研究領域 「たんぱく質の構造・機能と発現メカニズム」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 ポストゲノム研究時代に入り、本領域が現在進行中の「タンパク3000」プロジェクトと補完的な形となって、我が国のタンパク質研究の進展に大きく貢献しつつあることは評価してよい。さらに、さきがけ「生体分子の形と機能」も加わり3プロジェクトが(相乗効果まではいってないようだが)相互に刺激し合って、この分野の研究を展開させていく上で大きな期待を持たせるものである。

 「タンパク3000」プロジェクトも平成18年度で終了し、現在ポスト「タンパク3000」プロジェクトをめぐって、各種疾病関連タンパク質、環境・食品関連タンパク質、膜タンパク質専用ビームラインの提案などの議論がなされている。研究総括がCRESTで目指した研究はかなりの部分がポスト「タンパク3000」の内容そのものになる可能性もある。その意味では引き続きポスト「タンパク3000」を含めてCREST、「さきがけ」との連携がますます重要になるであろう。

 CRESTの高い競争率や評価の公正性重視を考慮すると、大胆な提案を採択できないことはよく理解できる。しかし研究総括が提案しているように小規模のグループを多数作り、競争倍率を10倍以下にし、研究総括に一定の留保金を持たせて研究総括が自分で面白いと思う研究に投資できるような柔軟性を持たせられれば、大胆な研究課題や失敗するかもしれないが面白い課題を採択できる可能性が生まれると思われる。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 研究総括の本領域における目標は「タンパク3000」プロジェクトとの補完的関係を持ちながら、生物学的に重要な現象を担うタンパク質の機能を構造との関係において究明し、よって構造生物学を通して生命現象を検証することであった。この考えに基づき、アドバイザーの構成は研究手法など考慮した専門領域を広くカバーして、細胞生物学からX線構造解析、NMRならびに分光学の専門家を加え、細胞生物学との接点ならびに企業との接点を重視した人選となっている。いずれも巨大プロジェクト「タンパク3000」終了後をにらんだ配慮で大いに評価できる。

 課題の選考においては、「タンパク3000」、さきがけ研究「生体分子の形と機能」との連携のもとに調整を行い、@面白い生命現象にかかわるタンパク質、A解析技術・手法、B大胆な発想に基づくタンパク質研究の3つを柱として選考を行ったが、Aは2件、Bは0件であった。研究総括が当初多少の期待を抱いていた、斬新な研究手法や失敗を恐れない挑戦的な課題の申請が少なく、また採択もされなかった。競争が激しい生命科学分野では、論文を量産しやすい分野に研究者が集まるという現象を反映した結果かもしれないが、理由はともかくとして残念である。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成、今後の取り組み等)

 

 ポストゲノムプロジェクトの一つとしてタンパク質研究が重視される時代になった。「タンパク3000」、CREST「たんぱく質の機能・構造と発現メカニズム」、さきがけ「生体分子の形と機能」の3プロジェクトの連携により課題選定を行うという方針を立てこれを実行した研究総括は、タンパク質分野におけるパイオニア的存在であり、高く評価されるべきである。

 ダイナミックな人員構成、評価結果に基づく予算の傾斜配分、技術参事の現場訪問、JST事務局も参加する連絡会議、地方での報告会開催など多彩な取り組みを行っている。特筆できることとして、さきがけ「生体分子の形と機能」との合同成果報告会の開催などをして相互の研究者間の意見交換をしたことは評価してよい。

 ただ、研究総括自身が指摘しているように、採択倍率が約20倍というためか、失敗を恐れない大胆な着想の課題が採択されなかったことに対し、今後の運営面でこの問題をどのように解決していこうとしているのか問われるであろう。今後は、論文が出にくい分野、特にタンパク質研究手法・技術の開発や、失敗する可能性が高くリスクの大きい研究課題も、研究総括の留保金で追加採択し、分野の近いチームに加えるなどの取り組みをしてはいかがかと考える。

 

 

4.

研究進捗状況(研究領域の中で生み出されつつある特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 現時点で採択課題の研究進捗状況は極めて順調であると言える。しかし、それは課題選考に当たって、これまで比較的研究実績のある、あまり失敗の少ない課題と研究者を選定したことによるものであって、それは極めて当然の帰結と言えよう。

 特筆すべき成果として、現在のNMRの測定限界分子量2万を5万に伸ばすSAIL法と、金粒子をタンパク分子に結合させてX線で観測する一分子解析法が紹介されたが、いずれも画期的なものである。前者はタンパク質を構成するアミノ酸の水素原子を選択的に重水素化してNMR信号を消す方法であり、高分子量タンパク質の骨格を見ることができるようにした画期的方法である。しかし20種類のアミノ酸すべてに選択的重水素化を施し、タンパク質を合成するには数億円を超える研究費を要するため、現段階では実用化への望みは薄いと思われる。重要な病気に関わるタンパク質などはこの方法で解析可能であろうし、過去においてラジオアイソトープも徐々に安価になった歴史もあるので、国家事業として実施するのも面白いかもしれない。また後者の一分子解析法は、従来光学的手法が中心であったが、SPring-8のX線を用いるもので研究室レベルへの展開を図ってほしい。また、オートファゴソームと自然免疫との関係、アミロイドタンパク質や薬物排出に働くタンパク質の構造解析は基礎研究としてばかりでなく、医療など応用研究としても将来が期待できるものであろう。

 本研究領域のなかで、特にNMRやX線構造解析が遅れているようである。通常、「タンパク3000」プロジェクトなどでは、解析が容易なタンパク質が選ばれる傾向があるのに対して、興味深いタンパク質は得てして膜タンパク質であったり、大量調製が難しかったりするので致し方ない。パラダイムシフトを起こすような手法、たとえばタンパク質一分子で立体構造解析できるような手法の開発を強く望む。

 

 

5.

その他

 

 研究総括が述懐しているように、このような研究領域では研究経費をもう少し下げても採択件数を増やしたいという意見には全く同感である。このことはJST側の問題でもあるが、このプロジェクトの立ち上げ時点で研究総括がもっと積極的にこれを推進すべく心掛けるべきであったのではないかと思う。

 課題面で、バイオインフォマティックスの課題が殆んど見られていなかったが、今後は教育面も含めて積極的に推進することが強く望まれる。また、植物関連の課題(オートファジーや液胞におけるタンパク質分解など植物生命現象に関わっている)もなかったことは残念である。

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This page updated on July 26, 2006

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