研究領域 「電子・光子等の機能制御」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 本研究領域全体としての成果は、大きく三本の柱にまとめられる。第一は、電子の機能制御:新電子材料の研究とそれによる新デバイスの研究の成果であり、伊原(田中)、鈴木、小田、川原田各チームの成果である。第二は、光子の機能制御:新オプトエレクトロニック材料とそれによる新デバイスの研究の成果で、花村、中村(新)、中野、野田、覧具各チームの成果がこれに属する。第三は、量子情報処理の為の電子・光子等の機能制御の研究成果であり、平山、青柳、北川、鳳、中村(和)各チームの成果である。成果は多岐にわたるが、各チームの成果はいずれも世界トップ級の個別成果を含んでおり、総体として当初の戦略目標「分子レベルの新機能発現を通じた技術革新」への重要な一里塚を形成し、本研究領域の設置のねらいを十分に達成しているものと高く評価できる。

 また、この領域のチーム内から数多くの優秀な研究グループが引続き大型ファンドによる研究を続けており、本研究領域の存在により、本分野の日本における研究が大いに加速され、世界における貢献度から見た立場が向上したことは疑いもない。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 領域アドバイザーは、量子工学、材料科学、応用物理学、電子工学等の多くの分野を代表する7名の経験に富んだ有識者が選定されており、所属機関のバランスなども適正である。選考方針は、「研究提案の性格」から「研究組織」までの重点評価6項目に関して明確に定義されており、綿密に配慮された手順に従って選考が的確に行なわれている。平成10年度から3年次にわたり総計258件の応募の中から合計14件の課題が採択された。それらの課題はいずれも当時の日本における最も先行的な研究グループ群の中から自律的に形成された選りすぐりの研究チームが提案した課題といって過言でない。それらの課題は、電子・光子等の機能制御に関する科学指向の研究提案から電子・光子等の機能制御のデバイス、システムへの展開を指向した研究提案までを広くカバーしているが、そのいずれか一方に偏しただけの提案はほとんどなく、ある程度の幅やバランスをもった提案が大多数であったと見受けられる。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)

 

 研究領域の運営は、研究総括の優れた指導力と実行力のもとに極めて適切に行なわれた。まず本領域では独自にプレ中間評価が試みられ、課題研究の進展状況に応じて研究方向の是正助言や予算配分の適正化が早期にも行なわれている。続く中間評価も同様に勢力的に行なわれており、十分な措置がとられている。事後評価においても、独自方式として終了報告書要約を研究代表者に作成してもらい、研究成果、その貢献性、研究プロセス等について研究代表者の詳細な自己点検・評価を求め、その結果を事後評価のチェックに役立てている。また、英文ニュースレターを多数発刊し、本領域の成果の外部(海外を含む)への発信に努めた点も評価される。ホームページへの掲載はなされなかったようであるが、現時点で考えると、やや惜しまれる。

 これらすべてを通じて、綿密な運営計画のもとで研究総括、アドバイザー側と研究者側との対話や協議、改善が有効かつ円滑に行なわれたと見受けられ、本研究領域の成功の一大要因となっていると考えられる。

 

 

4.

研究結果(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 15倍以上の競争で選ばれた選りすぐりの14チームにより、それぞれ十分な成果が得られている。その中で、領域の目標に最もふさわしい成果として、カーボンナノチューブ量子ドット(青柳ら)、単電子量子ドット(平山ら)、2光子量子もつれ生成(北川ら)、スピントロニクス素子(鈴木ら)、フォトニクス結晶光ナノ共振器(野田ら)などの実現が注目され、将来デバイスへの発展が期待される。

 特に、フォトニック結晶(野田ら)に関する多くの成果はいずれも世界トップ級のもので特筆に値する。点欠陥、線欠陥をいずれも3次元あるいは2次元のフォトニック結晶に適切に導入する技術を確立し、光子の発生、伝搬、速度制御、分流、あるいは閉じ込めのための光ナノデバイスを実現ないしは大幅改良したものであり、フォトニック結晶の光エレクトロニクスへの応用への将来について、大きな希望をいだかせる成果である。理論もしっかり押えると共に、特許を46件出願しており、また多数の産業界の研究者を受入れて養成もしている。また、「相関エレクトロニクス」プロジェクト(平山ら)では、半導体中でのキャリア相関、特にその量子コヒーレント制御が将来の新しい半導体技術・量子情報処理技術として大きな可能性を持っていることを実証し、探索型基礎研究の代表的成果を上げた。

 

 

5.

その他

 

 初期のCRESTプロジェクトとして発足し、長年に亘り、領域総括及びアドバイザーらは過度の干渉を控えつつも、熱心な対話を通じ数多くのチームの研究推進へのきめ細かい指導と助言を適切に行なってきたことが、高く評価される。

 科学技術振興機構で進行している量子コンピューティング及び量子情報処理に関する諸プロジェクトを糾合して、本研究領域からの提案により、2002年にThe 10th JST International Symposium, Quantum Computingが開催されたことは有意義であり、このような統合的有機的な連携は将来にとっても重要なことと思われる。また、7年間にわたり季刊として詳しい英文ニュースレターが刊行、配布され、国際社会への研究領域としての情報発信を加速しただけでなく、CRESTの国際知名度の向上に貢献したことも、評価に値する。

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This page updated on July 26, 2006

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