戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成22年度研究領域評価結果について > CREST「実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブル・オペレーティングシステム」中間評価

CREST「実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブル・オペレーティングシステム」
研究領域中間評価報告書

1.総合所見

意義:近い将来、多数のモバイル情報端末、車載機器、ウェアラブルコンピュータなどの小規模組込システムがネットワークで接続された情報社会インフラが構成されると予測される中で、ディペンダブル組込みシステムは必須の要素であり、本研究領域でテーマとしている高い信頼性、性能、セキュリティを実現するための次世代基盤技術を、実用化を視野に入れ開発するという達成目標を設定する意義は大変大きい。

寄与:オペレーティングシステム(OS)を狭義のOSに限定せず、システムのアプリケーションを支えるすべてのプログラム層と捉え、アーキテクチャから仕様書・実装ガイドライン、マネジメントプロセス、フレームワーク・開発環境・ツールなどの関連基盤技術を総合的に規定した「オープンシステムディペンダビリティ」という概念を示したことは当該分野の進展に寄与する重要な成果であると言える。そこではまずディペンダブル・システムの持つべき要件を明確にし、その実現のための要素技術を研究開発し、オープンシステムに不可避な障害発生を予知・分析、フィードバックしてより高い信頼度へと改善していく枠組みを提案している。さらに組込システムに特徴的なリアルタイム性の確保と、悪意ある外部からの攻撃に対する防御構造まで配慮している点は実用性の点で重要である。さらに最終目標として成果を統合した実用レベルのOSを実現し、オープンソースとして公開し、国際標準化に寄与するとしているが、大変、野心的アプローチであると考えられる。

提言:各課題において設定した個別の問題点を解決することは必要であるが、高信頼性の実現では想定外の問題が一つでも残ればシステム全体の信頼性を保証できない。想定すべき問題を網羅的に調べ上げる研究が重要であり、世界の同様の研究の中での位置づけと優位性を明確にし、より高い信頼性の中身と品質を保証する実証研究が必要となる。言い換えれば地球環境システムから医療介護システム、交通システム、情報家電等の幅広い組み込みシステムでの応用の視点で、本研究成果で達成可能な機能、性能、ディペンダビリティ、セキュリティの品質を明らかにし、各種適用分野との適合性を明確にしておく必要があると思われる。また実用レベルのOS開発を目標にする場合でも、デモのために多大の労力を費やすことや実用に至る技術開発すべてをこのプロジェクトの中で行うことは、事業の性格や規模の点から適切ではない。今後のフェーズにおいては、コンソーシアム等を通じての技術普及と、さらには本技術を採用した実用システムへの技術協力に注力し、それらの実績を通じてオープンシステム向きディペンダブルOSの世界標準化に寄与することを期待する。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考について

ねらいと選考方針:分散型情報システムのディペンダビリティの向上を目指し「オープンシステムディペンダビリティ」の概念を提示し、個別研究成果の実用化とともに、全体を統合した実用化OSを開発しオープンソースで公開する最終目標は、情報基盤構築のためのニーズとシーズの両面で高く評価できる。他方、提唱する「オープンシステムディペンダビリティ」がカバーする組込みシステムについて具体的製品・システムのカテゴリを明らかにし、研究成果の信頼性向上への寄与を明確にされたい。課題選考では学術的成果への期待とともに、上記最終目標に向けて研究統括の強い統率・運営を宣言して選考している。この結果、平成19年度は課題採択を断念している。

採択課題の構成:平成18年度ではディペンダブルOS関連を2件、バッテリ携帯端末を1件、ネットワーク関連を1件、ソフトウェア検証関連を1件採択しており、一部に領域の研究方針と若干のずれが見受けられるものの、チーム横断型の「コアチーム、サブコアチーム」を構成することで、目標に向けた研究推進の母体となっている。平成20年度には実時間並列OSを1件、セキュリティ関連を2件、利用者側の視点を1件採択しており、本研究領域の目的達成に適合し概ね適当であるが、最終的に統合実用化OSの中に有効に組入れられることを期待する。

領域アドバイザーの構成:分散型情報システムのディペンダビリティの向上を目指す上では妥当である。あえて言えば組込みシステム分野の専門家の強化が望ましい。

3.研究領域のマネジメントについて

運営方針:本研究領域では個別課題の採択段階から、最終成果とその実用化を見通した方針をとっており、結果志向の運営方針となっている。ディペンダブルOSの概念の構築から評価基準に至るまでを目標としたことは意欲的である。DEOSプロセスの概念を導入し派生するさまざまなフレームワーク、ツールまで目標に含めたことは適切であり、課題間連携の推進上も高く評価できる。実用システムを開発しオープンソースで公開のためにDEOSセンターを設立し開発推進体制を整備したことは大変評価できる。

進捗把握と評価:領域会議、研究推進委員会、領域合同合宿、シンポジウムなど、多くの機会を設けて進捗把握と評価を行ってきている。

連携の推進:研究統括の強力な指導のもとで研究チーム横断型のコアチーム、サブコアチームを構成して連携を促進している。DEOSセンタ設立は連携と成果実現の中心と考えられ、最終成果が期待される。なお個別課題間の連携では共通インターフェースや仮想化技術、検証技術等を通じて連携促進が期待されるものがある一方、ネットワーク関連やバッテリ携帯用端末関連等、今後更なる連携強化が望まれる部分も散見される。

研究費配分:概ね適当と思われが、各研究テーマの進捗(研究内容の世界に対する優位性等)や実用化ロードマップなどを示していただかないと正確には評価が困難である。

今後の取り組み:予算面では最終目標に向けDEOSセンタの活動費により重心を置くべきかと思われる。個別課題の成果では実用OSに反映できる部分を明確にし、資源を集中することが望ましい。また今後、如何に企業側の関与を深めるかを検討願いたい。

4.研究進捗状況について

①基礎的な問題解決の点では、順調に成果を達成しつつあると考えられる。ディペンダブルOS実現のための概念形成や開発手法の枠組み等をホワイトペーパとして2度に渡り公開しており、「DEOSプロセス」や「オープンシステムディペンダビリティ」の概念を示したこと自体が重要な成果と言える。また領域研究を統合するアーキテクチャを構想し、それを具体的に設計できるレベルまで詳細化する過程に企業からの研究推進委員等が参画しており、ここで得られたさまざまな知見は、我国の当該分野の進展に寄与するものと期待できる。コアチーム、サブコアチーム、さらにDEOSセンター等、チーム間連携の母体が整備されていることは評価できる。他方、各個別研究チームで行っている要素技術の開発の進捗は資料等からは読み取り難いものもあり、進捗はまちまちと思われる。現在のところ特許数も少数に留まっているが今後に期待したい。なおPCIeネットワーク・プロセッサの開発等、個別課題の研究は進んでいるものの、統合システムへの組み入れはこれからと思われるものがある。型論理とモデル検証のようにC言語への展開など、統合システムへの寄与のための準備が整った段階と思われるものもある。今後のDEOSセンター等での有効利用を期待したい。

②ディペンダブルOSに関するホワイトペーパを2版に渡って出版しており、学術的にディペンダブル・システムのあり方に対する指針の一つを与えるものであり、この分野の学術的意義が高い。個々の技術課題の成果については多数の外部向けシンポジウム等で発表を繰り返しており、高い評価を受けたものもあり学術的貢献が高いと考えられる。社会・経済的観点ではデファクトスタンダードとなることが決定的な意味を持ち、機能、性能面で優れていても普及しなければ応用ソフトウェア開発も行われない。本研究の規模からみてプロジェクト単独でデファクトスタンダードの地位を確立することは大変難しいと思われるが、たとえばLinuxが果たしたような役割を果たす芽が出てくるような地盤を築くことを期待したい。またリアルタイムOSに限れば、例えば車載用のOSEK等の国際標準的OSとの連携など、世界標準OSとして採用されるための戦略が必要と思われる。

③運営上、サブコアチーム中の平成18年度採択の研究チームのメンバーは平成24年3月に研究を終了する。サブコアチームに割り当てられた課題が期間内に達成されるかどうかが懸念される。

 また全般的懸案事項として、(a)他の研究機関、コンソーシアムなどでの類似技術との比較・優位性、(b)出口となるシステムイメージ、 (c)各研究課題で取り扱うハードウェア/ソフトウェアの故障/エラー/障害モデル、(d)前提とするソフトウェア/ハードウェアのシステム構成、(e)優位化技術としての国際標準化へのシナリオ作り、等を早期に明確化されたい。

5.その他

 ディペンダブル・システムの実現にはハードウェア、ソフトウェアの協調が重要である。特にアプリケーションとハードウェアの中間に位置するオペレーティング・システムでは現実に即したハードウェア障害モデルに立脚し、ハードウェア・ソフトウェア一体としてのシステム障害発生防止と検出・回復機能を有するプラットフォームを実現する必要がある。この意味でソフトウェアに起因する障害については開発段階を含めかなりの程度の配慮がなされていると思われるが、ハードウェア起因の障害についてのモデルは必ずしも明確ではない。今日の極度に集積化され脆弱化したシステムLSIでは、その高度な性能と引き替えに電源雑音、温度上昇、バラツキ、経年変化など多数の障害要因があり、システムに与える影響も多様である。的確なハードウェア障害のモデルに立脚してハードウェアを仮想化し、トータルなディペンダブル・オペレーティングを完成されたい。

6.評価

(1) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(1-1) 研究領域のねらいに対する研究成果の達成状況
十分な成果が得られつつある。

(1-2) 科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果、及び今後の見通し
成果は得られつつある。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

■ 戻る ■