戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成19年度研究領域評価結果について > 研究領域 「高度情報処理・通信の実現に向けたナノ構造体材料の制御と利用」 事後評価

研究領域
「高度情報処理・通信の実現に向けたナノ構造体材料の制御と利用」
事後評価

1.総合所見

 本領域全体として、研究期間内に極めて多くの優れた研究成果を挙げ、1052件の学術論文発表、3000件を超える国際会議及び国内学会発表、70件の特許出願をしていることは高く評価できる。特に基礎的課題に重点が置かれているなかで、比較的多くの特許を出願していることは応用的視点も重視していることを示している。
 研究成果をチーム毎に見た場合でも、論文数等に若干の差はあるものの、いずれも十分な成果が得られている。質的にも高い水準にあり、特に、単一分子種金属、スピン液体、スピンホール効果、金属・磁性系での特異磁性状態、2層カーボンナノチューブ、MgB2細線を用いた中性子検出器に関する成果は特筆に値する。
 本領域で得られた基礎的成果は、ナノ構造体分野の発展に大きく寄与するものであり、さらに広く物質科学分野の基礎構築に寄与すると期待される。また、将来の材料開発の「種」を多く生み出した点も評価できる。しかし、中・短期的な効果・効用という点ではまだ限定的であり、今後デバイスや材料の専門家と連携して更なる研究を重ねていく必要がある。
 本領域の成果と「高度情報処理・通信の実現」という戦略目標との距離はまだ大きい。しかし、デバイス専門家も含めて研究を発展させることにより、将来的には、本領域の成果は戦略目標実現に向けた材料・電子デバイスの開発に活かされていくと思われる。
 上述したように、本領域の物質科学への貢献及び長期的に見た材料・デバイス分野への波及効果は非常に大きく、本領域がCRESTの領域の一つとして5年間設定されたことは大変有意義であったと判断する。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

 本領域は、基礎科学の立場から、新しいナノ構造体の探索と物性解明を進め、更に材料としての可能性も探ることを目標としている。高度情報処理・通信の実現に向けて現在の集積・機能限界を超える新しい材料、デバイスを開発していくためには、その基礎となる研究が必要である。本領域の目標及び計画はそれに応えるものであり、ねらいは適切であると判断する。また、本領域の研究成果は、物質科学全体の発展にも寄与するものである。
 選考方針は、ナノ構造体に対する新しい電子状態の探索と物性解明を基軸として、物理及び化学の両面から見て重要な研究課題を選ぶこととなっており、適切であると判断する。 領域アドバイザーには、物質科学や材料分野で多くの実績を有するリーダー的研究者が選ばれており、研究目的達成に必要なアドバイスを受けることが可能な構成になっている。採択された課題は、新しいナノ物質の探索や物性解明、その材料への応用等に関するものが幅広く選ばれている。選ばれた各研究チームは担当課題を推進するのに必要な多くの実績と経験を有している。
 全体として、研究総括のリーダーシップが発揮されており、高く評価できる。

3.研究領域のマネジメント

 本領域で扱うナノ構造体材料は、物理から化学までの広い分野に跨っているため、チーム間の意見交換や連携協力が極めて重要である。
 このような認識のもとに、研究総括は本領域の関係者及び外部の専門家を含めた領域ミーティングを9回開催し、研究成果の報告と研究者間の交流を行って、情報交換と意識の共有化に努めてきた。特に、共通的課題として、「電極問題」や「分子系の物性」を取り上げ、集中的に議論する場を作ったことは評価できる。これらの活動によって、課題間の相互理解や連携が可能になり、チームを超えた共同研究もいくつか行われて、派生的な成果が得られている。また、研究総括は、上記のミーティングに加えて、研究代表者との個別の話し合いも度々行い、各課題の進捗状況を十分把握する努力を重ねてきた。この話し合いによって研究テーマの絞り込みや微修正も行われてきた。
 以上のように、全体として研究領域の運営方針は適切であり、研究進捗状況の把握や課題間の連携の推進のためにも多くの努力がなされている。研究費は、研究課題によってある程度の重みがつけられており、適切に配分されていると判断する。

4.研究成果

(1) 研究領域のねらいに対する成果の達成度
 本領域では、基礎科学の立場から、新しいナノ物質の可能性と材料としての可能性を探索し、物質科学全体の発展にも寄与することを目指して、研究を推進してきた。その結果、現在までに、論文誌への学術論文発表1052件、国際会議及び国内学会発表3125件、特許出願70件の成果が得られており、当初の目標をほぼ達成していると判断する。また、(2)及び(3)で述べるように、得られた研究成果の新規性・独創性も非常に高く、材料開発に関係する「電極問題」や「分子系の物性」を重要な課題として提示したことも評価できる。

(2) 科学技術の進歩に資する成果
 本領域は、基礎科学の視点を重視して推進されてきたので、得られた成果のほとんどは科学技術の進歩に資するものである。特に新規性の高い成果は以下の①~④である。
①スピン液体の実現
 三角格子構造をもつ絶縁体及び3次元系格子状物質において量子スピン液体状態が得られることを見いだし、その特徴を明らかにした。
②スピンホール効果に関する成果
 強磁性金属の異常ホール効果と半導体のスピンホール効果の理論を確立し、強磁性体のFePtとAuのハイブリッド構造体が巨大スピンホール効果を示すことを発見した。
③単一分子種金属の開発
 一種類の分子が自己集積し、金属結晶を形成する新しい金属を見いだした。これは、従来の分子物質の概念とは全く異なるもので、新しい物質科学分野の開拓が期待される。
④特異な磁性状態の発見
 磁性半導体の磁壁の駆動が磁界と電流の場合で違う原理に基づくことを明らかにし、伝導性単分子磁石、光スイッチング機能を有する単分子磁石等を開発した。

(3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する成果
 本領域では、新材料の可能性を探ることも目指しており、対応する重要な成果として下記の①~③が挙げられる。ここでは、将来、社会的・経済的効果を及ぼす可能性がある「種」を多く生み出した点は評価できる。しかし、中・短期的な効果・効用という点ではまだ限定的であり、今後デバイスの専門家も加えて、更なる研究を重ねていくことが求められる。
①2層カーボンナノチューブの創製と応用
 化学気相蒸着法によって金属ナノワイヤーを内包した単層及び2層カーボンナノチューブの創成に初めて成功した。これはブレークスルー的意味を持ち、今後電子デバイス分野等への広い応用が期待される。
②巨大負熱膨張材料の開発
 マンガン窒化物の組成を調整して巨大な負熱膨張を生じさせることに成功した。この材料はゼロ膨張も可能で、様々な応用が期待され、企業との共同開発に発展している。
③超高速・高感度の中性子検出器の開発
 高温超伝導物質MgB2を利用した超高速(2ns)の中性子検出器を開発した。これは、陽子加速器のパルス中性子の計測等に応用できると期待される。

5.その他

 本領域は多くの成果を挙げて当初の目標を概ね達成している。その成果のなかには比較的実用化に近いレベルのものもある。「これらについては、今後社会に還元できるレベルまで研究を発展させるための支援事業も考えていくべきではないか。」との意見があったことを付記しておく。
 4.で述べたように、本領域の物質科学への貢献及び長期的に見た材料・デバイス分野への波及効果は非常に大きく、本領域がCRESTの領域の一つとして5年間設定されたことは有意義であったと判断する。しかし、「高度情報処理・通信の実現という実用的な意味を持つ戦略目標と関連させなければ、本領域のような基礎研究の領域を設定できないとしたら問題である。基礎研究の成果は、将来的には様々な分野への応用が可能であり、基礎研究自体の重要性を認識して設定される事業があってもいいのではないか。」との意見があったことを付記しておく。

6.評価

(1) 研究領域として戦略目標の達成状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成度
特に優れた成果が得られた。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
特に優れた成果が得られた。

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(1-4) 戦略目標の達成状況
十分な成果が得られた。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

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