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CREST「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」
研究領域中間評価報告書

総合所見

 アレルギー、自己免疫疾患は現在我が国を始めとする先進諸国において非常に重要な疾患であり、これまで長らく免疫学研究の主要な課題のひとつであった。このような状況下で、CREST大型研究の研究領域として、これらの疾患の解明と克服が正面から取り上げられたことは非常に意義のあるものと考えられる。
 これまですでに、死細胞処理機構の破綻による自己抗体産生誘発の発見、自己反応性病原性T細胞の中枢神経系組織への侵入機構の発見、アレルギー反応に関与する新しい好塩基球の機能の発見など、ヒトの自己免疫病やアレルギー疾患の病因解明や制御戦略に直接的につながりうる研究成果が得られており、これらは、対象疾患克服に向けての革新的なイノベーション創出の高いポテンシャルを有するものと評価される。
 領域全体の目標達成と疾患克服のための革新的なイノベーション創出に向けてさらに新しい観点からの独創的な研究を推進すると同時に、領域内外の多方面の関連疾患研究分野の研究者・臨床家や産業界との間の緊密で実質的な情報交換と連携を深めていく必要がある。そのために本領域全体としての出口戦略を策定しそれに向けてできるかぎり具体的なロードマップを設定することが望まれる。個別研究課題についても単に個別の業績にとどまらず、この出口戦略とロードマップに基づいた包括的評価を行い、それによって適宜軌道修正しつつ領域全体の目標達成と国民への具体的な成果還元に向けての効果的なマネジメントが推進されることを期待する。

1.研究領域のマネジメントについて

(1) 研究総括のねらいと研究課題の選考
 本CREST研究領域では、アレルギーおよび自己免疫疾患の発症機構の解明とそれに基づく治療技術の開発という非常に重要な医学的課題と目標が設定されている。このために主に免疫学領域で高い実績を有する研究者と一部の若手新鋭研究者の研究課題が選ばれており、各研究者が専門とする分子や細胞の先端的研究を切り口として上記疾患の解明と克服の具体的な手がかりを見出そうという方向性がうかがわれる。これまでの3年間ですでにめざましい研究成果が得られており、特に死細胞処理の分子機構解明とその自己免疫病の発症への関与にかかる研究、自己反応性の病原性リンパ球の中枢神経組織への侵入機構の研究、好塩基球のアレルギー発症に関わる新規メカニズムの研究などは、独創性が高くかつ直接に疾患病態発生機構に迫るものであり注目に値する。これら個別研究の優れた研究成果を基盤に、領域外の疾患関連研究(ゲノム解析、病態研究、バイオマーカー探索など)とも緊密な連携をはかりつつ、現実のヒト疾患克服をめざすという領域の目標に向けて、領域研究全体としての方向性を集約していくことが望まれる。

(2) 研究領域の運営
 研究進捗状況の把握と評価は十分になされ、研究費の配分も妥当と考えられる。今後の領域運営の大きな課題は、重要な疾患の解明と克服という目標達成のための明確な出口戦略の設定と、それに向けての個別課題毎および領域全体としての具体的なロードマップの作成であろう。これには、領域内各研究グループ間および領域外の疾患研究グループとのより緊密な連携を推進するための方策なども含まれるべきであろう。一部の研究課題では企業との開発共同研究が進みつつあることは評価されるものの、全体として特許件数はまだ少ないといわざるを得ない。本領域研究の推進には知財管理や技術移転は重要な要素であり、JSTとも連携の上この点についての一層の支援体制の構築が望まれる。総額50億円にもおよぶ大型プロジェクトであることに鑑み、実際の疾患の克服に向けての出口戦略と行程を明確にすることにより、終了時には目に見える具体的成果が産み出されることを期待する。

2.研究成果について

(1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
 大半の研究者の研究成果は、成果報告論文等を見る限りいずれも非常に高い水準にある。とりわけ、長田チームの死細胞処理機構の破綻による自己抗体産生誘発の発見、平野チームの自己反応性病原性T細胞の中枢神経系組織への侵入機構の発見、烏山チームのアレルギー反応に関与する新しい好塩基球の機能の発見などの研究成果は、各々ヒトの全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、およびアレルギー疾患の病因解明や制御戦略に直接的につながりうる高いポテンシャルを有するものでありさらなる展開が期待される。

(2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果等及び今後の見通し
 ヒトの難病の多くは多因子性であり、その病態解明には異なる多様な学術領域の融合によるアプローチが必要と考えられる。本領域での免疫学と細胞生物学、血液学、神経科学などを巧みに融合させた研究成果は、疾患克服のための革新的なイノベーションにつながる高いポテンシャルを有していると評価される。これらの優れた研究成果がヒトの疾患の制御や克服に直接貢献しうるような概念や新技術開発・創薬などのステージへと展開されることにより、医学医療分野での真の科学技術イノベーションがもたらされることを強く期待する。

(3) 懸案事項・問題点等
 多彩な研究課題が各々独自の方向へ展開しつつも、CREST研究の大きな目的に鑑みて現実の疾患の病因解明と制御に貢献できるよう、領域全体としての出口戦略をできる限り具体的に策定し、それにむけての包括的なロードマップを作ることが望まれる。これを基に各研究者が領域研究の目標を共有し集約できるようなマネジメントを期待する。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(2-1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
期待どおりの成果が得られつつある。

(2-2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果及び今後の見通し
十分な成果が得られつつある。

4.その他

 特になし。

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