戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成21年度研究領域評価結果について > CREST・さきがけ混合型研究領域「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」事後評価

CREST・さきがけ混合型研究領域
「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」
事後評価

1.総合所見

 本領域は2002年の発足であるが、当時、超並列シミュレータの時代の到来が予想される中で、それを使いこなす高性能計算技術の開発、統合的シミュレーション技術の開発が必須であった。医療・情報産業という計算科学として先進的な分野を特定し、掲げた4つの目標、マルチスケール・シミュレーション技術の確立、マルチフィジックス・シミュレーション技術の確立、データベースシステム技術の確立、革新的アルゴリズムの開発は先見性があり、時代を見据えた的確で意義深いものである。特に計算科学と計算機科学の融合促進を目指した基礎・基盤研究促進という領域の狙いは的確で、時代は確実に本領域が目指した方向に向かっており、本領域がその先鞭をつけたことを高く評価する。
 研究成果については総じて優れたものであると評価する。個々の課題については心臓シミュレーション、マルチスケール、マルチフィジックス・シミュレーション等で学術的成果を十分達成しており、また、システムバイオロジー等新しい分野の活性化を促したものもあり、全体として優れた成果を挙げたと判断する。実用化基盤としての完成度からみると、課題ごとにバラツキがある。本領域では実用化基盤の構築が目標であるが、その先の本格的実用化との間には大きなギャップが存在することも事実であり、課題終了後も長期にわたる追跡調査、定期的な支援などを行うことが望ましい。CRESTと「さきがけ」の連携については、結果的には多くの若い研究者が育ち、この研究分野全体の研究者人口の増加と領域の活性化に貢献している。CRESTと「さきがけ」を同時に実施したことによる相乗効果については特に優れた相乗効果が得られたとまで言える段階にはないと判断されるが、CREST研究のFMO法にさきがけ研究の量子モンテカルロシミュレーションを導入したこと等両者混成の成果も示されており、その難しさを考慮すれば、一定の評価は与えることができる。
 総合的に見て、次世代スーパーコンピュータプロジェクトが動き始めた今、そのバックグランドとなる本研究の実施と成果は当該分野の活性化に大きな貢献をしたと評価できる。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考について

 シミュレーション技術の革新には計算機科学や数学、特に計算機科学分野の研究者との連携が必要であるという狙い、および医療分野における高度治療や情報産業における精密製品設計等のものづくりに役立つ次世代統合シミュレーション技術を確立するという狙いは先見性があり優れたものである。また、その具体的目標としての、ミクロからマクロに至る様々な現象をシームレスに扱える新たなシミュレーション技術の開発、分散したデータベースやソフトウェアをシステム化する技術の開発、計算手法の飛躍的発展の源になる革新的アルゴリズムの開発、基本ソフト、情報資源を取り扱いやすくするためのプラットフォームの作成、分野を越えて共通に利用できる標準パッケージの開発という設定も妥当なものである。
 また、領域アドバイザーも計算科学、シミュレーション分野の高い識見をもった専門家で構成されており、実用化基盤となり得るテーマのバランスも総じてとられている。課題の選考方針も妥当である。ただし、公募型の研究推進の課題であると思われるが、想定した医療分野における高度治療や情報産業における精密製品設計等のものづくり分野で必要な課題が欠けているという指摘もあった。
 採択された研究課題のそれぞれの成果と研究課題間の研究交流の双方について、全体として高い成果が挙げられている。一方で、基礎と応用とを結ぶ技術を確立するという狙いについては直ぐに応用にできる技術として確立できた課題が多かったわけではない。しかし、このことは想定した領域では目標自体が極めて高いものであり、実用化基盤の構築はなされていると評価すべきである。
 CRESTプログラムとさきがけプログラムの相乗効果についてはCREST研究のグリッド技術を用いた大規模分子シミュレーションにさきがけ研究の水素系量子シミュレーション技術が取り込まれたこと幾つかの成功例はあるが、すべてに有機的な連携がとれたとは言い難い。しかしながら、「さきがけ」における個人研究が新しい研究分野を切り開いたものもあり、併せて領域の研究者人口の増加と活性化がなされたことを評価する。

3.研究領域のマネジメントについて

 各課題グループ間の連携を図るべく、合同研究報告会や領域会議など、大きな狙いである「計算機科学(ソフトウェア基盤)と計算科学(マルチスケール、多分野融合シミュレーション)」の融合のためになされた運営面での種々の努力を評価する。「さきがけ」研究に関して、若い研究者が研究を進めやすいように、個別の研究者訪問を行った点なども効果があったと考える。
 ただし、個別的な優れた成果がいくつか見える一方で、計算科学と計算機科学の連携については未だ画期的な方法論は描かれておらず、連携を推進する仕掛け、舞台作りに更なる努力が必要であることが課題として残されている。この点は、応募する研究者自身が、異分野の研究成果に耳を傾け、そこから新しいアイデアを掴むことの大切さを認識することも重要で、応募側の意識をさらに高める仕組みも必要であろう。
 研究費の配分についても中間評価によって発展が期待できる課題への予算の重点配分、あるいは、発展的応用課題への推進支援などが行われており適切である。

4.研究成果について

①研究領域のねらいに対する成果の達成度
 採択された個別の課題に関する研究が強く促進されたことは明らかで、その成果は高く評価できる。その意味では、全体としては研究領域のねらいは達成されたと言える。マルチスケール/マルチフィジクス・シミュレーションにおいては、大規模非線形問題に対して新しい均質化マルチスケール解析の手法を考案するなど特筆すべき成果を挙げており、波及効果も大きいと期待され、全体として高いレベルの成果が挙げられたと評価する。また、数値計算精度保証アルゴリズムの確立は革新的シミュレーション技術に繋がる成果である。データ同化やデータベースシステム技術については広い分野で適用可能な研究課題となり得るものと評価した上で、この分野の採択課題は少なく、限定的な分野への展開に留まっている、大気・海洋や磁気圏分野への適用など研究の加速が望まれるという指摘も加えておく。計算基盤技術をはじめとする革新的アルゴリズムの開発については、ほぼ、どの採択課題でもオリジナルでレベルの高い新たなアルゴリズムを開発し成果を挙げたと評価する。課題間の連携については、ソフトウェア基盤と最適化シミュレーションの研究がCREST/さきがけプロジェクト内の他の研究に直接的に活用されることへの期待意見があることを付記しておく。

②科学技術の進歩に資する成果
 このプロジェクトの果たした貢献は大きいと高く評価する。ここ数年に注目されているバイオ、ナノ/マイクロを対象とした原子・分子レベルの数値シミュレーション技術基盤の構築やマルチスケール/マルチフィジックスの研究例が多数立ち上がっているが、本プロジェクトはそのさきがけになったものである。また、たとえば、細胞シミュレーションという実用性の高いシミュレーション技術が提供され、ウエットラボの生物研究者にも利活用可能となり、ドライ、ウエットの融合研究が進展する等計算科学が計算科学以外の分野の研究を加速する成果も得られている。

③社会的及び経済的な効果・効用に資する成果
 たとえば、施設、装備によらない包括的な放射線治療のソフトウェア開発によって、放射線治療の高度化、高精度化に貢献する等、シミュレーションの社会的効用に資する成果を多数挙げており、総じて計算科学が社会に認知されつつある契機を作ったことを評価する。なお、本プロジェクトに対する直接的評価ではないが、社会的効果や経済的効果は即効的に出るものでもないので、課題終了後の発展に関して長期にわたる追跡調査、評価やサポート(実用化に向けたアドバイスなど)が行われることが望ましいとの意見を加えておく。


5.その他

 (本プロジェクトに対する直接的評価ではない)全体として、カバーした研究領域はかなり広いが、推進すべき研究分野をすべて網羅したものではない。この点は、戦略テーマのもとでの研究推進ではあるが、主体が公募型の研究促進方法であることに起因しており、仕方のない点であるかもしれない。この種の大型プロジェクトとしては、全体の総括として、プロジェクト内で行われた研究の成果確認だけでなく、たとえば「医療分野における日本の研究を計算科学で推進するために、残された大きな課題は何か」など、本プロジェクト外の研究者も集め、「まとめ」を議論する機会などが作られることが望まれる。

 また、さきがけとCREST事業との相乗効果を生み出すためには何らかの工夫が必要だろう。これは「さきがけ」が今のような公募方式でよいかも含め、JST全体で考えていただきたい課題である。また、全体としてイノベーションにつながるような成果を目指すには、自分の狭い研究領域に閉じこもり異分野の研究に薄い興味しかもたない日本の研究者の意識改革も必要であろう。


6.評価

(1) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する成果の達成度
十分な成果が得られた

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
特に優れた成果が得られた

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
十分な成果が得られた

(1-4) 戦略目標の達成に資する成果
十分な成果が得られた

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた

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