研究領域 「高度情報処理・通信の実現に向けたナノ構造体材料の制御と利用」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 シリコンなどのLSIの限界が見え始めている現在、それを越える新しいナノ材料を用いたナノデバイス開発が強く望まれている。いくつかのナノデバイス関連のプロジェクトの中で、本領域の特徴は、物理、化学両面からの物質合成によりナノ物質を合成し、基礎科学、特に新しい電子状態の探索を基軸として、デバイスへの展開を視野に入れながら、新しいナノ物質の新しい物性究明を基本とした基礎研究であるという点である。

 これまで、新規ナノ材料の開発が行われ、新規な物性が観測され学術的インパクトの大きい成果が得られており、比較的順調に研究が進展してきていると判断される。研究成果は1700件発表されており、基礎研究ながら特許も比較的多く、波及効果も大きいと考えられる。それぞれの研究成果の応用にいたるまでの距離はさまざまであるが、本領域の最終目標であるデバイスの開発までは概して距離が遠い。デバイス応用については、応用先の分野のアドバイザーなども加えて議論しながら進めることが望まれる。

 本研究期間中にデバイス開発の見通しが得られない研究も多いであろうが、長い展望の下で将来的に技術的貢献に結びつく着実な研究成果が得られていると判断される。今後の発展を期待したい。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 ナノデバイス関連の領域の中で、本領域での課題選考は、ナノ構造体の物質科学、特に新しい電子状態の探索を基軸とした、あくまでナノ物質の物性究明を基本とする研究総括のフィロソフィーが貫かれている。選考課題は上記基本方針の下に、物理と化学分野から比較的バランスよく採用されていて、適切なチームが作られている。

 アドバイザーは物理、化学の実験および理論分野の実績を有する第一線の研究者が選ばれるとともに、企業からの研究者の参加も得て、バランスの取れた構成になっている。一方、良い材料が発見されたときに、その材料のデバイス応用について適切な助言を得るために、デバイス応用の専門家を交えて議論する必要もあるかもしれない。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成、今後の取り組み等)

 

 研究総括は、基礎研究を重視しながらも常に応用を視野に入れつつ領域運営を行ってきたことは適切であった。また、研究グループの取りまとめに関して指導力を発揮している。若手研究者を含めて多くの研究者を集め、年2回ミーティングを行うなど、チーム間の情報交換に努め、異文化の交流を深め、研究領域内の意識の共有化への努力が行われているなど、研究総括としてのマネージメントは適切であった。予算配分は、デバイスよりの課題に重みをつけて適切な配分になっている。

 研究過程で浮上した共通的広範囲課題として「電極問題」と「分子系の物性」に関するフォーラムを他の領域の研究者を含めて開催したことは、将来のナノデバイス研究の発展にとって適切なことであった。

 

 

4.

研究進捗状況(研究領域の中で生み出されつつある特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 物理学と化学および理論の研究者が参加する学際的環境の中で、熱心な研究、議論により、ナノ物質について多くの新現象の発見、新構造の実現、新理論の展開などが行われ、主として基礎科学の面から新規かつ有益な知見が集積されつつある。17年度のチームごとの中間評価結果に見られるように、それぞれすぐれた成果を挙げており、研究が順調に進捗していると判断される。中でも、負の熱膨張物質の合成、2層CNTを用いたトランジスター動作の確認、有機物質によるサイリスター現象の発見などは将来の応用が期待され、1次元スピン系、スピン液体相の発見など新しい基礎物性の発見が行われている。研究発表も十分行われており、学術的研究が多い中で特許の申請についての努力もなされている。

 また、ナノデバイスを開発していくためには、電極問題と分子系の物性の解明が不可欠であるという認識の下にフォーラムを開催し、周辺分野への波及効果にも貢献した。

 

 

5.

その他

 

 本領域は短期的にデバイス化を目指すのではなく、着実な学術的成果の蓄積をはかり、むしろ次期計画に大きな発展を期待すべきであろう。

 ナノテクノロジー分野別バーチャルラボである他領域(榊領域、梶村領域、蒲生領域)との積極的な相互作用を図ることも必要ではないか。特に、CNTのように同一物質の研究課題がいくつかの領域で行われており、それらの横の連携を図る仕組みも必要と思われる。

戻る

 



This page updated on July 26, 2006

Copyright©2005 Japan Science and Technology Corporation.

www-admin@tokyo.jst.go.jp