少子高齢社会に入ったわが国では、一生涯QOLの高い生活を送れるようにするために、また、教育の現場が抱える課題の科学的な解決策を見出すためにも、さらには、脳科学への一般の人々の関心が高まっている状況で、脳とは何かを科学的に正しく理解してもらうという意味でも、本研究領域の設定は時宜を得ているといえる。
中間評価を経た段階であるが、国際的にトップレベルの成果がいくつか出ていることでもわかるように、領域総括とアドバイザーによる研究者の選考、領域の運営が適切に行なわれていて、領域全体としての目標達成に向けて順調に進捗しているといえる。
「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」という分野で成果は順調に出ていて、将来、育児・教育、脳障害回復という応用分野につながる可能性をもつ成果、あるいは経済的効果が期待できる成果も出つつある。本領域のマネジメントは非常に上手に行なわれているが、さらにチーム間の連携・協働を図り全体の成果を総合して、脳科学と教育学・臨床医学とをつなげる方法論の確立を期待したい。その結果として、応用に資する「臨床知」が得られるものといえよう。具体的には、複数のチームにまたがるリエゾン研究者の配置、合同研究会の定期開催と進捗状況の相互チェックと各チームに貫流するテーマの共有、研究チーム内外、特に、教育・医療現場との交流・連携・協働を提案したい。なお、研究対象として、成人期の能力開発、再教育に資する脳機能の研究も高齢社会にとって必要ではないか。しかし、「臨床知」に至る道筋は決して平坦ではなく、また、長いものであろう。
基礎研究から応用に結びつけるというミッションをもつ戦略的研究では、概して、優秀な研究者を動員することが難しいという声がある。個々の課題の研究はそれなりに進捗するが、その統合や相乗効果を期待することが容易ではないという指摘である。しかし、本領域においては、すでに応用につながる可能性のある優れた成果が数多く出ている。総括の優れたリーダシップとアドバイザーの適切なアドバイスによって、この難題を乗り切れるものと期待している。
最後に、本領域が掲げる将来の目標を達成するには、一度の領域設定で済まされるというものではなく、本領域で達成される成果を次の研究につなげて大きく発展させるという長期的戦略が望まれることを重ねて述べさせていただく。
ヒトの発達や学習の神経メカニズムを解明し、将来的に育児や教育における科学的指針の提供、障害からの機能回復法の基盤となる知見や技術を積み上げるという本領域のねらいは時宜を得たものである。しかし、このテーマは一度の領域設定で完結できるのものではなく、長期的な取り組みが必要である。
その第一段階としては、発達・学習に関与する脳機能、言語の発達、障害からの回復の機序、これらの基礎にある神経回路の可塑性のメカニズムの研究など広い分野から、国際的にトップレベルの研究が可能な課題を選考するとした方針は妥当である。結果として採択課題には、現象論に焦点をあてた研究が多くメカニズムの研究が少ないなど、分野的にやや偏りが見られる。しかし、戦略目標にふさわしい課題が研究総括のイニシャティブの下に選ばれているという意見と、この偏りはわが国の現状の反映であり、むしろわが国が得意とする分野を伸ばすよう目標を明確にすべきという意見もある。
一方、神経科学と育児・教育・臨床などに関わる行動科学との乖離が存在する現状を打開するため、小さなグループでも良いから、これらの分野、特に学校教育につながる児童期、思春期に対応した研究を取り入れるべきという意見もある。これに加え、(臨床)医学や計算論からの参加も期待されている。
領域アドバイザーには分子から脳の病態、特殊教育、神経生理学、計算脳科学、神経回路学など広い分野の代表的研究者が選ばれていて、適切な助言が期待できるが、今後は学校教育の現場からの課題を一層汲み上げてのアドバイスを期待したい。
研究領域の戦略目標に基づき、研究総括は3年度にわたって適切な課題の選択を行なったが、領域としての所期の目標を達成するためには、領域総括のリーダシップが重要である。その意味での研究の進捗状況の把握、研究成果の一般社会への情報発信、評価と今後の研究に向けての助言を得るなどの方法は、堅実で妥当なものである。
具体的には、毎年の領域内研究報告会の開催に加え、26回に及ぶサイトビジット、アドバイザーを加えての中間評価などを通して、領域総括は、研究の進捗状況をよく把握している。研究目標からの逸脱があれば、研究代表者のリーダシップを尊重しつつも、テーマやチーム編成の見直しを勧告するなど、適切な指導を行なっている。
ところで、多くの階層からの統合的な研究が必要な脳科学では、研究交流が重要であり、それへも意欲的に取り組んでいる。このような場が若手研究者の育成の場となっていることにも留意したい。しかし、すでに領域全体では200名を超える規模になっていて、研究者間の意見交換や交流は不十分にならざるを得ない。特に、神経科学の基礎研究と育児・教育、脳障害の改善・治癒に関する研究グループとの連携を期待する立場からは不十分といわざるを得ない。そこで、少数チームの組み合わせを多数行なう、日数を増やす、必要に応じて外部の研究者を招いての意見交換を行なうなどの工夫が望まれる。
研究費の配分にも工夫が見られる。研究の進捗状況に応じて適切で柔軟な配分が行なわれているといえるが、今後も進捗状況によっては配分の大幅な変更を行なうなど、引き続き領域総括のリーダシップを期待する。チームによる配分額の違いがあるが、高額の備品を必要とする課題に多く配分したことによるものであり、妥当な配分といえよう。
中間報告書には、研究代表者の研究のみの評価が記載されているが、各チームメンバーがどのように目標の推進に貢献したのか、必要だったのかの評価が欲しい。
今後の取り組みとして、研究のねらいが「教育における課題を踏まえたもの」とあるので、シンポジウムでの参加者からのアンケート調査等で教育現場の実態把握も進めて頂きたい。
以下、各委員の意見で上記に十分に反映できなかったものを列記する。
(1) 研究領域として戦略目標の達成に向けた状況
(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成状況
特に優れた成果が得られつつある。
(1-2) 今後期待される科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果の達成状況
十分な成果が得られつつある。
(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われている。