研究領域 「ソフトナノマシン等の高次機能構造体の構築と利用」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 研究者の構成は、一分子計測の得意な生物物理学を中心とする研究者のみならず、一流の生化学者を配した布陣であり、将来この分野が大きく広がる可能性を予測させるものである。即ち、比較的シンプルな系の計測が得意な生物物理学者も複雑なタンパク質複合体からなる分子機械を扱えるようになると思われるからである。しかし、他の研究領域に比べて応募者が少なめであったように思われる。

 この研究領域の推進に当たっては、研究総括の自然科学の研究理念(理論提示とその実験的証明)を前面に出したものとなっているのが特色となっている。これは総括の個性の発露として認められるべきものと思う。

 全体を通し、研究領域の各課題は基礎研究的なものが主体となっているので、ここでの研究成果が即、国民生活や社会経済などに大きなインパクトを与えることは少ないと思われる。しかし、研究総括の一つの見識の元にオリジナリティーの高い研究が展開されており、将来は基礎研究や応用研究の発展に役立つ革新的科学技術の開発に寄与することは間違いないものと思われる。今後の更なる研究進展に期待したい。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 総括の基礎研究に対する理念が本研究領域の選考方針やアドバイザーの構成、課題選定に色濃く反映されていたと思われる。

 一般的にアドバイザーとしては研究所長とか名誉教授とかかなりのご老体を選ぶのが

日本では常識のようであるが、研究総括の方針としてアドバイザーは若い現役の研究者にお願いしたとのことで、これは生物物理分野を中心として最近急速に発展してきた「一分子生物学」の今後の発展のために喜ばしいことである。

 課題の選考に当たっても苦労のあとが見られる。たとえばモータータンパク質、ATPアーゼなどの運動を観る「物理に近い領域」のみならず、生化学分野で話題になっている「タンパク質輸送にかかわるトランスロケーター」の採択、「分子モーターとしてのプロトン

ポンプ機構解明」に向けての生化学者の登用などは斬新な試みである。

 この領域は、CRESTの他の一般的な領域と少々その趣が異なっていたため、実績のある人々が研究代表者となっている。若手研究者にもチャンスを与える必要があったと思われるが、初年度(平成14年度)の競争倍率が僅か2倍強であったことからも伺えるように、そもそもの応募者が少なく、その結果、若手の応募者も僅かであったと思われる。即ち、この領域での日本人研究者層が薄いことを意味するものと思う。このような状況下での課題選考と採択課題のバランスが適当であったか否か正直なところ分からない。結果的にはこれで良かったのかもしれない。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成、今後の取り組み等)

 

 ナノ領域の生物学をコンセプトと技術に重点を置いて、本当のサイエンスを若い研究者に行わせるという研究総括の姿勢は高く評価できる。すぐには実用化を考えず、いずれは役に立つであろうという姿勢も研究者に安心感を与えるもので評価できる。また、若い研究者に研究できる時間と環境を与えるために雑用は研究総括と事務方が引き受けるという方針も立派である。全体として自由に行わせたことが成功につながっている。

 予算の配分については、総括の方針で強い傾斜配分がなされているのが特徴的である。知名度、研究費獲得能力の高い一部の研究者への研究費配分が多いように見受けられるが、業績の大きさやチームのスケールに応じて適切な配分であったものと考えられる。

 その他のマネジメントとして、年1回の領域会議(成果報告会)や各課題間の情報交換などがよくなされていたようである。また、新たに4研究グループが共同研究という形で参加し本プロジェクトの推進に協力したことなど、運営は全般によくいっていたと評価したい。

 

 

4.

研究進捗状況(研究領域の中で生み出されつつある特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 一分子生物学、ソフトナノマシンという言葉からは、我々の社会生活に関連してバイオセンサー、ナノデバイス、インテリジェント材料など実用的な素子がすぐにでも開発できそうな印象を与えるが、各研究課題は学術的・基礎的研究であるため、実用化には長期間を有する研究領域である。研究は誠に学術的であり、また、各研究者の業績も超一流であるため、この分野の日本における伝統を感じさせる。中でも、電子線結晶学的手法によるアクアポリン、アセチルコリンなどの膜タンパク質の構造解析と、アクチン・ミオシン系、キネシン・チューブリン系におけるATP利用メカニズムに関する研究は世界のトップレベルであると考えられる。

 一方、細胞生物学の進歩により、ミトコンドリアや小胞体におけるタンパク質輸送に関わるトランスロケーターと呼ばれるタンパク質分子機械が発見された。将来、一分子計測のターゲットとなることが予測される。この種の研究は生化学者のグループが進めているが今後は生物物理学者の出番が来るものと予想される。

 全体として、ここまでの研究はほぼ順調に推進されてきていると思う。

 

 

5.

その他

 

 本研究領域の競争倍率が低かったことが気に掛かる。応募数が高くなる方策を講じる必要があったのではないかと思われる。今後のCREST運営への反映を期待する。

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This page updated on July 26, 2006

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