研究領域 「医療に向けた自己組織化等の分子配列制御による機能性材料・システムの創製」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 本研究領域は、「ナノバイオ」と「自己組織化」をキーワードとして、化学を中心としてゲノム・タンパク質から人工組織化体の分野に広がりを有しており、その分野での測定法の創製を含めた多様な課題によって構成されている。その中から中間評価段階ではあるが後述するような高いレベルの成果が生み出されていて、世の中に大きく寄与しつつある、と同時に、新しい学問領域としての学術的な貢献度も極めて大きいと考えられる。

 研究総括の方針に沿って、「ナノバイオ」と「自己組織化」の系統的学理面を創設していただきたい。これは恐らく、世界的な重要な体系づくりに繋がるであろう。

 今後のステージにおいて、どのように「医療に向けて」という具体的な目標に結び付けて行くかについては、学術的なネットワークの構築や、企業関係者、医学関係者との広範な連携を期待したい。また、そのためにも、新たなる総合的な研究支援を必要とするであろう。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 課題の選考では、ゲノム解析情報と物性、タンパク工学的研究、巨大分子構築とその機能などの実現に向けて理念に基づいて研究を行っている研究者が適切に選考されている。合成化学から生命科学にまたがる広い分野において、多様な研究グループがバランスよく集められており適切であると考える。

 また、これらの課題を一つの研究領域として集約したことは、既存の学問分野の境界を乗り越えた新しい分野の研究者を育てていく上でも適切であると考える。

 アドバイザーの人数は7名と比較的少ないが、物理化学、物質科学や生命科学の先駆者によって構成されていて、本領域の特徴である広い分野をカバーする適切な人選となっている。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成、今後の取り組み等)

 

 まず、研究総括の基本方針として、多様で広い分野にまたがるそれぞれの研究課題を一つの研究領域としてまとまりある成果にするために、研究総括の指導力によって、領域に属する研究者の個人的な融合化(共通の言語を有する)を目指すいくつかの試みが実施されている。この事業を通じて「ナノバイオ」と「自己組織化」の教科書を仕上げたいという総括の取り組みには大きな期待が寄せられる。

 総括やアドバイザーが密に各研究チームと接触することによって、領域としての方針が個々の研究チームの運営に反映されている。一般社会への投げかけと、さらには、研究成果の活用という点からも「自己組織化の本質」と銘打った公開シンポジウムは有意義であったと判断する。

 予算配分については、研究チームの進捗状況を適宜把握しながら、方向性を指摘し、かつ、それに見合う予算配分を行っていると考える。

 

 

4.

研究進捗状況(研究領域の中で生み出されつつある特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 「ナノバイオ」と「自己組織化」という分野において、基礎学理的面と応用実用面の双方に発展性のある成果が得られている。例えば、独創性の高い分子システムをさらに発展させて巨大自己組織化構造を作り上げることに成功し、巨大中空構造体の合成、機能物質創製に関しては世界的な成果が得られており(藤田ら)、今後、ナノデバイスとその医療応用などでも実用化が期待されるものである。また、新しい計測手法の開発に関しては、新規なナノ液体・固体界面計測法の確立(栗原ら)や、タンパク質をレーザーにより配列させることに極めて効率の良い結晶化成功率を得た蛋白質結晶化技術の確立(徳永ら)が挙げられる。さらには、トポロジカルゲルを新しい機能性ヒドロゲルとして発展させて(伊藤ら)、コンタクトレンズ、人工血管、化粧品などの分野での応用が期待されている。また、これら以外の課題においても着実に研究が進展しており、成果をあげている。これらの中から、早くもベンチャー設立に到る実用性の高い成果も得られている。

 

 

5.

その他

 

 「医療に向けて」というこの研究領域の命題に対して、今後、医学・医療サイドからみたニーズを、一層、取り込むようにして欲しいとの意見がある。巨額の研究費に支えられた国家的ゲノム研究に対して、今後、いかにその情報を医療分野と結びつけていくかは重要な課題であるが、それには化学と生物学が融合したブレークスルーが必要であり、これらの基礎的研究への国家支援がより強く実施される必要性が叫ばれている。こうした観点からも、この研究領域の成果に期待すると共に、さらに関連する研究の進化が必要であると考えられる。

 研究総括の報告に、「領域には自己の学術用語の通じない幅広いグループが存在するので、若手研究者の交流を活発にして言語を共有化するようにしている。」とあったが、広い分野の研究者を一つの研究領域として研究総括の下でまとめられるのはCREST研究の優れた点であろうと考えられる。得られている成果も大きいが、新分野開拓とそれに挑戦する若手研究者を意識的に育成していることにも高く評価したい。

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This page updated on July 26, 2006

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