 |
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プレカーサーから合成された共有結合性アモルファスの高温変形挙動を圧縮クリープ試験によって調べ、金属ガラスの粘性流動の変形機構モデルによって共有結合性アモルファスのクリープ挙動が記述できることを見出した。
Si-B-C-N系アモルファス(2種類、Si3B1.0C4.3N2.0、Si3B1.1C5.3N3.0)とSi-C-N系アモルファス(2種類、SiC1.6N1.3、SiC0.6N)の圧縮クリープにおいて、いずれの材料でも時間と共にひずみ速度が変化し定常クリープが見られない点で、その挙動は共通であった。アモルファスは多孔質であり、高温では、焼結現象による収縮とアモルファスマトリックスの高温クリープとが同時に進行した。この複雑な挙動を解析するために、ひずみ速度を時間に依存する項と応力に依存する項の積であらわし、時間依存項の補正を行うことによって、応力に依存しない成分として焼結による収縮速度を、また、応力に依存する部分としてアモルファスマトリックスの高温クリープを分離して求めた。アモルファスマトリックスの高温クリープ成分は応力に比例する粘性流動であった。粘性係数は時間に比例して増加した。
金属ガラスの粘性流動の自由体積モデルでは粘性係数は、流動に関与する欠陥の濃度に反比例する。粘性係数の時間変化は流動に関与する欠陥濃度のアニールにより、自由体積が減少することに起因すると考えられている。金属ガラスにおける欠陥濃度の時間及び温度依存性を仮定することにより、粘性係数が時間に比例するという共有結合性アモルファスの変形特性を記述できた。さらに、粘性係数の温度依存性より計算した共有結合性アモルファス中での流動に関与する欠陥のジャンプ及び消失の活性化エネルギーは600kJ/molとなった。 |
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プレカーサー・セラミックスの高温変形と緻密化 |
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プレカーサーから合成したセラミックスは熱分解プロセス過程で必然的に発生するガスのために通常は多孔体となる。プレカーサー・セラミックスの高温変形を利用した熱間静水圧成形(HIP)を行うことにより、ち密なバルク・セラミックスを開発することに成功した。また、その高温での力学物性を調べた。
Si-C-N系多孔質アモルファス(SiC1.6N1.3)の高温圧縮試験より、高温変形によるち密化を達成するために必要な温度と応力の条件を決定した。ただし、Si-C-N系多孔質アモルファス・バルク体を1600℃、900MPaで熱間静水圧成形した場合には、微細な気孔は消失するものの、大きな空隙が粗大化して残留した。
プレカーサー・セラミックスの緻密化は、プレカーサー熱処理によって作成したSi-C-N系アモルファス粉末を900MPa以上の圧力で熱間静水圧成形することにより成功し、従来のSi-C-N系多孔質アモルファスに比べて20%以上の高密度化が達成できた。熱間静水圧成形の温度が1500℃の場合には球状のSi3N4粒子と帯状のグラファイト相が混合したナノコンポジット材料が得られ、1400℃の場合にはアモルファス相を主な相とする材料が得られた。ち密なナノコンポジット材料は1600℃以上の高温で塑性変形した。
緻密なアモルファス材料を作成するために、Si-C-N系材料よりもより高温まで熱的に安定なSi-C-N-B材料の熱間静水圧成形を行った。Si3.0C4.3N2.0B1.0のHIPにより、アモルファスマトリックス中に直径20nm程度のSi3N4粒子が分散した組織をもつ緻密な材料が作成できた。この材料は1650℃以上で大きな延性を示し、1750℃では4X10-3s-1と比較的高速での変形が可能であった。変形応力のひずみ速度依存性より、塑性変形にはあるしきい値応力が存在することを見出した。ひずみ速度は、変形応力からしきい値応力を引いた有効応力に比例し、アモルファス材料特有の粘性流動を示した。 |
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共有結合性セラミックスの超塑性 |
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超塑性におけるトポロジー変化のモデリング |
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超塑性変形における結晶粒の運動の3次元シミュレーションを行い、結晶粒の運動の軌跡がアモルファスや液体の粘性流動における原子の運動の軌跡と類似していることを示した。
多結晶体の粒界は複雑な3次元ネットワーク構造をもつ。この粒界ネットワークは、規則的でも、また、完全にランダムでもなく、正常粒成長状態にあっては、粒径分布はある自己相似的な形状を保持しながら変化する。粒界ネットワークのトポロジーは超塑性変形においては粒子の運動により、また、粒成長においては粒界の運動によって変化する。超塑性変形におけるトポロジー変化の素過程は粒子スイッチングである。剛体粒子がすべるとキャビティが不可避的に発生するので、破壊を起こさないで巨大伸びが生じるためには粒子形状が変化する必要があった。多結晶体の超塑性とアモルファスや液体の粘性流動との違いは、流動の単位が結晶粒か、原子もしくは原子クラスターかの違いによるものと考えられた。
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炭化ケイ素(SiC)の超塑性化 |
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共有結合性が高く、地球上で最も硬い物質のひとつであるSiCに対して、金属やジルコニアなどと同様な微細結晶粒多結晶体に固有の性質としての超塑性現象を発現させることに成功した。
平均粒子径30nmのβ-SiC超微粉末を、ボロン(B)とカーボン(C)を焼結助剤として添加し、1600℃、980MPaで熱間静水圧成形(HIP)することにより緻密なSiC焼結体を開発した。ボロンとカーボンを添加したB,C-SiCの粒径は270nm、カーボンのみのC-SiCは60nmであり、従来の材料に比べて一桁以上微細な焼結体が得られた。B,C-SiCは粒界すべりにより140%以上の超塑性伸びを示した。電子エネルギー損失分光により、粒界には微量のボロンが偏折し、その局所的な結合状態は炭化ホウ素(B4C)におけるB-C結合に近いことが明らかになった。また、焼結材料の粒界には微量の酸素も偏折していたが、粒界にアモルファス膜を形成するほどではなく、高温変形の初期段階で消失した。以上より、ボロンの粒界偏折が粒界すべりを促進したと推測された。B4C中のSi原子の拡散はSiC中よりも3桁速いことから、ボロンが偏折した粒界での拡散が促進されたものと考えられた。
共有結合性材料では、これまでに窒化ケイ素で超塑性が報告されてきたが、これらは粒界に存在する液相によって粒界すべりを促進することによって、超塑性を実現したものであった。本研究は、共有結合性セラミックスでも金属などと同様に、粒界液相の助けをかりない本質的な超塑性変形が可能であることを初めて実証した。 |
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液相粒界による超塑性変形の低温化 |
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高温での熱力学的安定性を向上させた組成をもつ液相を粒界に導入した液相焼結炭化ケイ素を開発し、より低温で超塑性伸びを実現することに成功した。
Al2O3,Y2O3,AlNを焼結助剤としたβ-SiC超微粉末の液相焼結によってち密なβ-SiC焼結体を開発した。粒界にはYとNを含むAl2O3-SiO2系ガラス相が存在した。ガラス相中におけるNの存在はガラス相の高温での安定性を向上させた。この材料の応力−ひずみ曲線は著しいひずみ硬化をともないながらも、窒素雰囲気中1775℃で170%に達する超塑性伸びが達成できた。変形後の組織は、圧縮試験の場合と引張試験の場合とで大きく異なった。圧縮試験後はガラス相が粒界に残存していたが、引張試験後ではガラス相は消失していた。また、圧縮試験後でも主にβ-SiCであったが、引張試験後は20%がβ相からα相へと相転移した。変形によって粒子は異方的な形状変化を示したが、変形の76%が粒界すべりによるものであった。 |
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粒界局所構造と化学結合の定量的解析技術の開発−SiC粒界への適用 |
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窒化ケイ素や炭化ケイ素の粒界に存在する薄いアモルファス膜の構造や化学結合状態を解明することは、高温での焼結、強度、超塑性等の現象を理解するための鍵となる。粒界化学結合に関する情報を得るために、粒界微小領域からの電子線エネルギー損失分光(EELS)スペクトルを分離して取り出すための解析手法と、粒界偏折元素量、粒界の“化学幅“の定量的評価法を確立した。さらに、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて炭化ケイ素粒界の解析に適用した。
粒界にアモルファス膜の存在する液相焼結 SiC
焼結助剤としてY2O3,Al2O3,CaOを含む炭化ケイ素(AYC-SiC)と、助剤がYAG(3Y2O3・5Al2O3)組成である炭化ケイ素(YAG-SiC)の粒界挙動を比較した。AYC-SiCでは粒界アモルファス膜にY,Al,Caが含まれた。高温変形後は、酸素が著しく消失し、アモルファス膜の厚みは減少した。粒界3重点でYAG相が析出し、アモルファス膜の化学組成は変化した。YAG-SiCでは、高温変形後、酸素とAlが蒸発し、アモルファス膜は消失した。アモルファス摸中でのAl−Oユニットは4配位あるいは6配位をとったが、シリカガラスにおけるsp3混成軌道による結合に比べて弱いことが、高温での粘性の低下、および、蒸発のしやすさにつながったと考えられた。
粒界にアモルファス膜の存在しないボロン、カーボン添加SiC(B,C-SiC)
B,C-SiCの粒界ではアモルファス膜は存在しなかった。粒界にはボロンが偏折し、また、結晶格子内に比べてSi/C比がカーボン過剰になっていた。このことはボロンがSiを置換する形で偏折することを示した。また、ボロンの化学結合状態はB4Cの化学結合状態に類似していた。ボロンの偏折量は単原子層に相当した。ボロン添加量を増加しても、過剰のボロンは粒界3重点にB4Cを形成することに使われ、粒界偏折量としては単原子層程度であった。熱間静水圧成形によって作成したSiC粒界には酸素も偏折していたが、高温変形中に酸素は蒸発して消失した。一方、ボロンは高温変形後も残存しており、単原子層程度の偏折量には大きな変化がなかった。以上より、ボロン、カーボンを添加した粒界は熱的に極めて安定であることがわかった。 |
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助剤無添加SiCの粒界解析 |
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助剤無添加でHIPしたSiCの粒界解析を行い、粒界にアモルファス膜が存在することを見出した。
EDS及びEELS分析により、粒界に酸素が偏折しているものの、Cと酸素の原子数比は10:1と小さかった。このことは粒界で見出されるアモルファス膜がSiO2ガラスではなく、SiとCが主体となったアモルファスであることを示した。この知見にもとづいて、従来、拡張粒界と主張されてきた助剤無添加SiC粒界のモデルを構築した。 |