別紙2

堀越ジーンセレクタープロジェクト事後評価報告書

総括責任者: 堀越正美 (東京大学分子細胞生物学研究所 助教授)
 
研究体制: 蛋白質機能グループ 研究員八巻真理子他5名
選択分子機構グループ 研究員長谷川聡他2名
カスケードグループ 研究員片岡和宏他4名
評価委員: 石浜 明  (財)日本生物科学研究所 主任研究員
帯刀益夫  東北大学加齢医学研究所 所長
藤野政彦  武田薬品工業(株) 代表取締役・取締役会長

1. 研究の内容
 ゲノムプロジェクトの進展によって、ヒトをはじめとするいくつかの生物では遺伝子の全体像が明らかになってきたが、多細胞真核生物の個々の組織細胞では、それぞれ特定の遺伝子群だけが選択的に転写されており、実際に発現される遺伝子は限られている。堀越ジーンセレクタープロジェクトの研究構想は、生物機能の基本的メカニズムの上で中心的課題といえる転写の統合的理解にアプローチしようとするものであり、とくに、選択的転写機構の解明を目指す研究として、ポストゲノム時代の生命科学研究の最先端に位置付けられるものである。本プロジェクトでは、「独創的な研究」、特に「基礎的な研究」を進め、そこから「科学技術の芽」を生み出すというERATOプロジェクトの主旨に沿って、基礎学問的に達成度が高く、しかも発展性のある概念を提出できる研究を目指すため、研究領域を狭い範囲に限定することなく、複数の領域にわたって広域的な視点から研究対象を捉える形で研究を展開しようとした。
 そして、遺伝形質発現の上からその多様な構造と機能制御を担っているにもかかわらず、これまで生化学的、あるいは遺伝学的アプローチが困難であった染色体(あるいはクロマチン)の構造と機能の関係を研究対象の中心に据え、蛋白質機能、選択分子機構、カスケードの3グループの研究を総合的に把握しようという立場で研究を実施してきた。以下に本プロジェクトの研究成果の特徴的なものを挙げる。

1.1. 染色体構造変換反応機構について
 染色体のテロメア領域の構造的変換が、直接その機能的変換となること、そして、その転換制御がクロマチンの主要な構成成分であるヒストンのアセチル化、脱アセチル化という2種の正・逆化学修飾酵素の機能により説明できることを示した。これらの結果は、染色体には特定の機能・構造ドメイン領域が存在することを明確に示した最初の例であり、染色体レベルでの遺伝子活性化・不活性化の新たな仕組みを明らかにした研究として高く評価できる。さらに、特に注目すべきは、このヒストン修飾反応において、ヒストンN末テイル領域における化学修飾に規則性があるという発見であり、このヒストンコードが修飾酵素の特異性を規定しているという結果は、30年以上未解決であったヒストンの化学修飾と多様な染色体構造変換の制御の仕組みを説明する新しい概念を提唱できたことになった。

1.2. クロマチン構造変換反応に関与するヒストンの構造と機能について
 ヌクレオソーム構造表面に位置するヒストン領域のアミノ酸点突然変異体を網羅的に作製し、その構造-機能相関を初めて明らかにした。その機能が重要であるにもかかわらず、進化的に高度に保存されているため、これまで遺伝的解析に全くアプローチできなかったヒストンについて、ほとんど全てのアミノ酸に変異を導入することにより網羅的な変異体を作成し、酵母のアッセイ系を組み合わせて新しい機能解析を行ったことは、極めて独創的で勇敢な挑戦であった。これまでの解析結果だけでも、進化的に保存されたヒストンの立体構造の中に、それぞれ特徴的な制御因子と相互作用を持つ多数の特定の領域があることを示すことができ、これらがクロマチン構造変換を通してジーンセレクターとして遺伝子発現の制御機能に繋がるとする新しい概念を提唱した。また、これら点突然変異体が、特殊なアッセイ系でのみで効果を示すのではなく、生理的機能に影響を与えることも示すことができ、今後、これら網羅的変異株の生理機能の解析により、ヒストンの機能について全く新しい視点からの機能解析ができる。

1.3. クロマチン構造変換反応の制御の実体について
 クロマチン構造変換反応に重要な機能を持つヒストンアセチル化酵素HATのHATドメインや、ヒストンシャペロンCIAのヒストンシャペロンドメインがDNA結合性因子のDNA結合ドメイン(DBD)と機能的な相互作用をすることを発見した。また、最も進化的に保存されている転写基本因子であるTFIIDがヒストンシャペロンと機能的相互作用をすること、転写基本因子TFIIEがクロマチン因子cdc68と機能的相互作用をすることを発見した。これらの結果は、クロマチン構造変換反応と転写基本反応とが、これら制御蛋白質の機能ドメイン間の直接の相互作用により制御を受けていることを示したものであり、クロマチンという巨視的な構造の変換も、多様な制御因子間の直接の相互作用を調べ、統合化することにより、その機能的制御の実体に迫れると言う新しい研究方法論を開拓したものとして評価できる。

1.4. クロマチン構造変換機構に関わる機能未知因子の単離・解析
 この研究は、独創的な研究を行うための研究材料として必要不可欠である。本プロジェクトでは、これら未知制御因子の単離とその機能解析について、既知因子の機能ドメインの蛋白構造上の共通的モチーフに新たな特徴を見い出すことや、相互作用因子を単離することにより、100種類以上の機能未知因子の遺伝子をクローニングすることに成功した。そして、これら未知因子の機能解析から、ヒストンシャペロン活性(CIA、PPIase, TAFサブユニット, ORCサブユニット)、ヒストンアセチル化酵素(Tip60、SAS2、ESA1)、ヒストン脱アセチル化酵素(RPD3、SIR2)、加水分解酵素(CIB)、アポトーシス制御活性(Tip60、MYST因子、CIA、UNI1)、癌制御(Nas6/Gankyrin)等といった新規因子の生化学的機能を明らかにした。このように様々な未知因子を多数単離し、その機能解析を行った研究グループは世界的になく、一研究グループでこれだけ網羅的に単離したことは高く評価できる。一般的に言って、未知因子の機能を明らかにすることは容易ではないが、本プロジェクトでは、クロマチン構造変換機構に関わる機能未知因子の蛋白間相互作用に関わる機能的ドメインの相補的立体構造に注目する等の新しい視点を取り入れることにより、多くの未知因子について生化学的機能を明らかにすることに成功した。この結果は、さらにマルチサブユニット複合体のサブユニットの機能予測、およびサブユニット間の機能的相互作用を介した分子機構予測を初めて可能にしており、この手法は今後、ゲノム情報にもとづくマルチサブユニット複合体の解析方法の重要な方法論となると考えられ、その応用的展開と実験的証明が楽しみである。さらに、出芽酵母の核内因子を網羅的に単離し、クローン化したことにより、クロマチン構造変換の制御に関わる因子群の制御ネットワーク機構の解明のために必要な膨大な研究資材を生み出したことになり、今後の転写制御研究を進める上で大きな貢献となっている。

1.5. 転写開始反応に関わる転写開始複合体を形成する各種因子について
 アミノ酸配列の一次構造の比較ではなく、新たな視点から蛋白立体構造の特性を捉えなおすことにより、原核生物と真核生物の転写開始反応に関わる各因子間の比較をしたところ、これまで全く予想されていなかった因子間の相同性を発見した。これまでは、RNAポリメラーゼの各サブユニット間、TBPとσファクターとの相同性など、両者の機能的特性の上から予想される進化的保存性が当然視されていたが、本研究では、真核生物のTBPと原核生物RNAポリメラーゼサブユニットの NTD蛋白の立体構造の骨格を決めるフォールド構造が、アミノ酸の化学的性質と空間配置の上から相同性があることを発見した。この解析手段をもとに、さらに多数の因子について相互比較を行い、同様に真核生物のTFIIBと原核生物のσ2、σ3、σ4との間にフォールドの相同性を見い出した。これらの結果を進化的中間段階にあると予想される古細菌の転写開始複合体の因子とも比較し、結論として原核生物と真核生物の転写開始反応に関わる各因子は、転写装置(転写酵素と転写開始因子)としての機能を保存する形で進化し、結果としてそれぞれの因子の機能的分担が転換したという新しい仮説を提言することとなった。この新しい進化モデルは、必須となるフォールド構造に人工的変異を加える等の方法により実証することが可能であるばかりでなく、他の制御システムにも適応できることから、遺伝子の一次構造の相同性比較を越えた新しい生命進化の解析手段としても、その有効性が期待できる。

1.6. クロマチン構造変換を介して遺伝子発現制御に関わる因子の機能の機構論的研究
 本研究は、同時にその生理機能としての表現系と密接に結びついたものであるが、本プロジェクトでは、これまでの現象論からスタートしてその制御の実体としての蛋白質、遺伝子、その制御システムを理解する方向ではなく、ジーンセレクターとしてのクロマチン構造変換を介した遺伝子発現制御システムが、細胞機能の「維持」と「変換」としての増殖および死と、分化および癌化の機構に結びつくかと言う視点で研究を進めてきた。この中で2つの特筆すべき研究成果が生まれている。
 その一つは、CDK、RB相互作用因子Gankyrin(Nas6)の構造解析を通して、CDKのRB因子への特異的作用機作の正の制御の仕組みを初めて明らかにしたものであり、細胞周期や癌化のG1 S期の正の遺伝子発現制御の仕組みについて新しい視点を提示しており、今後の細胞周期・癌化の機能解析の上から注目すべき成果である。
 もう一つは、ヒストンシャペロンであるCIAの酵母変異株が細胞死を誘導することを見い出し、酵母における細胞死の機構を洗い直し、細胞死制御に関わるUNIと名付けた新規遺伝子を発見したことである。この遺伝子は、進化的にヒトから大腸菌間で保存されており、酵母、ヒト培養細胞、線虫など真核生物のみならず、大腸菌でも細胞死を誘導する機能を持つことを明らかにした。これまで、多細胞生物の細胞死の様式としてアポトーシスの研究が中心であるが、ここで発見された細胞死の機構は全く新しいものである。アポトーシス機構の普遍性・多様性を論じた研究はこれまでになく、その分子機構を全生物種で比較検討し、細胞死の分子機構の起源について論じ、しかもその機構が原核細胞生物および真核細胞生物まで広く存在していることを示したものとして高く評価できる。

2. 研究成果の状況
 本プロジェクトは、研究領域を狭い範囲に限定することなく、複数の領域にわたって広域的な視点から研究対象を捉える形で研究を展開し、発展性のある概念としてまとめようとした。その成果は、(1)ヒストンのN末テイル領域のヒストンコードの基本法則の発見、ヒストン全アミノ酸変異導入によるヒストンの構造活性相関の解析法の確立、ヒストンシャペロン活性、ヒストンアセチル化酵素、ヒストン脱アセチル化酵素など新規ヒストン修飾反応酵素の発見等、生物学的に重要であるにも関わらず、これまで研究が進んでいなかったヒストンについて、他方向から総合的に研究を進めた研究、(2)染色体領域の機能・構造ドメイン領域における領域決定制御の仕組みを明らかにした研究、(3)未知因子の生化学的機能を解明する手法を数多く開発し、また、サブユニット構造を持つ複合体のサブユニット機能を推定する方法を導入して、クロマチン構造変換反応と転写開始反応両者に関わる因子間の直接的な相互作用としてその機構を説明した研究、に大別されるが、本プロジェクトは、今日の転写、クロマチン研究領域の中で、特にインパクトのある研究成果を挙げたと考えられ、新しい概念を創成し、次世代の研究開拓の芽を生み出すという立場からは、極めて高い水準の成果を得ていると判断できる。
 個別の論文としての研究成果発表は少し遅れており、研究開始後3年を経過して出始めるようになったが、現時点で、Nature genetics、Cell、PNAS、Genes Cells、J. Biol. Chem.に発表あるいは採択された論文が12報ある他、全体で22報の論文をすでに発表しており、また、クロマチン、転写研究の研究者が集まる国際学会としてのKeystone Symposium、Cold Spring Harbor Symposiumを初めとする国際学会などを含めて国内外の学会での発表は76回に及んでいる。これまでに発表した論文の質、量、投稿雑誌のインパクトファクター等は、これまでの生物学系のERATOプロジェクトと比較しても高い水準にあると考えられる。また、終了間際に大きな成果の芽が数多く生まれていることから、今後3~5年の間に本研究プロジェクトが生み出した成果が結実してゆくことは間違いない。
 特許の取得についても、出願中の特許が6件、出願準備中の成果が8件あり、ERATOの生物系プロジェクトの中では他に比べ多くの成果を権利化していると位置づけられる。代表的なものとして、ヒストンの制御的役割に注目し、ゲノムDNAが関わる反応(遺伝子発現、クロマチン構造変換反応、細胞周期、細胞増殖など)を制御するヒストンの分子表面アミノ酸と相互作用因子(蛋白質・低分子化合物)を包括的に明らかにした成果に基づいた4件の権利化申請を行ったが、これらは創薬技術に関わる有用性と新規性を有するものである。また、クロマチン構造変換因子に関わる成果のうち、ヒストンシャペロン因子、細胞死制御因子、テロメア構造制御因子などについて2件を出願し、8件を出願準備している。いずれも細胞死、細胞老化、細胞癌化の標的となる作用機構を明らかにしたものであり、創薬手法として従来にない新規性を有しているものと考えられる。

3. 研究成果の科学技術への貢献
 本プロジェクト研究では、転写制御、クロマチンの研究領域のみならず、生命科学研究全般に貢献すると思われるいくつかの新しい研究方法論を開拓した。すなわち、ヒストンの機能についての総合的な研究方法論、染色体領域の機能・構造ドメイン領域決定制御の研究、未知因子の生化学的機能を解明する手法、サブユニット構造を持つ複合体のサブユニット機能を推定する方法、マルチサブユニット複合体のサブユニット機能や分子機構を解明する手法の確立、機構の変換を通した視点からの進化論、アポトーシス機構の普遍性・多様性、その起源について論じ、これまで予想され得なかった全生物を通じての細胞死の起原について統一的な研究基盤を提示したことなどが顕著なものである。また、転写研究の今日的な中心課題となっている「クロマチン」研究で新しい分野を切り開いただけでなく、「細胞の機能」を総合的に解析する分野、生物における「機構進化」分野などの新たな研究領域の創生につながる成果が得られたことは、生命科学研究の今後の発展領域を開拓したものとして、大きな貢献をしたと考えられる。
 また、研究成果の産業への貢献としては、医薬品開発につながる技術開発の観点から以下の点は重要と考えられる。
 本研究では、ヒストンのような進化的保存性の高い因子に対して全アミノ酸変異を用いる解析により、その生物学的機能を捕らえ直すことに成功しているが、このような変異導入自体は新規な手法ではないが、i) 基本的な因子に着目し、ii) 全アミノ酸に変異を加えて徹底的に検討するという2点を取り入れた技術導入は革新的であり、他の重要な因子についても同様の戦略を用いれば様々な反応系を統合して理解することにつながると思われる。また、本手法は、進化上アミノ酸が変化していないものに対してはDNAとの反応性やその作用メカニズムの共通基盤を理解することにつながる。現在の物理学的アプローチに片寄りやすいプロテオミックス研究の手法として再考慮すべき結果を提供していると思われる。ヒストンの点変異についての知見、そして癌化・老化・細胞死におけるクロマチン因子に関する医薬品との関連性についての知見を総合すると、染色体を標的とした薬剤を開発できると考えられる。
 アポトーシスの分子機構は多細胞生物で考えられてきたが、単細胞生物だけでなく、原核細胞生物においてもアポトーシス様の分子機構の存在を示したこと、それぞれの生物種の細胞死において、共通の分子基盤だけでなく、相違点も見出したことより、その差異を利用して、アポトーシス誘導システムの選択的開発を見出すことが可能になったといえる。また、癌化・老化にとって重要なテロメア、癌化の中心的な位置での制御、細胞死の一般化と多様化等における分子機構の解明は、新規医薬品開発を促すであろう。

4. 波及効果
 本プロジェクトで新しく切り開いたクロマチン研究の方向性は、日本のクロマチン、転写制御の研究に大きな影響を与える概念の創出や研究方法論の開発につながり、さらに細胞の機能全体にわたって進化を考えて解析する研究を通して、生物における「機構進化」という新しい分野が創出できたと考えられ、これらを今後具体的に実証して、さらに発展させ、研究者コミュニテイの中に進展させることが重要である。とくに、本プロジェクトでの研究成果と、開発した研究方法論、研究資材は、今後の染色体、転写制御研究の将来的展開の上から、非常に重要なものであり、公開して幅広い研究者と協力して新しい研究を展開して行くことが望ましい。また、本研究プロジェクトで示された、機能未知蛋白質因子の単離とその機能解析法は、蛋白質の構造と機能に関する新しい視点や方法論を提供しており、ポストゲノム研究の中での蛋白質研究に広く利用されるべきものと考える。
 本研究プロジェクトの研究成果は、癌、老化などの医学的研究に直接結びつき、また医薬品開発の上からも注目すべき成果が多いことも、今後の波及効果として期待できる。

5. その他の特記事項
 本プロジェクトの総括責任者は、若く、また、米国から帰国後間もない時期であり、国内での学術科学行政の知識、共同研究者・技術者収集の情報等を殆どもたない段階でプロジェクトをスタートしたため、全く新しい研究陣容を整え、研究をスタートさせるのにはかなりの苦労があったと察せられる。とくに、すでに流れが出来ている研究を推進発展させるのではなく、独創的な研究領域の開拓を目指すERATOプロジェクトの主旨を生かそうと真摯に取り組み、研究者にプロジェクトの研究構想の理解を浸透させ、具体的な研究成果に結実させるために大きな努力が払われたと思われるが、実質研究期間が3年から3年半ではあまりにも短く、実質研究期間は少なくとも5年は必要であったであろうと思われる。プロジェクト代表者が課題研究スタート前に、そうした知識・情報・経験を蓄積するまで適当な準備期間を与え、プロジェクト発足を待つことができる制度の導入を検討すべきであろう。
 ERATOプロジェクトの評価は、研究業績のみならず、いかに科学研究の新しい潮流を生み出したかと言う観点からすべきであり、この点では、本プロジェクトは非常に高く評価してよいと思われる。そして、本プロジェクトのように、芽という以上に新たな研究領域の創生ができたと思われる場合は、創成された領域をさらに花開かせるため、プロジェクトとしての研究継続に必要な措置が取られるべきである。
 また、研究成果、開発した研究方法論とともに、本プロジェクトで産み出された膨大な研究資材は、今後の染色体、転写制御研究の将来的展開の上から非常に重要なものであり、その管理、利用についても特別の配慮が必要であり、公開して、幅広い研究者と協力して新しい研究を展開して行くことが望ましい。また、本研究プロジェクトで示された、機能未知蛋白質因子の単離とその機能解析法は、蛋白質の構造と機能に関する新しい視点や方法論を提供しており、ポストゲノム研究の中での蛋白質研究プロジェクトなどと連携を組み、広く利用されるべきものと考える。
 本研究プロジェクトでは、博士研究員の活躍は少なかったが、逆により若い研究者の活躍が目立った。若い研究者の場合は指導に時間がかかるが、中には着実に独創的な研究を進め、様々な成果を挙げている者もいるので、今後の発展を期待したい。総括責任者は、その本務先である東京大学はもとより、分子生物学会でのワークショップなどを通じて、日本の染色体、転写制御研究で日本発の独創的な研究を育てたいと、若手研究者を刺激し、教育を進めており、本プロジェクトの成果を共有し、さらに大きく発展させるような研究者集団を形成することにより、新たな潮流を産み出してゆくための中心的役割を担ってゆくことを期待する。

6. 結語
 堀越ジーンセレクタープロジェクトが新しく切り開いたクロマチン研究の方向性は独創的なもので、日本のクロマチン、転写制御の研究に大きな影響を与える概念の創出や研究方法論の開発においてすばらしい成果を挙げた。さらに細胞の機能全体にわたって進化を考えて解析する研究を通して、生物における「機構進化」という新しい分野も創出できたと考えられ、これらを今後具体的に実証し、さらに発展させ、日本からの新しい研究の潮流を結実させるためにも、本プロジェクトの研究継続の措置が取られることを強く望むものである。

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