研究領域 「変換と制御」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 研究領域「変換と制御」は、物質やエネルギーを効率的に「変換」し、賢く「制御」することを目指し、持続可能な社会基盤となる科学技術の確立に向けて設定された。そのため、化学、物理学、生物学といった既存の研究分野にとらわれない分野横断的な研究領域となり、多岐に渡った研究課題が採択された。研究領域を設定する上で、その研究領域がカバーする範囲の大きさも重要であり、本研究領域は適切であったと考えられるが、この程度の範囲が最大ではないかと思われる。

 5年間という期間を経て、多くの有用な研究成果が得られており、さらに領域内での異分野間の研究者交流によって相乗的な効果も見られた。このような研究領域のテーマ設定の下では、研究推進に対する自由度の確保とある程度の連続性の確保といった、バランス感覚のある研究総括が必要である。学術の先端領域を開拓する研究は、常に予期せぬ現象との出会いを想定しながらなされるものである。その出会いの本質を洞察し、研究のある程度の連続性を担保しながら学術の流れを創っていくことは、この種の研究統括者の力量であろう。合志研究総括が言わば多種多様の研究者を束ねつつ、本研究領域を運営されたことに敬意を表したい。

 戦略的創造研究推進事業の「さきがけ」研究は、「研究者個人の独創性を生かした自由な発想に基づく研究を推進する」という研究制度である。独創的な研究を支援するというこのユニークな仕組みの主旨を、十分に生かすことが出来た研究領域であったと考えられる。この仕組みは若手研究者の育成の一つの方式として非常に有効であると考えられる。

 総合的な評価として、研究領域のねらいは達成しており、研究領域のマネジメントは的確かつ効果的であり、特筆すべきプロジェクトであったと認められる。

 人類の持続可能性と関連する環境分野の研究は、これからの人類にとって決定的に重要なものである。と同時に、高度に複合的である環境分野は、新しい学問の種の宝庫でもある。新しい学問領域の創造につながる本研究領域の存在意義は高く評価でき、今後とも切り口を変えて継続していくことを期待する。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 研究課題の選考委員である領域アドバイザーの構成に関しては、「変換と制御」研究領域が幅広い研究分野を含むことを考慮し、化学、物理学、生物学等の分野を代表する専門家から構成されており、適切であったと言える。

 研究課題の選考に関しては、省資源、省エネルギー、環境調和型物質変換プロセスという切り口で、化学から物理学、生物学までの広範な分野から、萌芽的な研究を選考することに成功している。資源、エネルギー、環境との調和を目指した「変換と制御」研究領域に対して、新しい物質変換プロセスや化学反応の発見、創出、効率の向上や制御などの研究からのアプローチを目指した。フロンティアに挑戦する意欲的な課題を発掘し、新規な発見が生まれる可能性をふんだんに含んだものになっている点で、大きな期待を持たせる研究領域になったと言える。

 研究課題の選考と研究の進展に適切に対応して、それを有用な成果に発展させ成果に結びつけた運用は、アドバイサーの構成とともに、総合的に適切であったと判断する。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)

 

 研究の進展にともなう新しい知見を十分に活用することを考慮し、研究者のエネルギーが無理なく研究発展の方向に向かうべく、研究領域をマネジメントしたことが成功の鍵であったと思われる。

 本研究領域の研究者は様々なバックグラウンドを有しており、そのため自由闊達な領域会議の運営がなされ、異分野交流の促進などに配慮して研究領域が運営された。研究期間に構築された研究者間のネットワークを、今後、研究者間で何らかの形で活用し、継続していくことを期待する。

 本研究領域はポスドクを雇用できる「ポスドク参加型」である。各チームの構成要員として目的とする領域の研究スキルをもつポスドクを起用できる体制は、研究者が隣接する領域にチャレンジする際に有効であるとともに、若手の研究者を育てる土壌としても有用である。なお、研究終了後のポスドクに対する配慮は必要であり、ポスドクの人事交流に関するマーケットの形成にも政策的配慮を期待したい。

 また、科学技術立国を標榜する我が国にとって、この研究領域から生み出された新規な知見と知的財産の価値を適切に評価し、それを確保することは極めて重要である。研究の進展を妨げずにその特許化を支援する体制の構築を一層進める必要があると考えられる。

 

 

4.

研究結果(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 本研究領域の優れた成果として、水を変換プロセスに利用した廃ガラスの再資源化(赤井智子)、機能性炭素反応種を用いた合成反応(新藤充)、ポリウレタン分解酵素の修飾と機能改変(中島(神戸)敏明)、微生物によるリン酸ポリマー蓄積機構の解明と利用(黒田章夫)、核酸シャペロン機能を持つ高分子設計とDNA解析への展開(丸山厚)、ホウ素の輸送を利用した生物制御と環境浄化(藤原徹)、情報変換・機能制御性を持つ分子刺激応答性ゲル(宮田隆志)などが挙げられる。

 いくつかの優れた学問領域の種が出て、世界の学問のコアの役割を果たしている研究者、新しい分野を創出しリードする研究者が生まれたことは、この研究プロジェクトが時機を得たものであることを示している。一方で、当初の目論見とは異なった方向に進んだ研究も散見されるが、これは戦略的創造研究というものの性格上、十分許容に値すると判断される。総じて将来への可能性を感じさせる高い成果を上げたと評価される。

 成果の一つとして、研究期間を通して多数の研究者の昇格と移動が顕著に見られたこともまたここで取り上げておきたい。

 持続可能な社会を築いていく上で必要となる物質とエネルギーの「変換」と「制御」を環境と調和する条件の下で達成しようとして設定されたテーマ群から、所期の目的を十分に達成した研究成果を上げている。領域が広範になったこと、及び他分野から研究者・ポスドクが参加し、通常は出会わない研究者間の交流が生まれたことは、研究統括が予期したとおりの相乗的成果を上げた特筆すべきプロジェクトであると評価する。

 

 

5.

その他

 

 本研究領域では、持続可能な社会を築いていく上で必要となる物質とエネルギーの「変換」と「制御」を、環境と調和する条件の下で達成しようとして設定された、非常に重要な研究領域である。今回の評価対象となった多くの研究について、所期の目的を十分に達成した研究成果を上げており、それぞれが優れた成果であったことは高く評価したい。

 なお、研究者の間で知的財産権の意識の格差があるとの意見もあった。日本が知的財産を重視する国策を取っている以上、世界の大勢を知り、研究成果を捌ける知的財産化支援機能を備え、評価にも知的財産の視点を考慮する体制を整える必要がある。JSTの評価についても「知的財産立国」の視点を今以上に考慮すべきと考えられる。

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This page updated on July 26, 2006

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