研究領域 「相互作用と賢さ」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 本領域は、人間の能力を最大限に発揮させる人工生命体の構築を目指して、人間と機械の相互作用としての物理的関係と情報交換によって実現される賢さを研究するユニークな構想で設置され、メカトロニクスやロボティクスを中心に広範な分野の若手研究者を触発し、その個性と能力を最大限に発揮させることによって興味深い成果を生み出すことに成功した。また、国内外の会議や学術誌などにおいて、本領域の注目した新しい研究分野のアピールに努力し、これを充分に認知させる具体的成果をあげた。

 総合的にみて本領域は、課題の選択、研究領域のマネジメントともに概ね良好に進展したと思われる。「相互作用と賢さ」と題する本研究領域は、概要の読み方によって柔軟に解釈可能な幅広い内容をふくむように設定されており、広い分野の研究者にまさに「さきがけ」となるべき研究課題を携えて応募できる機会を与えたこととして評価される。

 しかし重要なことは、「相互作用と賢さ」という概念の意味の追求であり、科学技術上の認識の深化や、本領域共通のコアとなるべき原理や手法などの明確化を進めていくことである。本領域ではシステム実装が成果目標にされた傾向が強く、領域全体としての学問的深化は完了しておらず、今後ここで育った人材がこの点を継続して研究し、成果を上げていくことを期待する。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 本研究領域は、柔軟に解釈可能な幅広い内容をふくむように設定されているが、内容を規定する立場にあるアドバイザーにはロボットやメカトロニクス関連の専門家が多く、学習や知能など、賢さに関する専門家が手薄だったように見受けられる。人間の知力と行動力の両面を重視する構想から考えると、やや行動力の方に比重をおいたアドバイザー構成になっていたといえる。

 公募に際しては、将来に向けて発展可能性のある優れた課題を排除しないという意味で領域の懐の広さを示すことは大切であり、本領域の場合も可能性を高める方向に働いた。結果として、ヒューマン・マシンシステム、ネットワークインタラクション、インテリジェントメカトロニクスなどを中心に多様な分野からの課題が選考された。なお、公募の領域概要に示されていた人工生命体と呼ぶべきシステムを構築するものに正面から学術的に取り組んだ課題が少なく、採択された課題のなかには、相互作用とか賢さとかのつながりが薄いものも散見されるが、かえって面白い成果をあげているものもあり、全体としてみれば変化に富む課題を選ぶことに成功した。

 多くの応募の中から選ばれた研究者はいずれも十分高い水準にあると認められる。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)

 

 若手の研究者の自由度を最大限に認め、自主性を尊重しのびのびと研究させた結果、個性と創造力が十二分に発揮され、興味深い成果が生み出されることになった。領域活動の国内外へのアピールは極めて活発であり、国際会議での特別セッションや国内外学術誌の特集号企画などの実施は、領域の国際的認知として高く評価できる。

 反面、成果の口頭発表に比較して、論文数や特許出願が少ない結果となっている。論文化や特許化が成果のまとめとして重要であるという研究者としての重要な責任であるという認識についての、より強力な指導も必要であったものと考える。

 領域の運営では、領域代表者、アドバイザー及び若手研究者が世代を越えて熱心に討論することによって、本領域の参加者が研究分野を越えた仲間意識やネットワークを形成することに成功している。しかしこのことはさきがけ領域研究の必然であり、ベースラインにすぎない。重要なことは、本領域で掲げた「相互作用と賢さ」の概念を深化し、横断的な具体像を示すことである。参加者が楽しむだけでは不十分であり、領域としての学術的研究成果を明示する努力が求められる。

 予算配分については各研究者の研究状況に応じて弾力的に配分されており、適切である。

 

 

4.

研究結果(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 領域の定義自体オープンなものとして設定されていたこともあり、採択された研究課題はバラエティにとんでおり、興味深い成果をあげたものも多い。「触れる」「見える」成果が数多く生み出され、学会以外からの受賞が多いことも本領域の特徴である。

 特に、人とロボットの共生と学習に関する研究では、アザラシ型ロボット「パロ」の研究開発を行い、これをロボットセラピーとして応用し、福祉施設や病院などの現場において、その有効性の実証に成功した。さらに、この技術を、ベンチャービジネスとして起業したことは、特筆すべき成果と言える。これ以外にも、マッスルスーツ、皮膚感覚ディスプレイなどの一般にも分り易い成果、および、コミュニケーションや学習に関する理論や手法など、それぞれの個別成果は評価に値する。

 全体的に成果のハードおよびソフトに関するシステム実装が成果目標となっている傾向が見られ、これに比較して採択年度によっては論文発表が少ないなど学問的視点がやや足りない感がある。本領域として「相互作用と賢さ」という概念の本質に迫る学問的深化が更に必要であり、各研究者が今後厳しいピアレビューに耐えて他の一般の科学技術分野のなかで大型の競争的研究費を獲得出来るように成長して行く事を期待したい。

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This page updated on July 26, 2006

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