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さきがけ「代謝と機能制御」
研究領域事後評価報告書

1.総合所見

 ライフサイエンスは、ゲノムそのものの研究からゲノム情報に基づく生体の成り立ちを生化学的に解き明かす段階に来ており、「代謝と機能制御」をテーマとする本研究領域はまさに時宜を得たものであった。研究課題の選考と領域アドバイザーの構成を見ても、今後の生命科学研究の流れを見据えた研究領域の位置づけとなっている。
 採択された課題は、いくつかにカテゴライズできるが、範疇① 脂質と脂質代謝物の分析技術とその生理活性、受容体、合成酵素に関するもの、範疇② 細胞内での脂質の働き、脂質膜生成、エネルギー代謝、pH制御、RNA代謝に関連するもの,範疇③ 病気、とくに、メタボリックシンドロームの発現に関するもの、範疇④ 植物、共生、微生物に関するもの、と多様であった。全体としてバラエテイに富んだ優れた人材が採用され、生活習慣病から植物の代謝まで含めた、幅広くバランスのとれた研究内容となっている。
 領域運営に関しては、研究領域全体の創造性が育まれ多くの若手研究者の育成に結びついた点について、研究総括のリーダーシップを高く評価したい。顕著な成果は、発表論文の量や質の高さ、若手研究者の期間中の昇進異動の多さなどの指標から窺える。
 本研究領域は、メタボローム研究の萌芽期に発足したものであり、方向性として、代謝物の体系的網羅的解析とともに代謝研究の新展開を起こすような個々の事象の追求という2つがあった。実際には、前者では脂質のメタボローム解析を発展させるとともに後者では細胞機能と代謝について新しい視点を持った研究を重視するという、戦略目標を大きくとらえた領域運営を行なった。この両者で若手の自由な発想と提案を尊重した結果、上記①から④までの各範疇で、独自の優れた業績を挙げた研究者を多数輩出しており、全体として、まことに、さきがけ研究にふさわしいものと高く評価できる。一方、脂質以外のメタボローム解析については、研究の水準から「さきがけ」での採択に至らなかったものが多く、インフォマティクスも含めこれらを基盤技術として育成していくことの重要性が浮き彫りになった。

2.研究領域としての研究マネジメントの状況

2.1. 研究領域のねらいと研究課題の選考

 「今後の生命科学研究の流れがポストゲノム研究へと移行・発展しつつあり、その一つの焦点が代謝による機能制御である」という位置づけ、及び研究領域のねらいが「エネルギー代謝基質、細胞膜構成成分、生理活性物質など、酵素蛋白質を介して産生される代謝産物の動態や機能の解明とその細胞機能制御への応用である」としたところは適切であった。 それにともなって、課題選考は、幅広い分野をバランスよくカバーし、研究の独創性・新規性を重視した内容となっている。
 採択された課題は、上述のように4つにカテゴライズでき、範疇① 脂質と脂質代謝物の分析技術とその生理活性、受容体、合成酵素に関するもの、範疇② 細胞内での脂質の働き、脂質膜生成、エネルギー代謝、pH制御、RNA代謝に関連するもの,範疇③ 病気、とくに、メタボリックシンドロームの発現に関するもの、範疇④ 植物、共生、微生物に関するもの、と多様であった。これは現時点での生命科学研究を先取りした選択であった。とくに、範疇①で、メタボローム解析を取り入れた様々な研究とその生化学的基盤を探索する研究を統合した選考をしたことは適切であったと言える。また、領域発足時点であった5年前に、メタボローム研究の重要さを見越して積極的に取り入れて来たことは先見の明があった。かつ、領域アドバイザーは、代謝分野をカバーした専門家で幅広く、バランスよく構成され、人選は適切であった。実際に、具体的な助言に加え、共同研究も展開されている。
 以上のように、研究課題の選考と領域アドバイザーの構成を見ても、今後の生命科学研究の流れを見据えた研究領域の位置づけとなっている。

2.2. 研究領域の運営の状況

 将来性のある優れた若手研究者が採用されており、研究総括が無理な統括を行わずに研究者の主体性を尊重し、研究者間の交流と連携により領域全体の進展と活性化を図る柔軟な領域運営がなされている。結果として、上記4つの範疇ごとに研究が連携し、まとまった業績を形成したと言える。
 また、進捗状況の把握と指導に関しては、例えば半年に一度、合宿形式の領域会議を開催して研究者をエンカレッジした。すなわち、進捗状況、研究環境変化に応じて、臨機応変に研究者を指導し、それに伴った研究費の配分がなされていた。
 研究費と人事面との関係について言えば、「さきがけ」研究の期間中に昇進や転出が起こりやすいが、それに積極的に対応しており、所属変更にともなう研究費配分にも工夫がなされていて、配分に関しては概ね公平であった。

3.研究成果について

3.1. 領域のねらいに対する達成状況

 メタボローム解析を含め、代謝による細胞制御機構を解明するという研究領域のねらいは十分にクリアーし、達成状況は期待以上であったと評価したい。
 上記範疇①では、一方で脂質代謝物の一斉分析法が確立されるとともに、他方でその関連酵素の生理的意義の解明が進み、また、いくつかの新規受容体が同定されるなど、目標の達成度は高い。また、範疇②では、細胞内での脂質の役割やオートファジーの形成機構についていくつか新しい知見が得られる一方で,ゴルジのpH制御やATPの可視化、ATPとリンクしたRNA合成制御、また、蛋白質の脂肪酸化機構の解明など、大きな業績が得られた。範疇③の病気との関係では、メタボリックシンドローム発症への炎症の関与とその機構について新規知見が得られるとともに、破骨細胞の形成機構、プリオンの凝集機構、酸化ストレスに対する防御機構などの一半が明らかになった。範疇④では、植物に特有な様々な反応の分子機構が明らかにされるとともに、アブラムシと細菌の共生関係、微生物の異物排出ポンプの生理的意義などで興味深い知見が得られた。さらに、エネルギー代謝のエピジェネティックな制御ネットワークの解明や、構造生物学と代謝生物学を結びつける研究など、新たな研究分野を開拓する成果が多数得られた。
 またメタボローム解析に関しては、LC-MS/MSを用いた脂肪酸代謝物の解析システムの確立が高く評価される。とくに疾病の病態代謝研究への発展が期待され、細胞膜脂質の分野、代謝系・心血管系分野でもLC-MS/MS, CE-MSが有効に利用されている。このように、本領域は、メタボローム研究のさきがけを拓き、代謝産物の新たな機能を明らかにしたと言えよう。
 今後は、本さきがけ研究領域に採用された若手研究者が中核となって、日本の研究をリードして行くことが期待される。

3.2. 科学技術上の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待

 上述したように、本「さきがけ」研究領域では、代謝産物の持つ新たな機能に関し、新分野を切り拓く数々の発見がなされ、科学技術上の進歩に資する成果が得られた。また、これに加え肥満のメタボローム研究や新たに見出した転写因子を介する脂質・エネルギー代謝の制御機構などいくつかの研究成果は、生活習慣病の病因解明や動脈硬化の治療法の開発に直接結びつくものであり、社会・経済的価値の創出に寄与するものと評価される。
 植物分野に関しても、二次代謝酵素の機能改変や機能付加による研究、気孔開閉と青色光受容体、植物の病原菌の攻撃を防ぐ為の過敏感細胞死、植物の光屈性とオーキシンの輸送、ブラシノステロイドの情報伝達など、将来の植物の生長制御、バイオマス増産への発展が期待される。
 このように、本領域が対象とした研究課題は多様ではあるが、大きな科学的成果とともに、研究基盤の構築に貢献し、将来の医療やバイオマス産業への応用にも繫がるものと考えられる。

4.その他

 本研究領域のようなプロジェクトの成果が出るには、3年の研究期間直後では早すぎ、むしろ今後一層の進展が期待される。また、将来的には本研究領域で得られたデータベースを公開し、研究者がネットワークを簡単に利用できる体制を整えることが必要であろう。

5.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果の状況

(2-1) 研究領域のねらいに対する達成状況
十分な成果が得られた

(2-2) 科学技術上の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待
十分な成果または萌芽が認められた

(2-3) 戦略目標の達成に資する成果の状況
特に優れた成果が得られた

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