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さきがけ「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」
研究領域事後評価報告書

総合所見

 「さきがけ」研究の果たすべき最大の役割は、国際的な研究開発競争において、わが国の優位性を引き続き保つ上での基礎となる優秀な若手研究者を育成することであろう。その中でも、Beyond CMOSを見据えた材料・プロセスの開発を目標とする本プロジェクトは、わが国の先端エレクトロニクス産業が引き続き国際競争力を維持してゆく上で極めて重要なものと位置付けられる。佐藤研究総括は、任務の重要性を良く理解して領域の運営に当たり、領域研究者が多くの優れた成果を生み出す上での指導的、中心的な役割を果たした。
 先ず課題の選定に当たっては、科学技術イノベーションの創出という戦略目標を踏まえて、単なる材料開発ではなく、デバイスへの展開を視野に入れた提案であるかどうかを重視している。また研究課題の採択後には、それぞれの課題の進捗状況を的確に把握し、必要に応じて有用なアドバイスを行っている。実際に、当初の計画通りには研究が進展しなかったものの、研究総括やアドバイザーの的確な助言により、当初計画に準じた成果を挙げることができた課題もいくつか見られる。さらに、異分野の研究者間の議論を活発化させるための様々な工夫を行っており、その努力は、通常の学会活動では得られないシナジー効果を引き出し、多くの共同研究において優れた成果として結実している。Beyond CMOSという共通の目標の下に、多くの優れた若手研究者が集まり、切磋琢磨して競い合ったことは、わが国の次世代の科学技術を担うリーダーを育成するという観点から極めて意義深いプロジェクトであったと言えよう。
 本研究領域においては、磁性誘電体中のスピン流を利用した電気信号の伝達、拡散理論限界を越える鋭い電流の立ち上がり特性を有するヘテロ接合トランジスタの実現、グラフェンを介したスピン流の制御、ダイアモンドを用いた室温での電流注入単一光子発生など、科学技術の進歩ならびにイノベーションの創出に資する多くの優れた研究成果が得られている。個人研究型の「さきがけ」において、科学技術イノベーションの創出という観点から見ても高く評価できる多くの成果が得られたことは、Beyond CMOSを実現するための材料・デバイスの開発という研究領域を適切なタイミングで設定し、その研究総括として、人物眼ならびにマネジメント能力に優れた佐藤総括を選定したことと、採択された領域研究者が、佐藤総括やアドバイザーの的確な助言・激励の下にそれぞれに能力を開花させたこととの相乗効果によるものと総括できる。

1.研究領域のマネジメントについて

(1) 研究総括のねらいと研究課題の選考
 研究総括が、シリコンCMOSを超える新しい原理で動作する革新的デバイス(Beyond CMOSデバイス)を実現するための材料・プロセスの研究という目標を具体例を挙げて明確に示し、「リスクがあっても挑戦的な提案を拾い上げる」という方針の下に選考を行ったことは極めて適切であり、Beyond CMOSを全面に押し出した大型プロジェクトがほとんど無かった時期に、若手研究者を中心とした本プロジェクトが行われたことには大きな意味と価値がある。また、Beyond CMOSに関する本命技術が見えていないことを考慮し、幅広い分野の人材を領域アドバイザーとしたことは適切な判断と言える。さらに結果的にCRESTやさきがけの研究者が多かったことも、経験者による的確なアドバイスが得られ領域運営にとって有効であった。選択された課題は、初年度にスピントロニクス分野のものが多かったが、次年度以後はワイドバンドギャップ半導体や有機・ナノカーボン材料などの分野の応募を増やすように意識的な広報活動を行ったとのことであり、3年間の通算としては、重点分野の課題がバランスよく採択されたと言える。

(2) 研究領域の運営
 研究総括は、領域会議やサイトビジットなどの通常の活動以外にも、研究者間や研究者とアドバイザーとの間で深い議論が行えるミニワークショップを多数回開催し、シナジー効果を高める努力を行っている。また、通常の半年毎の研究報告に加えて3ヵ月毎の報告を求めており、研究者に良い緊張を与えたものと推察される。さらに研究費に関しても、研究の進捗や研究環境の変化に応じて機動的な増額処置を講じており、これらの配慮は個々の研究者の高い研究業績として結実しただけでなく、理論家と実験家との共同研究や、得意分野を融合させた共同研究としても結実している。また、表彰・賞への推薦を積極的に行うなどして、研究者の頑張りをサポートしており、これらを総合すると、極めて密度の濃い優れた領域運営が行われたと評価できる。

2.研究成果について

(1) 研究総括のねらいに対する成果の達成度
 Beyond CMOSという研究ターゲットは、強いニーズがあり、世界中で多くの研究者が激しい開発競争を行っているにもかかわらず、現状では決定打といえる技術は得られていない。個人型の「さきがけ」研究により、この難しい分野で優れた研究成果を出すことは容易ではないが、本プロジェクトにおいては、スピン流デバイスやナノ構造ヘテロ接合デバイスなど、Beyond CMOSに対する一つの答となりうる重要な世界水準の成果が複数得られており、基礎的な現象の開拓・解明に力点を置く研究総括の狙いは十分に達成されたと評価できる。

(2) 科学技術の進歩に資する研究成果
 国際雑誌への論文掲載数339件、国際会議での招待講演195件、国内会議の招待講演122件など質・量ともに期待を上回る成果があったと言える。特に、国際会議での招待講演が10件を上回る研究者が7名もおり高く評価できる。これらの活躍は、本領域の研究者が学士院奨励賞や日本学術振興会賞をはじめとする若手研究者に対する重要な賞を多数受賞していることからも明らかである。具体的には、磁性誘電体中のスピン流を利用した電気信号の伝達、拡散理論限界を越える鋭い電流の立ち上がり特性を有するヘテロ接合トランジスタの実現、グラフェンを介したスピン流の制御、ダイアモンドを用いた室温での電流注入単一光子発生など、スピントロニクス、化合物半導体、ナノカーボンなどの分野で科学技術の進歩に資する多くの優れた研究成果が得られている。本領域で得られたスピントロニクスの成果をJohn Wiley & Sonsの学術図書として出版することになった点も科学技術に対する貢献として評価される。一方、有機デバイスに関しては、研究期間中におけるインパクトの大きな成果がやや少なかった。

(3) 科学技術イノベーション創出への期待
 プロジェクトの性格上、現時点において、具体的な応用に直接繋がった成果は無いが、この領域の研究課題のほぼ全てが将来のイノベーションを期待させる内容である。実用化に近い研究としては、Si基板上のGe膜による高性能n-MOSFETならびに受光デバイス、Ga2O3 基板上に作製したパワートランジスタなどがあり、やや先を考えると、上述した鋭い電流の立ち上がり特性を示すトランジスタや光配線技術につながるフォトニック結晶Siラマンレーザなどが有望である。Beyond CMOSの候補とされる技術は、材料、技術の成熟度などによって別々の学会で議論されることが多いが、本プロジェクトでは異分野の研究者が一堂に会して議論する機会が多く持たれており、この点も将来のイノベーション創出に向けた重要な成果と言える。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果の状況

(2-1) 研究総括のねらいに対する達成状況
特に優れた成果が得られた。

(2-2) 科学技術上の進歩や科学技術イノベーション創出への期待
十分な成果または萌芽が認められた。

(3) 総合評価
特に優れた成果が得られた。

4.その他

 特になし。

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