研究領域 「分子複合系の構築と機能」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 有機分子や無機分子等からなる分子複合系の構築および新物性や新機能の発現を目指す本研究は分子レベルでの相互作用に着目し、着実に基礎的学術的成果を挙げ、有力な国際論文誌に多くの論文を発表し、当該分野の進展への寄与は極めて大きいといえる。また、基礎的研究課題については社会への貢献を支援し、多くの特許出願、実用化への産学連携、国内外の研究機関との共同研究などが実施されている。本基礎研究はその後成果発展型研究として発展研究(SORST)課題に5チームが採択されており、このことからもそのインパクト・評価が大きいことが明らかである。新しい研究領域を切り開き、学術的に先導的役割を果たした意義は大きい。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 有機、無機、高分子、あるいは有機金属分子の様々な相互作用に着目し、分子レベルの機能発現・解析、および高機能物質創出と複合系の構築を行うというテーマは、本研究領域の発足した当時はまだ注目されていなかった。本CREST研究により領域研究の開拓、結集、組織化が行われ、この分野の進展に大きく寄与したことを高く評価したい。

 アドバイザーは理・工・薬学系の大学、公立研究機関、民間企業からの研究領域をカバーできる見識の高い専門家により構成されている。「分子レベルの新機能発現を通じた技術革新」に対する独創的で先見性がある研究課題がアドバイザーの意見を尊重して選考されている。また大学のみならず企業や国公立研究所まで広く門戸を開放し、広義の意味での分子複合系の新分野をカバーしており適切である。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)

 

 研究総括のリーダーシップが発揮され、研究領域が多様な目的と方法論を有しているにも拘わらず、見識の高い視点から運営されている。基礎的研究に対して産業界からの人材を領域アドバイザーに加えて、研究のシーズからニーズに向けての視点を与え、適切な研究支援を行うと共に産学連携を支援し、特許出願を積極的に実施できるようにして約300件申請するなど知的財産形成を推進したことは本研究領域運営上の優れた点の一つである。研究予算の有効活用として追加予算を均一配分するのではなく、例えば、よりインパクトのある成果を得るための研究体制強化等の改善案を募集し、これに重点配布することや、通常予算から一定金額を徴収し研究チームに再配分することなどが行われた。研究領域の活動で、研究スペースの拡大、先駆的労働安全対応モデル実験室の設置、海外研究拠点(北京大学等)の設置など幅広く支援していることも高く評価できる。

 

 

4.

研究結果(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 多様な目的と方法論が含まれているが、各研究グループはそれぞれ特徴ある独創的で優れた成果を挙げ、研究内容の総合的なレベルの高さは特筆される。有機分子や無機分子間のさまざまな相互作用を現実の物性・機能に発現させていくことに多くのチームが成功している。たとえば、光合成システムに関する長寿命電荷分離システムの構築、パイ電子系の電子移動特性に関する先導的成果、また天然系に近いポルフィリンモデルの構築、二酸化炭素の電子還元反応の構築、無機超分子触媒と可視光による水の分解などが挙げられる。機能の創製に関してはジルコニウム錯体を用いる新しい炭素―炭素結合形成反応と置換ペンタセンなどの化合物群の合成は発光素子など機能材料への応用が期待される。また無機ナノ結晶や人工骨、人工靭帯の新製法の構築、脂質ナノチューブ作成、有機ナノ結晶の作成、巨大パイ電子系の創出など大きな成果が見られる。医薬品につながる生物活性物質の合成に関する研究では、合成法の研究として不斉エポキシ化法、炭素系固体酸触媒、ハイブリッド型合成法開拓の成果が挙げられる。またターゲット分子としては制癌活性物質の探索と創製、複合体合成に基づく膜タンパク機能制御の研究が医薬品合成につながる成果として期待される。これらは実用化に進展することが期待され、社会貢献という点でもインパクトが大きい。特許化およびライセンスも極めてスムーズに行われており、基礎レベルでの高い成果と応用への展開のバランスも良い。

 

 

5.

その他

 

 北大などにおいて建物の設置や実験スペースが拡充したことや、東工大において先駆的な労働安全法対応モデル実験室の設置が認められるなどCRESTの機動性と連動して活性化が行なわれ研究室の整備にも進展が見られた。これらは本領域の活性化に大きく貢献するとともに研究環境の整備に関して国際的に遅れているわが国の現状を改善するモデルとして、大学関係者にインパクトを与えた功績は大きい。企業関係者の課題も採択されていたが、企業の研究方針変更によって、研究継続が難しくなるなどの問題点が見られた。斬新な選考方針であっただけに残念である。特許取得に関してはJSTから積極的な支援が行われたが、その後国立大学の法人化により制度が大きく変化している。特許は取得後の維持・運用など課題が多く国家戦略としてどうあるべきかの検証と将来展望が必要である。中国北京大学に研究拠点を設置するなど積極的な活動も可能であることを示した点なども高く評価できる。

戻る

 



This page updated on July 26, 2006

Copyright©2005 Japan Science and Technology Corporation.

www-admin@tokyo.jst.go.jp