戦略的創造研究推進事業HOME評価戦略的創造研究推進事業における平成23年度研究領域評価結果について > さきがけ「ナノ製造技術の探索と展開」研究領域事後評価報告書

さきがけ「ナノ製造技術の探索と展開」
研究領域事後評価報告書

1.総合所見

 さきがけ研究が、若手研究者の育成とイノベーションに資する研究開発という、必ずしも相互に整合しない2つの成果を目指している中で、研究総括の横山直樹氏は官学の研究者を良く取りまとめ、分かりやすい研究方針の設定と、バランスの取れた領域運営により、優れた成果を得ることに貢献した。具体的には、研究総括は領域アドバイザーの協力の下に、意欲の高い研究者の課題を広い分野から適切に採択し、ユニークな基礎研究、あるいは工学的に利用できる技術研究を奨励するという明確な方針を示すことにより、人材育成ならびに研究業績の両面において優れた成果を挙げた。また、研究報告会、現地視察を頻繁に行い、異分野の研究者間の共同研究を奨励することにより、良好なシナジー効果をもたらした。これらの運営方針が実を結び、単結晶サファイア基板上へのグラフェン膜のエピタキシャル成長、電荷移動度の高い被覆共役ポリマーの合成などに代表されるように、多くの優れた研究成果が得られている。このプログラムが大きな成果を挙げたことは、プログラム終了時において、教授・客員教授への着任者が4名、准教授への昇任者が8名と多いこと、プログラムの成果に基づいて10名の研究者が新しいプロジェクトを立ち上げたことなどからも明らかである。

 敢えて不足と感じた点を挙げると、「ナノ製造技術の探索と展開」という研究領域に対して研究総括が期待している理想像が、説明からは十分に伝わってこなかったこと、製造技術という領域名にしては、領域アドバイザーならびに採択者に製造現場に近い産業界の人材が少なく、その分製造技術の完成度がやや低かったことなどであろう。

2.研究領域としての研究マネジメントの状況

(1) 研究領域のねらいと研究課題の選考
 選考方針:「ナノテクノロジー重点化政策開始後5年を経て、実験室の試行段階から本格的実用化に繋がる新しい製造技術群の創出」という極めて難しい戦略目標の下で、研究総括が、(1)ユニークな基礎研究、あるいは(2)工学的に利用できる技術研究という分りやすい研究目標を示し、これに基づいて意欲の高い研究者の課題を広い分野から適切に採択したことは評価できる。
 領域アドバイザーの構成:本領域の幅広い研究分野を6つに分類し、それぞれの分野における専門家を産官学の機関から適切に選任していると評価できる。これらに加えて、企業の製造部門に近い適任者にもアドバイザーを委嘱すれば、本プログラムで研究開発された製造技術の完成度がより高まった可能性がある。
 採択された課題の構成とそれらの適切さ:研究課題は、該当する6つの分野から広く採択されている。また、基礎、探索、応用、およびそれらの組み合わせを指向した課題がバランス良く採択されており、適切な構成と評価できる。採択された課題には、すでに基礎技術が確立されていたものが多いが、中にはチャレンジングな課題も見受けられ、研究総括の意気込みが感じられる。一方、企業研究者が少ないこと(最終的にゼロになったこと)は残念であり、企業研究者が応募しやすい環境を整えることが今後の課題であろう。

(2) 研究領域の運営の状況
 運営の方針:若手研究者の育成とイノベーションに資する研究開発の両立を目指して、報告会、研究会、現地視察を定期的に実施し、研究総括として万全のプラットフォームを提供してきたことは高く評価できる。また、共同研究、連携研究を奨励することによりシナジー効果を高め、優れた研究成果に結び付けたことは評価できる。
 進捗状況の把握と指導:報告会、研究会、現地視察を通しての直接の議論のほか、半年ごとに研究進捗報告書の提出を義務付けており、進捗状況の把握と指導は十分に行われたと判断できる。
 課題間の連携の推進:共同研究、連携研究を奨励しており、その結果、異分野の研究者間の共同研究が実現し、シナジー効果が発揮された。いくつかの課題に関しては、実際に優れた共同研究の成果が得られている。また、現時点では直接的な成果に結び付いていなくても、このような研究者間の交流は、研究者にとって将来的に大きな財産になるものと思われる。
 研究費配分上の工夫:研究費配分に関する詳細な説明はなかったが、現地視察により得られた知見を基に、予想外の成果や地震被害に対して付加的な予算を配分するなど、研究費の弾力的運用を行ったことは評価できる。

3.研究成果について

(1) 領域のねらいに対する達成状況
 優秀な若手研究者に相応な予算を配分した結果、それぞれの研究に弾みがつき、単結晶サファイア基板上へのグラフェン膜のエピタキシャル成長、電荷移動度の高い被覆共役ポリマーの合成、単層マルチカラーエレクトロクロミック材料の開発など、領域のねらいに沿った多くの興味深い研究成果が得らたことは高く評価できる。高い達成度が得られたことは、内閣府最先端次世代プロジェクトに採択された4名を含め、約1/3の研究者がこのプログラム期間中に新しい展開の芽を育み、次のプロジェクトに採択されていることからも明らかである。
 ただし、個々のテーマを検証すると、カーボンナノチューブの研究がグラフェンの成長研究に発展したように、目標を広く設定した基礎研究において多くの優れた成果が得られている一方で、カーボンナノチューブのカイラリティー制御のような目標の明確な製造技術に関しては、道半ばの印象を受けるテーマも散見される。最終目標にまで到達しなかった課題は、採択時にそれだけチャレンジングであったとも言え、提案した研究者が今後大きく成長する上での貴重な経験になったものと思われる。

(2) 科学技術上の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待(研究成果または萌芽について)
 本プログラムによって多数の原著論文が出版されており、科学技術の進歩に資する大きな成果が得られている。これらの成果を実用化するためには、今後解決しなければならない多くの課題があると思われるが、研究総括の積極的な指導により特許も多数申請されているので、いくつかの成果に関しては、将来的に大きな経済効果をもたらす可能性がある。
 さらに、将来の日本の科学技術を担う優秀な若手研究者が多数育成されたことは、社会的価値が創出できたものと位置づけられる。研究総括や領域アドバイザーからの継続的な助言や、科学技術振興機構からの継続的支援によって、これらの研究者をさらに大きく育てることは、社会的価値を増す作業として重要であろう。

4.その他

 プログラム全体としての外部発表数は十分に多いと言えるが、個別に見れば国際論文誌に1報しか発表していない研究者がいたり、逆に30報を越える発表を行った研究者がいたりするなど、大きなばらつきがある。前者は明らかに少な過ぎるが、さきがけ研究が個人で行う研究活動であると規定していることからすれば、30報を越える発表の場合、どのような研究体制で行われた成果であって、共著者がそれぞれどのように寄与したのかを明確にする必要があろう。

 終了時評価を行うにあたり、研究総括の1時間程度の説明だけでは、優れた成果の紹介で終わってしまうので、プログラム全体としての良し悪しを判断することは難しい。本プログラムにおいては、研究総括が十分に任務を果たしたと評価できるが、今後のさきがけ研究事業をさらに良くするためには、研究総括の説明時間を長くするなどして、優れた成果だけでなく、むしろ問題点を積極的に提示してもらい、それについても議論し、記録に残すことが重要と考えられる。

5.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われた

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果の状況

(2-1) 研究領域としてのねらいに対する成果の達成状況
十分な成果が得られた 

(2-2) 科学技術の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待
十分な成果または萌芽が認められた

(2-3) 戦略目標の達成に資する成果の状況
十分な成果が得られた

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