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CREST「先進的統合センシング技術」
研究領域事後評価報告書

総合所見

 社会ニーズと技術シーズをベストマッチングさせることで、センシング領域の基盤技術を創出し、社会実装を目指すという研究総括のねらいは、新しい試みであり、また、難しい目標でもあったが、「社会実装による社会への成果の還元」が重要であるとの研究総括の基本方針と研究総括の強力なリーダーシップの下、社会実装をイメージすることの重要性を理解させ意識改革を行うことで、基盤研究と社会実装のバランスをうまく取り、基盤研究と統合システム開発の両方で優れた成果を上げた実績は高く評価される。
 本研究領域は安全・安心を脅かす社会の危険や脅威の早期検知の観点より、センシング領域の基盤技術において優れた成果を挙げるとともに、統合システム開発、実証実験により社会実装に向けてポイントとなる礎を築いており、当該分野の深化、進展に大きく貢献したと言える。今後、本領域の研究成果は、著しい進展が期待されるセンサからクラウドまでのシームレスサービス(ソリューションの提供)実現へと展開されることが期待できる。
 また、社会実装を目指すという新しいトライアルで得た教訓(社会実装をイメージすることの重要性、基盤研究と開発のバランスの取り方、論文評価だけではない多面的評価等々)が、今後のCREST領域の設定や運営に活かされ、さらに、ブラッシュアップされることをお願いしたい。
 東日本大震災に象徴される社会の安全・安心を脅かす危険や驚異の顕在化の状況、あるいは、海外で頻発する犯罪・テロ等を考えると、本研究領域が設定されたことは時宜を得たものであり、領域設定の意義は大きい。
 板生清氏は、企業において光ディスクの研究とその実用化に20年間係った経験がある。その後、大学において、微小センサの基盤研究や環境モニタリング端末の開発研究にも携わった。また、関連国内学会の会長や国際標準化活動の経験もある。本研究領域の基本方針「社会実装を通して研究成果の社会還元を図る」は板生清氏の貴重な経験に裏付けられた使命感に基づくものであり本領域の研究総括として適任であった。そして、先進的統合センシング技術という、社会的重要性および将来の発展性が見込まれる分野の具体的な姿を示しえたことは、今後の社会に大きな効果を及ぼし得るものであり、特に優れた成果を挙げたと言える。

1.研究領域のマネジメントについて

(1) 研究総括のねらいと研究課題の選考
 安全・安心を脅かす社会の危険や脅威に対応するため、社会ニーズと技術シーズをベストマッチングさせることで、センシング領域の基盤技術を創出し、社会実装を目指すという研究総括のねらいは、従来基盤研究のウェートが高かったCREST研究領域の中では新しい試みであり、また、難しい目標でもあった。
 センシング技術の創出と統合システムへの展開を実現するため、ニーズを持つ人・組織、シーズを持つ人・組織、および機器・システムとして実現できる人・組織の相互連携を考慮した研究課題の選考方針は妥当であり、この選考方針の下、共通基盤技術として2課題、応用技術(危険物センシング、行動ナビ、ヘルスケア)から13課題とバランス良く採択されている。
 領域アドバイザーについては、産業界が若干少ないものの、全体としては、関連分野の研究者から専門、所属機関等のバランスを考えて、概ね適切に選ばれている。

(2) 研究領域の運営
 「社会実装による社会への成果の還元」が重要であるとの基本方針と強力なリーダーシップの下、中間評価会、サイトビジット、個別ヒアリング、意見交換会等で率直な意見交換を重ねることで、当初は基礎研究重視の参画研究者に社会実装をイメージすることの重要性を理解させ意識改革(社会実装をイメージすることは新たな研究課題の発見、その結果として、論文投稿の面でもプラス効果がある)が進められている。
 また、非常に広い領域設定であったにもかかわらずセンシング技術の創出を目標とする基盤研究と社会実装を目指すための統合システム開発のバランスをうまく取り、基盤研究と統合システム開発の両方で特に優れたマネージメントが行われている。
 併せて、研究費の配分も研究テーマの特徴を考慮しメリハリのある配分となっている。

2.研究成果について

(1) 研究総括のねらいに対する成果の達成
 本研究領域は、技術シーズと社会ニーズのマッチングによるセンシング技術の社会実装、即ち、研究成果の社会還元を目指しており、多くの研究チームが基盤研究に加えて社会実装に向けた統合システム開発、実証実験を行った。15の研究チームは、それぞれの分野で基盤技術において優れた成果を挙げるとともに、統合システム開発、実証実験により社会実装に向けてポイントとなる礎を築いており、研究領域全体として研究総括のねらいを十分に超える達成度にあると判断される。

(2) 科学技術の進歩に資する研究成果
 基盤研究と統合システム開発、何れの領域でも優れた成果を挙げているが、特に、センシング領域の成果が顕著である。例えば、完全無線動作が可能なマイクロセンサノード素子の開発(石田チーム)は、将来のスマートマイクロチップへ発展する可能性を持っており、さらなる展開のために、新たな研究所の設立に至っている。また、ボールSAWセンサを高度化した高感度ガスセンサ(山中チーム)は、災害現場・事件現場での原因物質検出に加えて、工業分野への適用も期待される。

(3) 科学技術イノベーション創出に資する研究成果
 研究成果の社会実装により科学技術イノベーション創出に資すると言う観点からはより多くの優れた成果が出ている。例えば、DNAチップを利用した生物剤自動検知システムの開発(安田チーム)は、警察庁に導入されるとともに、文科省・安全安心プロジェクトで実用化フェイズに入り、防衛省や内閣府からもテロ対策用として引き合いがある。
 本成果は生物剤以外への応用の可能性もあり、当該分野への貢献は大きい。また、電子トリアージシステム(東野チーム)は、位置把握により救急救命活動を支援するものであり、災害・事故時の人命救助に貢献するだけでなく、日常的な救急搬送時への適用も期待できる社会的インパクトの大きい成果である。次に、応力発光体を用いた安全管理ネットワークシステム(徐チーム)は、構造物全体を包括的に監視し、重大事故につながる破壊や劣化を早期に検知することを可能にし、社会実装が期待できる成果である。
 さらに、日常行動のセンシング、日常生活のモデリング、事故情報データベースを統合した研究(西田チーム)は、事故の予防支援に資するものである。高層ビルにおける地震の影響測定(藤野チーム)は、東日本大地震の時に用いられ新たな現象(高層ビルのねじれ)を見出すなどで社会的に注目されている。また、パラサイトヒューマンネットによる五感情報通信(前田チーム)は、医学部の学生指導のために使われており、医療関係の学会で引っ張りだこである。これらは国民生活の質の向上に貢献し、将来、社会実装を通して社会システムに変革をもたらす可能性がある。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果

(2-1) 研究総括のねらいに対する成果の達成度
十分な成果が得られた。

(2-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
特に優れた成果が得られた。

(2-3) 科学技術イノベーションの創出に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(3) 総合評価
特に優れた成果が得られた。

4.その他

 本研究領域の推進中に課題間の共同研究に至った例は数件であり少ない。研究の原理や対象を異にするグループが密な連携を行うことは従来難しいがセンシング技術マップの作成等を通して技術情報を共有したことによるシナジー効果を今後期待したい。
 また、センサからクラウドまでのシームレスサービス実現に向けて情報セキュリティー問題がより重要になることが予想され、今後の研究領域の設定に活かされることを期待したい。

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