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CREST「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」
研究領域中間評価報告書

総合所見

 二酸化炭素排出抑制に資すると判断される多様な分野の技術開発研究群について、ねらいを具体的に示しながら適切にポートフォリオ化し、バランス良い研究領域の形成と研究総括がねらいとしていた挑戦的かつ革新的な研究課題の採択に成功している。基礎研究から応用までを幅広く見渡すことができる領域アドバイザーの構成も適切であり、研究総括のリーダーシップとともに研究課題の適切な進捗に大きく貢献している。この研究領域が発足した後には、二酸化炭素排出抑制に関する類似のプロジェクトが多数開始されており、これらの先導的役割を果たしてきたものと判断されるが、一方で本領域の特徴を一層明示する努力も必要となっている。
 個別の研究課題については、それぞれ達成目標と達成度は異なるものの、いずれも製品化や社会システム等を最終的な出口としており、かなり良い成果が出ていると判断され、次のステップで取り組むべき課題を的確に抽出しながら、研究総括のリーダーシップの下で精力的かつ活発な取り組みを継続していただきたい。
本研究領域では、産業構造やエネルギーインフラ構造の枠組みにイノベーションをもたらすことを目的とした基礎的研究であり、その技術が2020~30年程度までに実用化された際、どの程度の排出抑制が期待できるかなど、定量的なシナリオを描くための基盤となるデータや情報の創出が期待されている。個々の研究成果から技術の発展性を汲み取り社会への適用可能性を示すとともに、領域全体として価値ある成果を生み出し社会にわかりやすい情報を発信するために、総合解析に力を注ぐなどの新たな作業負荷も発生する可能性があることを念頭に、実施体制も含めて具体的な方策について検討をお願いしたい。
 研究総括の狙いを具体化したポートフォリオを効果的に機能させるためには、研究課題を構成する各グループの研究者も含めた研究領域全体としての方向性と研究領域への参加意識の確認、意思疎通や情報交換を通したさらなる相互連携が推奨される。このような研究領域、機会を利用した人材育成は、長期的に見た本研究領域の目的・目標の具現化に大きく貢献するものであり、このための適切なマネジメントについても大いに期待される。
 総じて、本研究領域は二酸化炭素排出抑制に向けた科学技術イノベーションという壮大な目的に合致したプログラムとなっており高く評価できる。

1.研究領域のマネジメントについて

(1) 研究総括のねらいと研究課題の選考
 研究総括は、二酸化炭素排出抑制に資すると判断される上流から下流までの多様な分野の技術開発研究群について、ねらいを具体的に示しながら適切にポートフォリオ化し、成果が得られる確度の高い研究と、見通しに不確かさが残るものの完成時には大きな進歩が期待される非常に挑戦的かつ革新的な課題を組み合わせ、技術開発研究群の分野のバランスを取りながら、全体として挑戦的な研究領域を形成することに成功している。
 環境エネルギー技術の有効性を定量的に分析評価する俯瞰的研究課題も募集したことは意義深いが、風力、地熱、海洋エネルギーなどの分野とともにこの俯瞰的研究に関して、採択できる優れた課題がなかったことは残念であった。
 この研究領域で、基礎研究から応用までを幅広く見渡すことのできる領域アドバイザーの構成ができたことは高く評価できる。また、適切な領域アドバイザーと研究総括のリーダーシップの成果として、ねらいとする研究課題の選択がうまく行われたものと判断できる。ただし、ジェンダーバランスとして女性アドバイザーが少ないことを指摘しておきたい。
 この研究領域が開始されたから後、多くの類似プロジェクトが立ち上がって来ており、この研究領域が二酸化炭素排出抑制に関して先導的役割を果たしてきたものと判断される。
 但し、多くの類似プロジェクトが並行していることに鑑み、例えば個々の分野における研究開発目標と二酸化炭素排出低減との関係など、本研究領域の特徴を明示する努力が必要となろう。

(2) 研究領域の運営
 本研究領域では、研究総括と研究代表者の面談、領域アドバイザーとの意識合わせ、非公開領域会議、サイトビジット、公開シンポジウムなどが適宜行われており、研究進捗状況の把握、課題間の情報共有、社会への情報発信などを効果的に行う取り組みを、研究総括、領域アドバイザー、研究代表者が連携して行っていることは高く評価できる。
 採択された各研究課題を構成要素としてポートフォリオを効果的に機能させるためには、研究領域全体と個別課題との間の関係に加えて、個別課題間相互の有機的な関係を強めることが必要となろう。本研究領域の特徴を考えると、過大な連携を求めることは本来のねらいではないとも考えられるが、研究領域全体としての方向性と研究領域への参加意識を確認するとともに、研究チーム間相互の刺激や着想のためのヒントを得ることなども期待されることから、研究チームを構成する各グループの研究者も含めて、さらなる意思疎通や情報交換を通した相互連携を推奨したい。
 本研究領域では、将来の芽となる挑戦的な課題も積極的に採択されており、達成目標は研究課題毎に異なることから、CRESTとしての高いゴールに相応しい評価、かつそれぞれの研究内容や達成目標に応じた評価がなされるべきであろう。戦略目標達成に向けた最終的な取り纏めの方法については、一定の作業負荷も発生する可能性があり、実施体制も含めて具体的な方法について検討をお願いしたい。
 二酸化炭素排出抑制に係る比較的基礎的な研究開発を狙った本研究領域の推進は、この分野の将来を担う若手研究者の人材育成にも大きく貢献するものであり、人材を効果的に育成する観点からの適切なマネジメントについても留意していただきたい。

2.研究成果について

(1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
 個別の研究については、テーマによって挑戦的な目標の設定など達成すべき目標とそれに対する達成度の状況は異なるが、いずれの研究課題においても製品や社会システム等を最終的な出口としており、それに向かって進んでいる状況を勘案すると、全体として先進的な技術の研究開発に対する取り組みが精力的かつ活発に行われ、個別の課題について、かなり良い成果が出ていると判断される。
 ただし、各課題に於ける研究開発の進捗に関しては、曖昧な表現ではなく何はできているが何はまだというような見極めを明確に行い、次のステップで取り組むべき課題を的確に抽出する姿勢が必要であろう。また、数多くの類似プロジェクトと差別化を図るため、この研究領域ではどういう切り口で何を特色とし、到達目標を明らかにして行くのか等について、研究総括のリーダーシップのもとで、領域アドバイザー、研究者間で改めて確認していただく必要があると判断される。

(2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果等及び今後の見通し
 本研究領域では、現在の産業構造やエネルギーインフラ構造の枠組みにイノベーションをもたらすことを目的とした基礎的研究が実施されている。そして、その技術が2020~30年程度までに実用化された際、どの程度の排出抑制が期待できるかなど、定量的なシナリオを描くための基盤となるデータや情報の提供に至る研究開発の成果が期待されている。
そのような成果を得るための方策や見通しが必ずしも十分とは言えない部分もあり、今後、領域全体として価値ある成果を生み出すための具体的な体制や方法について、経済的な競争力の必要性など実用化の要件を意識しつつ検討をお願いしたい。
 今後の研究を進めて行く上で、得られた知見の知的財産権をしっかり守りつつ、学術領域にとどまらず幅広く世界に成果を発信するための取り組みが期待されており、否定的な結果が出た場合も含め、個々の研究成果から技術の発展性を汲み取り社会への適用可能性を示すことが必要であろう。すなわち、個別課題による多様な研究成果について、それらを社会的に埋もれさせないように、多様な取り組みを通して、その活用の意義も含めた社会への発信をしていただきたい。
 本研究領域の成果の取り纏めを行う過程において、開発技術の見極めと実際の二酸化炭素排出削減効果の推定は、相当の作業と研究的要素を含むものであり、研究総括とアドバイザリーボードを中心としながらもその実施体制を十分に検討し、必要に応じて強化することが望ましい。加えて、本研究領域を構成する研究者が大学関係者中心となっていることから、実用化や早期の普及を推進する意味において、民間企業との連携強化や情報交換なども推奨される。この成果の取り纏めでは、個別研究課題の成果を束ねるだけではなく、それらを有機的に連携した領域全体としての成果を、20-30年後を見据えて想定される社会像(ビジョン)とともに打ち出すことは価値ある取り組みであり、一般の人にも分かるような形で取り纏めが行われることを期待したい。
 本研究領域の出発点において「将来社会像を定め、その中に個別研究課題を当てはめる」という方法に基づいて研究課題の採択が行われたと判断されるが、本研究領域における成果の取り纏めにおいては、領域全体としての成果と併せて「個別の研究課題ごとに、それらの成果が生み出し得る社会像あるいは社会への貢献を示す」という考え方・方法も取り纏めの選択肢になると思われる。

(3) 懸案事項・問題点等
技術や社会システムなどに関して、現状での問題点、解決すべき点などを十分に把握しないままでの各研究の推進は、方向性を明確にしたポートフォリオを機能させるための障害にもなりかねないと判断されることから、研究領域全体としてのビジョンに基づく到達目標および方向性に加えて、研究領域全体と個別課題、さらに個別課題間相互の有機的な関係を継続的に確認しておく必要があろう。特に、各研究チームでの分担研究者が多い場合には、それぞれのミッションが正確に伝わらないままに研究が実施される場合も想定されるので、上記の確認が一層必要になるものと思われる。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(2-1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
期待どおりの成果が得られつつある。

(2-2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果及び今後の見通し
十分な成果が得られつつある。

4.その他

特になし

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