戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成19年度研究領域評価結果について > 研究領域 「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」 事後評価

研究領域
「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」
事後評価

1.総合所見

 21世紀の情報・通信技術に革新をもたらすデバイス・システムの実現は、わが国の重要な技術課題のひとつである。本領域は、新しい物理現象や原理にもとづき、ナノテクノロジーを基盤とした材料、計測およびデバイス技術にかかわる広いスペクトルの基礎的・学術的研究を推進し、さらにデバイス・システム創製に向けた研究を展開した。その成果は、1100件以上の論文に纏められ、研究活動が活発に進められた。また、研究総括の指導により、特許出願や新聞発表などに積極的にとりくみ、国内外特許出願は200件近くに達するなど、研究成果を社会・産業に還元する努力がなされた。これらの過程で次世代を担う若手研究者の育成にも努力が払われている。さらに領域中間評価で、産学連携の強化や成果公開の推進を要請された観点から、10社をこえる領域外の企業との共同研究や、公開講座等の科学技術の理解増進活動を推進している。ナノデバイス・システムの創製への寄与という意味では、実証段階への到達過程は、今後長い眼での評価が必要であるが、一部では実用に近い革新的な成果も得られている。また、情報通信分野以外にも、バイオセンシング関連などの融合分野の成果が得られている。革新的なナノデバイスを実現するうえで、今後基礎研究成果で得られた技術シーズの展開が重要であるが、本研究領域からNEDO、CREST、さきがけ、科研費などへ多数の研究展開が行われ、企業との共同研究も行われる等、重要な研究成果が次の段階へと発展しており、多方面の関連分野に技術的なトリガーをかけていることから、本研究領域の目的・意義は実証されたと考えられる。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

 本領域は、新しい物理現象や動作原理にもとづき、ナノテクノロジーを基盤とした材料、計測およびデバイス技術の研究の推進からナノデバイス・システムの創製へ貢献する内容であり、融合的分野も考慮され、適切な研究領域のねらいが設定されている。特に、本研究領域が設定された当時は、わが国においてもナノテクノロジーが重要視され始めた時であり、ナノテクノロジーを実際のデバイスへ結びつける本領域のねらいは先進的であったと言える。さらに、その後の研究の蓄積によりデバイス研究におけるナノテクノロジーの貢献が明確になっており、その意味でも本研究領域遂行の意義は大きかったと言える。
 選考方針は、新分野の開拓、原理検証、基盤技術の育成、基礎科学へのインパクトなどを考慮し、領域目的との整合性や、課題の挑戦性、研究ポテンシャル、さらには基礎研究を産業化へ結びつける観点より11課題が厳選された。領域アドバイザーは、物理系のナノテクノロジー分野を中心に、他分野も含めトップクラスの研究者で構成されており、適切な布陣である。採択された課題は、総合的にナノテクノロジーを牽引するテーマ群と、ハイリスクだがインパクトの大きい課題に挑戦するテーマ群により構成され、生命科学や環境などとの融合分野も含まれており、すぐれた課題構成である。

3.研究領域のマネジメント

 研究統括は領域運営にあたり、目的基礎研究の推進、ナノサイエンスの深耕、次世代リーダーの育成、分野融合基礎研究の推進の4項目を基本方針として、強力に推進した。各研究代表者と積極的に議論を重ね、研究会への参加などを通じ、個々のチームの進捗状況をよく把握し、方向修正や追加費用の必要性などに的確に対応した。また、若手研究者の交流会など、領域の各チームの活動活発化の工夫と領域運営の努力を払った。さらに200件近くの特許出願を実現させたことも特筆に価する。課題間の連携の面では、各研究チーム内のグループ間、領域内のチーム間、ナノテクノロジー分野別バーチャルラボなどのCREST内領域間、国内外の研究者・研究機関など多岐にわたる連携を推進し、具体的な研究成果を得ている。また、中間評価への対応として、産学連携を強化してチーム構成外企業とも連携し、一部は製品設計にまで発展している。さらに、研究成果を広く一般社会に公開するため、市民講座や高校生対象講演会など、科学技術の理解増進活動を行った。
 研究費の配分については、研究計画を精査して配分するとともに、総括プールを設け、時には本部の協力のもとに、研究加速の必要な場合に追加配賦を実施するなど、柔軟な運営方法により研究を促進した点は特に評価される。
 以上を推進した研究総括のリーダーシップは極めて優れている。

4.研究成果

 本領域における各研究チームの研究内容は、デバイス・システム創製に関する研究からナノサイエンスの研究まで、多岐に亘っているが、研究成果全般については、論文での発表、学会発表、特許の申請状況などから、きわめて良好である。研究領域のねらいに対する成果の達成度の面では、実証面で一部に遅れや未達成の部分があったものの、全体としては、ねらい通りかあるいはそれ以上の顕著な成果が得られている。実証面で目標に達しなかった課題でも副次成果では優れた結果が得られている。
 研究領域としてのねらいは4つあり、それぞれに対応する課題の主要な成果は以下のとおりである。(1)「ナノスケールで初めて発現する物理現象の応用」では、ナノ細線トランジスタの開発と量子情報処理に必要な多ビット化の実証(小森ら)、超伝導磁束素子回路技術と量子ビットの相関状態の生成(高柳ら)。(2)「既存技術の限界を打破する新たな分野の創出」では、高密度不揮発性メモリを目指したトンネル磁気抵抗効果増強構造の実現(猪俣ら)、高効率もつれ合い多光子ビームの発生確認(三澤ら)、半導体ナノ物質の光操作や光による力学操作(石原ら)、無機酸化物系デバイスにおける電場誘起抵抗スイッチングの機構解明(赤穂ら)、(3)「物性レベルからデバイス化の基盤研究まで」では、有機FETのデバイス物理と界面制御技術(岩佐ら)、高品質ダイヤモンド発光素子と薄膜における高密度励起子状態の理解(大串ら)、液相からの完全有機半導体単結晶の成長(板谷ら)、そして、(4)「既存領域を超えた融合提案」では、近接場ラマン顕微鏡によるDNA などの分子イメージング(河田ら)、カーボンナノチューブデバイス作製制御技術とバイオセンシングへの応用(松本ら)の成果があげられる。これらの成果から、すでに実用的なデバイス開発や要素技術の面で多くの革新的な技術シーズがうまれており、領域のねらいは達成できたと考えられる。
 科学技術の進歩に資する成果の面では、本領域では、新しい物理現象や原理にもとづき、ナノテクノロジーを基盤とした材料、計測およびデバイス技術にかかわる幅広いスペクトルの研究を推進した。その成果は、Nature, Science, Nature Materials, Physical Review Lettersなどをはじめとする1100件以上の論文に纏められ、研究活動が活発に進められた。また、本領域のメンバーから多数の受賞者を出している。さらに、多数のシンポジウム等を開催するとともに、新聞報道、公開講座などを通して、科学技術交流や普及に貢献している。さらに本研究領域からCREST、さきがけ、科研費などへ多数採択され、技術シーズや基礎研究の展開へ貢献する成果をあげている。
 社会的及び経済的な効果・効用に資する成果の面では、ナノデバイス・システムの創製という観点から、実用化を目指して一部のテーマはNEDOプロジェクトに採択され、さらに企業との共同研究や、大学発ベンチャー[ナノフォトン(河田ら)やレーザーシステム(三澤ら)]も加え、社会貢献を視野に進展している。また情報通信分野以外の融合分野にも発展し、超高感度バイオセンシングやバイオ分子イメージングでは企業との連携が始まり、市場の入り口に立つ成果を得つつある。また、いずれの課題においても、ナノデバイス創製と言う大きな方向性に沿って、次のステップにいたる技術シーズや技術課題を明確にしたという意味で、各テーマは十分な成果をあげてきたと評価できる。研究総括の社会還元への要請の効果もあって、特許出願数が多いことも特筆に価する。

5.その他

 本欄では、事後評価委員より出された意見の主なものについて列記する。


6.評価

(1) 研究領域として戦略目標の達成状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成度
特に優れた成果が得られた。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
特に優れた成果が得られた。

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
特に優れた成果が得られた。

(1-4) 戦略目標の達成状況
十分な成果が得られた。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

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