戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成19年度研究領域評価結果について > 研究領域 「超高速・超省電力高性能ナノデバイス・システムの創製」 事後評価

研究領域
「超高速・超省電力高性能ナノデバイス・システムの創製」
事後評価

1.総合所見

 本領域では、高速・省電力へ向けた高性能・新機能ナノデバイスの創製を目指して、材料の探索や作製法、デバイスの設計やナノ加工・作製技術、さらには一部ではシステム応用に至るまで、幅広い範囲で研究開発を推進してきた。その結果、5年間で学術論文622件、学会発表1973件、その他105件、合計2700件の外部発表、ならびに60件の特許出願の成果が得られている。質的にも高い水準にあり、科学技術の進歩に資する成果としては、例えば、量子細線に関し、世界最高度の形成技術による実験的研究と一次元電子系の厳密な理論研究が共同的に進展し、量子細線レーザーの利点と留意点が浮き彫りにされた。また、社会的・経済的な効果、効用に資する成果としては、超高速用バリスティック電子デバイスの試作、テラヘルツ波発生用固体素子、高温超伝導体超高速回路、全光スイッチングシステム用高速光バッファーメモリー等を列挙できる。以上のように、領域全体としての成果や達成度は大きく高いと評価できる。
 本研究領域は並存してきたいくつかのナノデバイス・材料系の研究領域の中で、最もエレクトロニクスの実用分野に近いものであり、とりわけ具体的で数値的ともいえる戦略目標が課せられた領域である。それだけに、「産官セクターからの参加チームがなかったことはやや残念である」、あるいは「社会的・経済的な効果・効用に短期的に直結する成果は必ずしも多くない」といった意見もありうるが、むしろ、大学では必ずしも容易でないハイレベルのデバイス研究開発を促進したこと、ならびに長期的に見れば本領域の成果の産業界等への実際の参考度や波及効果は少なくないこと、この二つの視点も加えて考えるときに、本研究領域が設定された意義は非常に大きかったと結論できよう。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

 本研究領域名には、「超高速・超省電力」が冠せられており、戦略目標「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」のもとに展開されたナノデバイス・材料系五つの研究領域のなかでは、最も具体的で数値的ともいえる目標が課せられた研究領域であるといえよう。実際の運営においては、より長期的観点に立っていたかにみえ、情報通信技術の一層の発展のために、従来のデバイス構造の微細化に加えて、様々な特性の物質群から最適材料を選び、ナノ加工技術を活かすことによって、デバイスの性能や機能を飛躍的に高めることを指向した10課題が選考されており、それぞれに特色ある研究開発がしかも多角的に展開されうる布陣になっている。大別的に分類すると、光ナノデバイス関係が4件、電子(伝導)ナノデバイス関係が4件、ナノプロセス技術の開拓によるナノデバイス実現を目指したものが2件で、ほど良くバランスしている。
 本研究領域では、上記の達成目標の具体性、数値的メッセージ性が原因かどうかは不詳であるが、応募はほとんど大学からで37件にとどまり、採択率は異例に高くなったとのことであるが、そもそも大学における本格的なデバイス研究開発は元来容易ではなく、企業等では実施が困難な基礎的で挑戦的なデバイス研究を大学で盛んにし、実用指向を強くもつ企業の研究者・技術者へも長期的で深い影響を与えうるような成果を出せるようにすることは急務であり、意欲を燃やして応募した大学チームからそれを支援するかのごとくに10件も採択できたということは、結果として深い付加的意義があったといえよう。
 なお、領域アドバイザーは産学官での研究開発経験豊富な7名の有識者からバランスよく選任されており、研究総括に緊密に協力して連携的に活動された様子である。

3.研究領域のマネジメント

 課題の選考にあたっては、基礎要素技術の準備実績、明確な問題意識に基づく課題取り組み姿勢、研究経費の集中・活用計画の3点に重点を置き吟味した結果、まずそれぞれに特色あり、かつ多彩なチーム編成が実現した。ここで特筆すべきは、既存の設備を最大限に利用してもらうことにより、チーム当りの研究費配分を抑制し、より多くのチームを採択できたことが、予算の有効活用という見地からきわめて示唆に富むマネジメントであったと思われる。
 研究総括は各チームの研究進捗状況、独創性、弱点、世界における成果の位置付け等を常に的確に把握していたと見受けられ、基本的には各チームの自主性を尊重しながらも適時にアドバイスを行っている。特に中間評価時点では、力強いリーダーシップのもとに、各々のチームの進捗状況に応じて、課題選択集中化なり、デバイス開発への方向付けなり、研究経費の有効活用化なり、あるいは配分の調整なりの勧告や措置などが、有効適切に講じられたと評価できる。

4.研究成果

(1)研究領域のねらいに対する成果の達成度
 本領域では、高速・省電力へ向けた高性能・新機能ナノデバイスの創製を目指して、材料の探索や作製法、デバイスの設計やナノ加工・作製技術、さらには一部ではシステム応用に至るまで、幅広い範囲で研究開発を推進してきた。その結果、5年間で学術論文622件、学会発表1973件(うち招待講演271件)、その他105件、合計2700件の外部発表、ならびに60件の特許出願の成果が得られている。また以下にも例示するように、これらのうちには、国際的にも極めて高い評価を得ているものや、ナノデバイスの実用化への重要な指針となりうる貴重なものも含まれている。以上を総合して、本領域の研究開発は、当初の目標を達成していると高く評価できよう。
 なお、本研究領域では、各課題とも基礎研究から戦略目標にそった応用指向研究までを幅広く手がけているものが大部分であるので、研究成果の特長の分類は容易でないが、研究開発フェーズ等に着目して、科学技術の進歩に資するものと社会的・経済的な効果・効用に資するものとに強いて大別し、主要な研究成果を列挙してみると、下記のとおりである。

(2)科学技術の進歩に資する成果
①量子細線の光学的機能とレーザー応用に関して、世界最高度の形成技術を駆使した実験的研究と一次元電子系における多体効果を考慮した厳密な理論研究がそれぞれ進展し、相互の共同研究やさらには国際間の協力も相加わって、量子細線レーザーの利点と留意点が浮き彫りにされた。
②次世代の不揮発性LSIメモリーに関し、強磁性金属ナノ粒子を絶縁膜に埋め込んだMOS素子が提案・試作された。このような微結晶メモリーにおけるスピンの効果はまだ観測されなかったが、微結晶とスピンという新しい組み合わせは注目に値する。
③注入型レーザー材料として有望な極めて高い光学利得をもつ新規な有機発光材料がいくつか創成された。
④スピントロニクス分野では、省電力にもつながる電子スピンをゲート電界で制御する新規伝導素子の研究が進み、低温で原理が実証された。

(3)社会的及び経済的な効果・効用に資する成果
①超高速をねらうバリスティック電子デバイスの試作にいどみ、世界最小級の寸法のトランジスタを形成し、また共鳴トンネル素子を作製して単一固体素子として初のテラヘルツ波発生に成功した。
②高温超電導体素子の分野では、積層トンネル接合の性能を格段に高め、単一磁束回路で500GHz動作を実現したが、超高速LSI回路設計への知見という意味でも将来的な社会的意義が大きい。
③全光スイッチングシステムに必要な高速バッファーメモリーとして、正方形VCSEL(垂直共振器面発光レーザー)の偏光双安定性を利用したデバイスを作製し、最高繰り返し10Gb/sの光メモリー基本動作を確認した。
④狭バンドギャップ、高移動度の点で現在注目されているInNの分子線エピタキシー法による高品質薄膜の作製法を確立し、また一分子層のInNを挿入したGaN系ヘテロ材料やデバイスを開発した。

5.その他

 戦略目標「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」は、国としての「ナノテクノロジー分野別バーチャルラボ」事業への戦略目標の一つとして、当然にトップダウン的に目標が高く、また内容も詳細かつ具体的に示されていて、成果に対する期待度にも高いものがある。この内容をいくつかに分割して研究領域が設定されているが、その領域名もトップダウン的性格を保っている。一方において、各課題の選考過程においては、研究チームからのボトムアップ的自発応募が出発点になるから、各領域でのねらいの定義文の内容や、結果として実際に編成された研究領域の全体的範囲は、どうしても広くなったり、ときには偏移したりしかねない。これは特にどの研究領域ということではなく、一般的に起こりうる共通的問題であろうが、このようなトップダウンとボトムアップの逆方向性に起因する種々の不整合や不便をいかにして緩和するかは、JSTとして今後検討すべき重要問題と思われる。この問題に対しては、領域発足時の研究総括等の権限を強化して、「課題(研究チーム)の領域間移し替え」、「課題内容の大幅改訂」、「研究チームへの追加(特に産学官連携促進のため)」、さらには「課題(研究チーム)の併合」などまで考えるべきではないかなど、多くの意見があったので、ここに付記しておきたい。

6.評価

(1) 研究領域として戦略目標の達成状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成度
特に優れた成果が得られた。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
特に優れた成果が得られた。

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(1-4) 戦略目標の達成状況
十分な成果が得られた。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

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