研究領域 「超高速・超省電力高性能ナノデバイス・システムの創製」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 超高速・超省電力ナノデバイスの開発は強く望まれるものであり、本研究領域はナノテクノロジーの主要な出口の一つとして重要な意義を持つ。わが国では大学における本格的なデバイス研究は少なく、その育成は緊急の課題である。企業では実施が困難な基礎的で挑戦的なデバイス研究を、大学を中心とした研究機関で盛んにし、実用指向を強くもつ企業の研究者・技術者の関心を引きつけるような成果をどんどん出せるようになることが望ましい。ものづくりの基礎となる材料研究でも、デバイスサイドの評価が適切になされないために、研究のための研究に陥ることも多く、材料研究の進展にも影を落としている。本研究領域は、このような大学における本格的なデバイス研究を支援するという点でも深い意義を持っている。

 個々の研究チームは着実に成果を上げてきている。研究成果の発表は1200件を超え、特許出願も40件近くあり、本研究領域は当該分野の進展に寄与している。本領域の成果は科学技術全体の基盤となるものであり、目標が達成されれば社会への波及効果が極めて大きい。今後は目標としている超高速・超省電力デバイス開発に向けて、研究チーム間の連携を強めるとともに、デバイス・システム化への共通した強い意識の下で努力し、関連する産業界にインパクトを与えるような実用性の高い成果をあげられることを期待したい。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 本研究領域のアドバイザーには、半導体および光分野の実績を有し、デバイス技術に造詣の深い研究者が選ばれており、構成は基本的に適切である。デバイス・システムの評価の観点から、企業研究者をより多く含む構成も有り得たが、大学在籍のアドバイザー4名にも、企業で優れた実績を挙げてきた2名も含まれており、広い視野が確保されている。

 研究課題の選考については、さまざまな物質系を広く対象とするとともに、デバイス開発という観点からもいろいろなフェーズの研究が広く選ばれており、バランスが良い。ナノデバイス開発に対する明確な問題意識をもつ提案が選ばれている。他方、37件の応募に対して10課題が採択され、CRESTとしては異例に高い採択率となっている。この結果、競争率や平均予算配分額が他のナノテクノロジー物理系3領域に比べ低くなった点は気に掛かる。また、本領域の狙いは、明確にデバイス・システムを指向していたが、応募された提案にシステム指向のものが少なく、この方向性を強く打ち出した組織構成となりえなかったことは、残念に思われる。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成、今後の取り組み等)

 

 研究総括は各研究チームの自主性を尊重しつつ、全体の取りまとめに努め、領域会議、公開シンポジウム、研究サイト訪問、チーム主催研究会等を通じて研究連携の効果をたかめようとよく努力している。例えば、秋山チームと荒井チームで共同研究が開始されているし、10チームの中には他にも近接した課題がある。研究期間の後半ではチーム間の連携をより強め、実用的意味の大きい課題に集中し、主たる目標である超高速・超省電力デバイスの開発に向けて実用的な成果を上げることが望まれる。

 予算に関しては、採択件数が多いため各グループの予算がやや少なめになっている。後半では、本研究の目玉となるような成果を上げるべく、各グループのターゲットを吟味し、思い切った選択と集中を望みたい。

 

 

4.

研究進捗状況(研究領域の中で生み出されつつある特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 1.5μm帯量子細線レーザ(荒井チーム)、各種の超小型バイポーラトランジスタ(古屋チーム)は、いずれも長年培った世界最高水準の技術と装置により達成された他では出せない成果であって、指標的意義が極めて大きい。また偏光双安定VCSELによる光バッファメモリ(河口チーム)、共鳴磁気トンネル・ナノドット不揮発性メモリ(小柳チーム)は、動作原理や特性からみて新規性や有用性が高い。その他のチームの研究も含めて、成果の中には従来研究の延長線上のものもあり、必ずしも本研究領域のみの成果といえない部分もあるように思われるが、おおむね順調に進捗しているようで、今後の発展に期待したい。

超高速ナノデバイスに関しては成果が上がりつつあるが、第2目標の超省電力化の研究をどう展開するか、超伝導・光・電子素子の各チームでの後半の取り組みに期待したい。

 また、本研究領域ではデバイス・システムの開発を主たる目標とする以上、企業の研究者・技術者の関心を引くような実用性の高い課題に集中して研究が進められることを重ねて望みたい。

 

 

5.

その他

 

 本領域の研究テーマには、他のナノテクノロジー物理系3領域の間でのテーマと強い関連を持つものも含まれている。例えば、「新ナノプロセシングの研究」は、ユニークな取り組みではあるが、「高度情報処理・通信の実現に向けたナノファクトリーとプロセス観測」研究領域での採択・推進が相応しいとも思われる。今後の制度の点検改良で一考を求めたい。

 本研究領域では昨年公開シンポジウムを行い、研究チーム間の交流および研究成果の公開の努力がなされている。今後、領域関係の全研究者を対象としたオンサイト的な交流会や分野別研究集会(例えば研究チームを3分野に分ける)なども行なえば、研究交流の推進や若手の養成によって研究目標の達成に一層資すると思われる。

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This page updated on July 26, 2006

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