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CREST「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」
研究領域中間評価報告書

総合所見

 有機、無機、また、生体物質から触媒に至るまで、分子レベルにおける精緻なナノ構造、機能をマクロレベルの材料の構造、機能へとつなぐ手法を探索する本領域のねらいは、領域の戦略目標に相応しく、今後科学技術イノベーションの加速に大いに貢献すると期待できる。総括の目標が、近すぎず遠すぎず(平易すぎず、また余りに未来志向でもない)、分野として広すぎず狭すぎず定められており、また、研究代表者も若手から中堅までがほどよく選ばれていることから、総合的に見て大変バランスの良い領域となった。CREST の領域研究の好例と言える。
 この目標の実現に向けて、研究領域運営としての努力のあとが窺え、研究総括のコンセプトは各チームに良く伝わっていると判断できる。個々の研究において、被引用数の多い論文の発表など、確実に科学的な成果が出ていると認められ、超一流の成果も見出されている。一方、繰り返しになるが、これらをマクロな分子システムまで結びつける方策が、プロジェクト全体の今後の課題である。
 研究課題の選考方針として、提案内容の戦略目標および研究総括のねらいなどの基本方針との整合性、科学と技術としてのレベル、将来性等が、重要な評価基準とされたことは適切である。領域アドバイザーも、選定された研究課題をカバーできるトップレベルの研究者が選ばれている。
 採択された研究者は、既に各分野において十分な実績を有しており、各研究チームの運営は研究者の自主性に任せ、総括や領域アドバイザーの指導・助言は、公開シンポジウムと合同会議で実施したのは理解できるが、全般的に見て、チーム間のより緊密な連携および高いレベルでの相互作用も望ましい。
 本研究領域は、ボトムアッププロセスでしか作り上げることのできない特異な構造、機能をそなえた高機能ナノ構造体の創出を目指しており、その実現は革新的な材料、プロセスを創出する上で極めて重要である。大半の研究者が、基礎研究と同時にこの目標に向けた努力も行なっており、新しい分野の開拓が期待できるので、本研究領域設定の意義は十分に認められる。特に、新規機能性材料、触媒の分野において、著しい発展が見られる。
 また、科学技術イノベーションへの展開に近い成果としては、自己修復材料、光応答性材料、燃料電池向け高分子膜、環境調和触媒、不斉合成触媒、光機能性材料、新規磁性材料、導電性材料などが開発されており、今後の進展が期待される。本領域の目的である分子の世界からマクロの世界への展開については現在進みつつあるが、領域全体としてさらに注力し、より一層推進されることを期待する。

1.研究領域のマネジメントについて

(1) 研究総括のねらいと研究課題の選考
 本領域研究総括のねらいは、分子レベルでの精緻なナノ構造・機能をマクロレベルの材料の性能・機能へとつなぐ手法を探索し、トップダウンプロセスとの有機的な結合を探ると共に、ボトムアッププロセスでしか作り上げることのできない特異な性能・機能をそなえた高機能ナノ構造体の創出を目指すところにある。これは、まさに領域の戦略目標である、ナノテクノロジーを活用したプロセスの高度化と統合化を進めることによる次世代ナノシステムの創製に適ったものである。これに向けて、分子および超分子レベルで実現しつつある精緻なナノ構造・機能を組織化・集積化して、マクロな「real world」において利用可能な高機能性材料につなぐ道筋をつけるという方針は極めてタイムリーで妥当なものである。
 このねらいを実現するために、バイオからマテリアルズまで、また基礎から応用までの幅広い分野から、科学・技術として優れており、また将来を見据えた高い志があるかということを基準として第一線の研究者が選考されている。これからの発展を重視し、シニアな研究者でなく40 代から50 代の研究者が選ばれており、適切な方針と判断できる。このような広い分野から厳正な選考を行なうために、全分野に亘ってそれぞれトップレベルの研究者が領域アドバイザーとして選ばれており、それを反映して、採択された研究課題も特定の分野に偏ることなく、バランスの良いものとなっている。

(2) 研究領域の運営
 本領域の運営方針として、上記の「ねらい」にある基本研究方針を各研究代表者に求めているが、同時に、当初目標と離れてもフレキシブルにあくまで科学・技術として高度な研究成果を追求するよう求めていることは好ましい。研究の進捗状況は毎年1回の公開シンポジウムにおいて、領域総括および領域アドバイザーとの討論を通じて把握されている。
 また、同じ戦略目標の下で推進されるCREST「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」、CREST「本領域」、さきがけ「ナノシステムと機能創発」の三領域の合同会議も開催され、各課題の研究者間の学術情報交換・相互啓発に役立ったと思われる。しかし、各研究代表者はそれぞれの分野における第一人者ではあるが、領域全体として見た場合、各研究チーム間でより活発な連携の推進、あるいは高いレベルで互いに影響し合うことが重要である。一方、研究費の配分も必ずしも一様に近いものではなく、研究成果に基づいて、より十分なめりはりをつけても良いのではないか。今後は、本来のねらいに沿って、また同時に、科学・技術としての質の高い内容の研究を奨励するという姿勢を堅持した進展を期待する。

2.研究成果について

(1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
 「分子の世界からマクロの世界への展開」という本領域総括のビジョンが明確に示されている点は大いに評価できる。このビジョンに対して、研究チーム毎に程度の差はあるものの、全体としての進捗状況は順調と判断できる。とりわけ、5つのチームの研究成果がScience、Nature およびその姉妹誌に発表されていることは特筆に値する。中でも、生体分子機能に関連するもの(浜地T、杉山T)、分子認識を使ったマクロな高分子ゲル間の選択的接着(原田T)、酸・塩基複合型超分子触媒(石原T)、キラルナノ分子ロッドを用いた高分子のらせん構造制御(杉野目T)、磁気化学を基盤とする新機能なの構造体(大越T)などの成果は、分子レベルの現象を、分子の組織化や集積化によるマクロレベルにつなげる先駆的なものであり、「分子の世界からマクロの世界へ」をうたう総括の「ねらい」に合致し、かつ世界をリードする傑出したものである。

(2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果等および今後の見通し
 個々の研究としては高く評価されるので、これから終盤に向けて本領域の目標である「マクロの世界(分子システム)への展開」を如何にして深化させ進めるかが今後の課題である。これをより一層推進することにより、新しい分野の開拓が期待できる。これらは他分野の研究を刺激し、ひいては科学技術イノベーションの創出に大きく貢献するものである。
 特に「高機能ナノ構造体の創出」は、21世紀物質化学、材料化学の中核を担うテーマであり、我が国がこれまで世界を先導してきたテーマでもある。「ナノ」を一時の流行に終わらせないためにも、国が継続して支援し、さらなる発展を促す必要がある。

(3) 懸案事項・問題点等
 採択研究代表者の研究の成果が、第1期に比べ、2期、3期となるに従い、明確に見えてこないように感じられる。これには、同じ領域で3年連続公募しても、1年目に漏れた有力者は2、3年目の公募前に他の大型予算を獲得してしまうことなどもあると考えられる。毎年の採択件数の傾斜をつけることなども検討に値するであろう。
 現状では、チーム間の連携は活発との印象は受けない。CREST 研究の意義の一つは「研究者がお互いの研究に刺激を受けて発奮し、異なる研究分野の間に新しい分野を開拓すること」である。この方向に沿った研究の展開を期待する。
 特にこの領域では幅広い分野が取り上げられており、これらの分野の間に新しい分野が開拓できる可能性があるので、その芽を育てるような配慮も望みたい。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(2-1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
十分な成果が得られつつある。

(2-2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果及び今後の見通し
十分な成果が得られつつある。

4.その他

 本領域の目標にそった成果は、最初に採択された第1期の研究者を中心に得られていると思われるので、これから研究が主に進展する第2、3期の研究者にも同様の成果を期待する。  ほとんどの研究は、基礎研究として高く評価できるので、応用研究に、またマクロの世界に、さらにもう一歩踏み込んだ研究の成果も期待する。
 個々のチームで優れた成果が上がっており取得した特許数も多いので、これで研究の終わりにはせず、1つでも2つでも産業の種になるような発展があっても良いと思われる。また、論文数や特許数などの量的なアウトプットだけでなく、そこから、プロセスインテグレーションの質的な指針や方向性が抽出されることが望ましい。
 本領域研究本来の大目的を達成するためには、同じ戦略目標の下に推進されている「ナノシステム」研究領域との連携を密にすることにより、ボトムアップ型のアプローチだけではなく、必要に応じてトップダウン型のアプローチも考慮してはどうか。それにより大きな戦略目標の達成に向けた展開が期待できると思う。
 総括の「交流と議論を通じて、グループ間が高いレベルにおいて影響し合うことが重要」という方針には特に共感を覚えるものがある。今後は、この精神を各研究者が十二分に認識して、さらなる躍進につなげてほしい。

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