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CREST「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」
研究領域中間評価報告書

総合所見

 文部科学省の再生医療実現化プロジェクト(II)は、再生医療実現化のためのiPS細胞研究であり、いわばtranslational researchを目的とした応用開発研究である一方、本CRESTは、iPS細胞研究に基軸をおいた基盤技術研究を目指しているという役割分担が明瞭である。ことに本CRESTでは、リプログラミング技術をより臨床へとつなげるという基盤を築くとともに、iPS細胞創出に続く生命科学の発展に寄与する第2、第3のブレイクスルーを狙っている点は大変魅力的であると言える。
 領域の運営方針は領域総括の強いリーダーシップを感じる素晴らしいものである。カナダの研究者との交流のイベントなど評価できる。選定された課題は必ずしもiPS細胞技術やリプログラミング技術に特化した課題ばかりではないが、概ね全ての課題について着実な研究成果が上がったものと評価できる。特にERATO「斎藤全能性エピゲノムプロジェクト」に移行した斎藤チームや、多能性の獲得メカニズムを深化させた丹羽チーム、西田チームなど、世界で高く評価される研究成果が上がったことは喜ばしいことである。その一方、CREST史上最大規模の23課題が採択されたものの、科学技術イノベーションに結びつくと思われるような成果はまだまだ少なく、当初狙っていた「iPS細胞創出に続く生命科学の発展に寄与する第2、第3のブレイクスルー」が出たという所迄にはまだ至っていないと思われるので、これからの益々の発展を期待したい。また、本CRESTは、拙速な臨床応用を目指すものではなく、基盤研究を重視しており、多くの優れた基礎研究者が採択されている点は十分理解できるが、実際の臨床への応用が見通せる基盤研究の成果は多くはない。今後、実際の臨床への応用や安全なiPS細胞の創出などの重要な課題の解決に資する基盤的な研究成果が生まれるようにこれからの進捗に期待したい。
 特に、岸本忠三先生が総括をされたCRESTにおいて山中伸弥博士のグループがiPS細胞の創出を行ったことが非常に高く評価されたように、本CREST終了後に、特徴的な成果が出たものと後々高く評価されるように、このCRESTにおけるタスクフォースをこれからでも考えるべきものと判断する。例えば、本CREST研究の売りとする質の高いリプログラング技術や人工染色体技術を用いて、CiRA山中グループが現在取り組んでいる細胞とは別個に、将来臨床に使うことのできる安全なiPS細胞が本CRESTから創出されるとするならば、これは将来に向けて大きな評価につながるものと考える。また、iPS細胞の造血幹細胞への誘導も未解決の重要な問題であり、このCRESTで真剣に取り組んで欲しいと考える。

1.研究領域のマネジメントについて

(1) 研究総括のねらいと研究課題の選考
 本研究領域は、課題として2つを掲げており、

を対象としている。しかし、研究総括のねらいには、上記の課題にとどまらず、<iPS細胞創出に続く第2、第3の生命科学におけるブレークスルー >を産み出すことも見据えてプロジェクトを遂行していることが見てとれる。上記課題に絞り込んだ場合に、尻すぼみになり、+αの未来が見えてこないからだ。上記の課題をこなせる研究代表者とともに、<研究代表者のマネジメントのもと周辺領域を含めた豊富な知見及び種々の要素について解析できる技術を兼ね備えたチーム>の参加も募り、iPS細胞の発展に貢献しつつ将来の発展に貢献できるメンバーも構成員に加えている。また、領域アドバイザーについても、当面の課題を理解した上で、iPS細胞に続く新たな地平を見据えられるメンバーを集めている。山中伸弥博士のiPS細胞もJSTが推進した「発生工学」などの実績の上に創出されたことを考えると、このような研究マネージメントが新たなサイエンスを醸成してきたJSTの良い面を支えきたものと評価できる。
 特に、文部科学省の再生医療実現化プロジェクト(II)は、再生医療実現化のためのiPS細胞研究であり、いわばtranslational researchを目的とした応用開発研究である一方、本CRESTは、iPS細胞研究に基軸をおいた基盤技術研究を目指しているという役割分担が明瞭である。ことに本CRESTでは、リプログラミング技術をより臨床へとつなげるという基盤を築くとともに、iPS細胞創出に続く生命科学の発展に寄与する第2、第3のブレイクスルーを狙っている点は大変魅力的であると言える。

 総括のねらい通り、広範囲な関連分野からの課題が採用されている。言い換えるならば、分化誘導、エピジェネテイクスの制御、発癌制御、生殖系譜の幹細胞、人工染色体技術、転写調節機構、遺伝子ネットワーク、ダイレクトリプログラミングなど、適宜のバランスで、幹細胞生物学を中心に概ね適切な研究課題を選定している。特に、ヒト人工染色体、ミトコンドリアゲノムの問題、など、他のiPS細胞研究費からのサポートがむずかしそうな課題を意欲的な採用していることが評価される。
 H20年度の公募当時は、iPS細胞研究領域そのものが進んでいなかったためにiPS細胞を基軸とした細胞リプログラミング技術のさらなる発展を目指した研究に加え、これまでの細胞分化研究、腫瘍化、epigenetics、大型動物を含む疾患モデル、遺伝子治療などの知見を活用した融合研究を目指した研究も対象に公募を行っている。同時に公募を開始した「さきがけ」研究領域「iPS細胞と生命機能」でも同様の傾向はあり、その時点のreasonableと考える。但し、このような状況下での公募選定であったため、課題中間評価の結果を見る限り伸び悩んでいる研究課題も少なくない。
 H21年度公募時になると、ある程度iPS細胞研究が浸透している状態での公募となっており、従来のiPS/ES細胞あるいは組織幹細胞研究の後追いではなく、新しいパラダイムを切り拓くような本格的かつ挑戦的な研究課題の公募を行っている。このような方針の変化は、研究領域の成熟度を考えるとreasonableといえよう。
 H22年度では、これまでの2回の選考結果を踏まえて、安全性の評価軸を含む腫瘍発生のない「安全な」iPS細胞作製方法の開発、iPS細胞の異質性に基づく標準化の方法論などある程度出口を見据えた観点を含めた公募が行われた所は注目できる。しかしながら、採択された課題がこれらの期待に十分に応えられそうかどうかについては、若干の疑問が残らない訳ではないが、細胞内のミトコンドリアの遺伝的多様性とiPS細胞化の問題など興味深いテーマが採択されている。今後のブレイクスルーにつながる事を期待したい。

 専門家不足を補うために、iPS細胞の発明者である山中伸弥教授を含めてスタートしたことは、評価できる。発生生物学、分子生物学、がん生物学、細胞生物学、基礎幹細胞生物学のトップサイエンティストを迎えた蒼々たるメンバーではあるが、臨床や創薬、疾患研究への応用の立場のアドバイザーがいない点は若干残念な所である。また、採択課題に臨床応用や疾患研究を目指した課題が稀少であることは、若干寂しい気がする。

(2) 研究領域の運営
 運営方針は研究総括の強いリーダーシップを感じる素晴らしいものである。毎年一回の非公開領域ミーティングを開催して、進捗状況の把握に努めるとともに、課題チームごとの情報交換の活発化を図ったとことは、評価される。また、全23課題の研究実施場所訪問を精力的にこなし、状況把握とともに個別の研究指導もおこなったことは高く評価される。カナダの研究者との交流のイベントなど評価できる。特に運営としては<課題の遂行>と<未来への投資>をパラレルに推進しており、当面の課題をプッシュする態勢を整えるとともに、国際シンポジウムの充実や若手の育成を行い、その結果として一流誌へ掲載された論文数が相当の数にのぼっているものと思われる。研究費の配分については、この評価書資料だけでは評価できないが、将来への投資として評価したい。今後の取り組みとして、<課題の遂行>と<未来への投資>がバランスよく推進されることを期待する。
 しかし、iPS細胞研究分野の爆発的な進展を考慮すると、非公開ミーティングの回数を増やしても良かったかと思う。また、他のiPS細胞関連研究費で行われている数多くの研究ともオーバーラップがあると考えられ、本CREST以外のiPS細胞研究費の授与者を含む情報交換会があれば、より、効率の良い進捗が図れるのではないか?
 課題中間評価の結果は、基礎研究者に手厳しく、希少価値のある「採択課題に臨床応用や疾患研究を目指した課題」には随分甘いように思えた。これは、やはり「採択課題に臨床応用や疾患研究を正当に評価できるアドバイザーがいないことに起因しているのではないだろうか?

2.研究成果について

(1) 研究総括のねらいに対する研究成果の達成度
 iPS細胞だけに狭く焦点を絞るのでなく、iPS細胞に将来役立つであろう発生学や幹細胞学等、広範囲に課題設定をした研究総括のねらいは十分に達成されていると考える。

(2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果等及び今後の見通し
 本領域全体として、一流紙への論文発表の多さ、また、論文の数においても基礎研究として十二分の成果が得られており、概ね全ての課題について着実な研究成果が上がったものと評価できる。特にERATO「斎藤全能性エピゲノムプロジェクト」に移行した斎藤チームや、多能性の獲得メカニズムを深化させた丹羽チームなど、世界で高く評価される研究成果が上がったことは喜ばしいことである。一方、CREST史上最大規模の23課題が採択されたものの、科学技術イノベーションに結びつくと思われるような成果はまだまだ少なく、当初狙っていた「iPS細胞創出に続く生命科学の発展に寄与する第2、第3のブレイクスルー」が出たという所迄にはまだ至っていないと思われるので、これからの益々の発展を期待したい。

(3) 懸念事項・問題点等
上記のように、iPS細胞研究に大きく寄与する研究がある一方、すぐにはiPS細胞研究には寄与しない研究課題もある。ただ、一定の基盤的研究がなされているので、これらの研究課題が今後iPS細胞研究にどのように寄与するのかについて、今後の進展に期待したい。
 一方、すでに書いたこととも重複するが、課題中間評価の結果は基礎研究者に手厳しく、希少価値のある「採択課題に臨床応用や疾患研究を目指した課題」には随分甘いように思えた。また、課題中間評価結果をみると、4-1研究の進捗状況および研究成果の現状の書きぶりと、4-3の総合評価の書きぶりが随分乖離している課題が散見する。
 また、本CRESTは、拙速な臨床応用を目指すものではなく、基盤研究を重視している点は十分理解できるが、実際の臨床への応用が見通せる基盤研究の成果は明確ではなく、今後、安全なiPS細胞の創出などの重要な課題の解決に資する基盤的な研究成果が生まれるようにこれからの進捗に期待したい。この点については、総合所見の「提言」で今後の対策を提案させていただいている。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われている。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(2-1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
十分な成果が得られつつある。

(2-2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果及び今後の見通し
十分な成果が得られつつある。

4.その他

 重複するが、このCRESTでの一番の成果は何か?と問われたなら、一言で答えられるような特徴的な成果を残りの期間で是非成し遂げていただきたいものと考える。
 文部科学省の再生医療実現化プロジェクト(II)は、再生医療実現化のためのiPS細胞研究であり、いわばtranslational researchを目的とした応用開発研究である一方、本CRESTは、iPS細胞研究に基軸をおいた基盤技術研究を目指しているという役割分担が明瞭である。ことに本CRESTでは、リプログラミング技術をより臨床へとつなげるという基盤を築くとともに、iPS細胞創出に続く生命科学の発展に寄与する第2、第3のブレイクスルーを狙っているものであり、是非それを成就できるよう、研究総括が十分なリーダーシップを発揮できるような体制に基づくタスクフォースの構築に期待したい。

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