科学技術振興事業団の基礎研究事業に対する評価

コリン・ハンフリーズ
材料科学・冶金学部
ケンブリッジ大学
Cambridge CB2 3QZ, UK
2001年3月31日


1. 要約及び勧告
 科学技術振興事業団(JST)がERATO、CREST、PRESTO、ICORPの各事業の下で出資している研究は国際的に最先端の研究であり、極めて革新的かつ印象的である。私は以下の通り勧告する。
1.1 大成功のERATO事業は現在、毎年4件の新規プロジェクトを立ち上げているが、それを5件か6件に拡張すべきである。1プロジェクト当たりの出資金は通常20億円(約1600万米ドル、1100万英ポンド)だが、この金額はまず適切だろうと思う。
1.2 ERATO、CREST、ICORPプロジェクトを開始する以前に、プロジェクトディレクター或いはプロジェクトリーダーが正式開始日までに予め機材を注文し、スタッフを雇う手はずを整えることが出来るよう、2年間を限度とした立ち上げ期間を設けるべきである。
1.3 JSTは技術移転に関してかなり注意を払っているが、依然、問題があるように思われる。JSTがERATOやその他の事業から得られる新技術の移転問題を詳細に検討するための作業部会(Working Party)を設置することを勧告する。
1.4 CREST事業について質の高い研究空間を十分にあてがうために、オフ・キャンパスの用地(と言っても、大学のキャンパスの近くではあるが)を探すべきである。CREST事業のプロジェクトは優れて居り、その数の増加を図るべきである。
1.5 CREST、ERATOの両事業において、国際的代表者、特に西洋諸国からの代表者の参加をいかにして増やせるかを検討するための作業部会を設置すべきである。しかし、優れた西洋の科学者が人材不足であり(ただし、供給が需要を上回る生命科学分野は除く)、言葉の障壁もあるため、これは難しい問題であろうが。
1.6 最も成功を収めているPRESTO事業の規模を50%拡張すべきである。質を低下させずにこれを実現可能だと思う。1プロジェクト当たりの資金はまず適切である。3年間と5年間の2通りのPRESTOプロジェクトを設置することを考慮すべきである。
1.7 全てのJST事業の予算はもっと柔軟性を持つべきであり、プロジェクトの予算総額を超過さえしなければ、年度から年度へと予算を繰り越す(或いはその逆)ことが可能となるべきである。
1.8 ICORP事業は設置しづらく、運用も困難な面はあるが、抜群に優れており、今後も継続、拡張すべきである。この国際共同事業は日本と海外の相手国にとって非常に有益である。
1.9 JSTが大学に間接費を支払うことに決めた場合は、あまり多額であってはならない。おそらく給与に対して20-40%の範囲が妥当であろう。
1.10 国民の科学技術理解を増進するためのJSTの優れたプロジェクトを拡張すべきである。海外の一流科学者が実演付きの公開講座を開くことも恐らく一案として含まれよう。
   
2. 序文
 当評価は、科学技術分野におけるJSTの基礎研究事業を評価するためにJSTが設置した国際評価委員会の一員として、2001年2月22日-28日まで訪日した体験に基づいている。私以外に訪日した委員会のメンバーは、パー・カールソン教授(スウェーデン)、ジョージ・ガモタ博士(米国)、ガイ・ウィリソン教授(フランス)及びハンス・クワイサー教授(ドイツ)である。

 評価委員会はJSTが出資する多くの研究グループや研究者を視察し、研究グループのメンバーのプレゼンテーションを聞き、老若を問わず大勢の科学者と議論した。我々はJSTの出資戦略全般と個々のプロジェクトの詳細な資金提供に関して、優れた文書による資料を受け取った。我々はまた、JSTの役職員とも会合を持ち、討議した。これらの会合は全て非常に情報に富み、有益で、JSTは我々の訪日をきわめてうまく計画して下さった。

 この評価では、ERATO、CREST、PRESTO及びICORPの各JST事業に対して個別にコメントしようと思う。また、イギリスにおける間接費の実情と国民の科学技術理解に関してもコメントすることにしよう。
   
3. ERATO-Exploratory Research for Advanced Technology(創造科学技術推進事業)
 ERATO事業において、JSTは、5年間出資する主な研究プロジェクトの総括責任者となる人物を新しい重要な研究領域に取り組んでいる主だった研究者の中から慎重に選ぶために、「シンクタンク」を利用し、大勢の科学者と何度も面談している。5年間のプロジェクトに対する出資総額は通常20億円(約1600万米ドル、約1100万英ポンド)である。JSTと総括責任者は大学や国立研究所や産業界の科学者(通常、若手の科学者)から成るプロジェクトチームを選考する。資金面に関して言えば、当然、大部分の機材は1年目か2年目に購入され、後半の3年間は資金の大半が科学者に対する給与にあてがわれる。我々は、現在進行中の20のプロジェクトのうち、以下に述べる3ケ所のERATOプロジェクト現場を視察した。
3.1 北野共生システム(東京)
 これはコンピューター生物学・情報システムの新しい領域を確立することを目指しており、非常に野心的、刺激的、挑戦的で、脚光を浴びている研究プログラムである。総括責任者の北野博士は、ソニーコンピュータサイエンス研究所のシニアリサーチャーであり、元々、素粒子物理学者として教育されていた。
 彼は並外れた洞察力とエネルギーの持ち主である。このプロジェクトは約70%が生物学、30%がコンピュータ領域であり、22名のスタッフを雇い、1998年の正式開始日までに2年間の準備期間があった。
 このプロジェクトではソフトウエア開発に当たり、カリフォルニアのソニーと強く結託しており、プロジェクトの主要目的の一つは、開発されたソフトウェアをこの領域における国際的規格にすることにある。既にこのプロジェクトから4つのスピンオフ企業が派生した。このプロジェクトで開発された知能ロボットは非常に印象的であり、国際的な出版物(例えば「タイム」誌)に紹介され大変よく知られている。
3.2 難波プロトニックナノマシン(京都)
 このプロジェクトの目的は、例えば細菌べん毛の回転運動がどのように正確に駆動されるかといったように、生体分子マシンの基礎となる物理的過程とメカニズムを理解することにある。総括責任者の難波博士は松下電器産業(株)先端技術研究所の研究ディレクターである。1997年に開始されたこのプロジェクトの成果には実に驚いた。この研究は非常に美しいものである。とりわけ、べん毛を回転させる生体分子モーターの回転を駆動するプロトンの流れに関する詳細なメカニズムの決定は、見事な研究成果である。この学際的プロジェクトには15名の研究員が雇われており、最新の電子顕微鏡検査、X線回析、物理学及び生物学を駆使している。プロジェクトは松下で開始されたため、プロジェクトが正式に開始される以前の立ち上げ期間は必要とされなかった。
3.3 横山液晶微界面(筑波)
 このプロジェクトはつい最近、開始したばかりである。現在、JST雇用の11名のスタッフが研究に従事している。このプロジェクトの目的は、自己組織化する液晶の特性を理解し、液晶と生体分子を組み合わせて、液晶溶液内にナノメートルスケールの超構造を設計することにある。総括責任者の横山博士は電子技術総合研究所分子物理学研究室長である。この非常に刺激的なプロジェクトは、実験グループ(基礎と応用の2つのグループ)に理論とシミュレーションを組み合わせたものである。このプロジェクトから世界一流の研究成果が生まれる可能性は非常に大きい。
3.4 ERATOに対する評価と勧告
 行われている研究はきわめて革新的で、世界一流の研究で非常に印象的である。慎重に総括責任者を選考した後、多額の予算と大学や研究所や産業界出身の飛びきり有能な若手科学者から成る研究チームを総括責任者にあてがうというJSTの方針は極めてうまく機能している。イギリスにはこのようなシステムがなく、日本のERATOシステムは我々がイギリスで試みた同様のシステム(例えば学際研究センター)よりうまく機能している。
 従って私の最初の勧告は、JSTが開発した、大成功のERATOシステムを維持していくべきだ、ということである。現在は毎年4件の新規プロジェクトが立ち上げられているが、それを5件か6件に拡張することを勧告する。1プロジェクト当たりの出資金(1600万米ドル)はまず適切だろうと思う。

 私が視察した全てのプロジェクトにおいて、プロジェクト期間が5年間しかないというのは明らかに問題だった。しかしこれを延長することは勧めない。

機材を注文し、スタッフを選考、雇用する立ち上げ期間を総括責任者と慎重に調整し、2年間を限度として設けることを勧告する。そうすれば、5年間のプロジェクトが開始し、「本格的に始動する」ことができよう。もちろん、必ずしも2年間の立ち上げ期間は必要ではないかもしれない:この点に関しては柔軟性が必要だ。

 JSTの活動の多くは技術移転に依然として向けられているが、特にERATO事業から得られる新技術の移転に関する問題が依然として色々とあるというのが私のはっきりした印象である。その原因は分からないが、技術移転に関する研究者の知識不足が問題の一つかもしれない。もう一つの問題は、大企業よりもむしろ中小企業の方が往々にして新しいアイデアの開発への近道となっているため、総括責任者やスタッフの一部を雇用している大企業としては新しいアイデアが新参の中小企業で開発されるのを見てもあまりいい気がしないかもしれないという点である。私は、JSTが技術移転を調査するための作業部会を設置することを勧告する。
   
4. CREST-Core Research for Evolutionary Science and Technology(戦略的基礎研究推進事業)
 CRESTの目的は、大学や国立研究機関を通じて戦略的研究領域における基礎研究を推進することにある。JSTは旧科学技術庁が定めた戦略目標の範囲内で主要研究領域を選定し、各領域の研究提案を募集する。研究期間は5年間が限度で、1プロジェクト当たりの研究予算は通常、年間5000万円から2億円(40万米ドルから160万米ドル或いは30万英ポンドから110万英ポンド、間接費を含む)である。1プロジェクト当たりの研究者は通常10-20名である。我々は現在進行中の287のCRESTプロジェクトのうち、以下のプロジェクト現場を視察した。
4.1 電子波の位相と振幅の微細空間解像:北澤教授、外村博士
 あいにく私の乗り合わせた飛行機が遅れたため、視察に参加することができなかった。しかし、北澤教授をリーダーとして、ERATOのリーダーであった外村博士と協力して行っている見事な研究は、十分承知している。
4.2 反強磁性量子スピン梯子化合物の合成と新奇な物性:高野幹夫教授(京都大学)
 これは極めて斬新で挑戦的な研究プロジェクトである。
4.3 個体老化の分子機構の解明:鍋島教授(京都大学)
 この重要なプロジェクトの目的は、老化のメカニズムを研究することにある。遺伝子操作により、老化に関連した多数の疾患を有するklothoマウスという新種の変異マウスを得た成果が特記される。老化の原因遺伝子が同定されているので、その知見から今後老化の分子機構の研究、さらにそれらの治療法が開発される可能性が生まれている。
4.4 CRESTに対する評価と勧告
 私が視察したCRESTプログラムは高度に革新的で非常に成功を収めている。
プロジェクトは主に大学キャンパスで実施されており、プロジェクトリーダーは往々にして、十分な研究空間を探すのに苦労している。
 従って、CRESTプロジェクト用にキャンパス外の研究用地(と言っても、キャンパスの近くだが)を探すことを勧告する。CRESTプロジェクトの件数を増やすべきである。

 JSTが雇用するCRESTの500名の研究者のうち、26%は外国人であるが、大半はアジア出身である。CREST、ERATOの両事業ともに、外国人研究者の地理的分布をもっと広範囲に広める方がよいだろう。
 両事業において国際的な代表者、特に西洋諸国からの代表者の参加をいかにして増やせるかを検討するための調査委員会をJSTが設立することを勧告する。

 CRESTで利用できる研究費が柔軟性に富んでいることはすばらしいことだ。
 ERATOと同様、5年間のメインプロジェクト期間以外に、2年間を限度とした立ち上げ期間を設けることを検討するよう、勧告する。
   
5. PRESTO- Precursory Research for Embryonic Science and Technology(個人研究推進事業)
 PRESTOの研究領域として、真に胎芽的な科学技術領域が選ばれている。応募者の年齢制限がないため、若手研究者が独立して自らのアイデアを追求する絶好の機会となっている。PRESTOプロジェクトの期間は3年間で、各研究者に助言と研究支援を行う著明な領域総括(メンター)を置く。研究実施場所の制限もないため、各研究者は国公立大学や私立大学や研究所など、どこでもPRESTOの助成金を使用することができる。2000年度は、382名の研究者が総額40億円以上(約3400万米ドル、2400万英ポンド)に上るPRESTO助成金を得ていた。3年間にわたるプロジェクト期間中、各研究者が機材や消耗品を購入するためにあてがわれた予算は3000-4000万円(約25-32万米ドル、17-22万英ポンド)である。

 PRESTOは、若手科学者がERATO及びCREST事業で生まれたアイデアを追求するのに絶好の事業である。実際、ERATOプロジェクトに雇用された12名の若手科学者は後にPRESTOプロジェクトに移り、CRESTの場合も5名の若手研究者が引き続きPRESTOの助成金を獲得した。更にICORP(以下を参照)プロジェクトからも2名の若手研究者がPRESTOプロジェクトに移った。その逆の過程もある:成功を収めたPRESTOプロジェクトから7名の科学者がCRESTプロジェクトのリーダーに選ばれ、もう2名がERATOプロジェクトのディレクターに選ばれた。更にPRESTOから7名の研究者が引き続きTORESTプログラムで研究を継続した。このようにJSTの事業が互いに連動した、統合プログラムを形成していることが私にはとても印象的であった。

 我々は京都で4名のPRESTOの研究者からプレゼンテーションを受けた。それぞれが極めて印象的であり、PRESTOは明らかに非常に優れた仕組みである。若いPRESTOの科学者と会って話してみて、PRESTOが非常に競争的であり、3年間の助成期間が時には短すぎること、また年間予算を年度毎に使い切らねばならないということがわかった。PRESTOに選考された研究者の多くはその後、速く昇進する。例えば、3年間のPRESTOプロジェクトを終了した200名の研究者のうち、25名の大学講師または助手が教授か助教授に昇進し、21名の助教授が教授に昇進した。更に6名の民間企業の研究者が大学に移り、11名の民間研究機関の研究者が教授になった。

 私は、非常に成功しているPRESTO事業の規模を50%拡張することを勧告する。質を低下させずにこれを実現可能だと思う。1プロジェクト当たりの資金はまず適切である。

 また、3年間と5年間の2通りのPRESTOプロジェクトを設置することを考慮するよう、勧告する。また、研究予算の使い方にもっと柔軟性を持たせるべきであり、そうすれば、年度から年度への予算の繰り越しが可能となる。
   
6. ICORP-International Co-operative Research Project(国際共同研究事業)
 最後になったが重要なICORP事業について述べよう。ICORPの目的は、費用の平等負担を前提として日本と外国の研究者が提携することにより、科学技術の主要領域において新しい知識と概念を開発することにある。そこで日本で設置された研究チームが外国で設置された同様の研究チームと緊密に協力して研究する。研究プロジェクトとして選ばれる主要領域は、新素材、生命科学、電子工学などである。

 各ICORPプロジェクトの研究期間は5年間であり、各国10名程度の研究者を雇っている(プロジェクト全体としては20名)。通常、資金の60%は給与に支払われ、残りは機材や消耗品などの購入に当てられる。各研究チームは大学、産業界、政府研究機関の研究者で構成され、各国1名ずつの代表研究者が置かれている。1プロジェクト当たりの予算は、合計20億円(約1600万米ドル、1100万英ポンド)である。JSTとJSTに相当する相手国の機関との間で知的所有権を共有する。

 我々はナノチューブ状物質に関するICORPプロジェクト(代表研究者は名城大学の飯島澄男教授とフランスのCNRSエミー・コットン研究所のChristian Colliex教授)の現場を視察した。カーボンナノチューブの発見者である飯島教授は、このICORPプロジェクトで進行中の世界を先導する研究について述べた。それらは様々な視点から行われているカーボンナノチューブの研究で、特に、カーボンナノチューブの成長機構、ナノチューブやその他のナノ構造用新素材の合成、最新の電子顕微鏡や電子エネルギー損失分光計(EELS)を駆使した原子レベルでのナノチューブの評価などであった。最近では、ナノチューブに水素を閉じこめることができるかどうかを探索している。この非常に刺激的なプロジェクトは間違いなく世界的であり世界を先導している。

 私は特にICORP事業の継続と拡張を奨励したい。第一に、ICORPのような国際間協業は本来非常に難しいものであるということを認識せねばならない。両国の代表研究者は非常に優秀な科学者とリーダーであらねばならず、互いにうまくやって行かねばならない。両国の研究チームもまた同様であらねばならない。両国の管理者は、アプローチの違いや研究方法の違いを認識せねばならない。「全体になると部分の総和以上の力を発揮する(the whole is greater than the sum)」よう、2つの国際チームが真の統合を達成することは非常に難しいことであり、恐らく中には上述のような障害により失敗する国際プロジェクトもあるだろう。

 しかし成功の報酬は大きい。もしも日本と外国の世界一流の研究チームの統合が達成されれば、「全体になると部分の総和以上の力を発揮する」ことになり、そのプロジェクトは見解やインプットの違いから大きな利益を得るはずだ。更に、5年間というICORPプロジェクトのタイムスケールを超えて長期に存続する研究協力を達成すべきである。
 そこで私は、優れたICORPプログラムを継続し、拡張するよう、勧告する。
   
7. 間接費
 現在JSTは大学や研究機関に間接費を支払っていないか、支払っていても少額であるが、この点に関してはどうするか検討中である、と推察する。イギリスにおける間接費の実情は以下の通りである。欧州連合(EU)が出資する欧州ネットワーク助成金に関しては、EUが助成金を獲得した大学に対して助成金総額の20%の間接費を支払う、という取り決めになっている。多くの欧州諸国では、大学がこの間接費を全額あるいは大半、助成金を生み出した研究グループに研究費として返還している。大概のイギリスの大学(例えばケンブリッジ大学)はそうではなく、大学の中央管理部門が間接費を保持している。イギリスの大学のスタッフは、自分たちが他の欧州の研究グループと比べて不利になるため、この現状には不満である。

 研究会議(Research Council)(例えばEPSRC-Engineering and Physical Sciences Research Council)が支出するイギリス政府助成金に関しては、政府は研究助成金の給与部分に対して46%の間接費を支払っている。大学によっては、この間接費の一部を当該研究グループに返還しているが、ケンブリッジ大学ではこれも返還されていない。

 産業界が大学と結ぶ研究契約に関しては、間接費の請求額は大学次第である。Imperial College Londonは100%以上の間接費を請求している。ケンブリッジ大学は助成金の給与部分に対して最低70%の間接費を請求している。この場合もまた、ケンブリッジ大学は助成金を生み出した研究グループにこの間接費を返還しておらず、間接費を他のプロジェクトに使っている。イギリスの産業界の多くはこのように多額の間接費を支払うことに憤慨しており、これにより産学間の協力が弱まることになるだろうと思う。実際、イギリスの産業界は、海外の大学の方が間接費の請求額が少ないため、次第に海外の大学の研究に対する出資を増やしている。イギリスの学者の多くも、このような多額の間接費をもらっている大学本部に対して憤慨している。

 従って私は、JSTが多額の間接費を支払う結果とならないよう、忠告する。給与部分に対して20-40%の範囲の間接費が望ましい。
   
8. 国民の科学技術理解
 世界の多くの国々は、国民の科学に対するイメージと将来科学者やエンジニアになりたいと願う学童数の点で、問題をかかえている。

 科学技術の成功は経済の成功にとって欠くことができないため、科学に対する国民の意識を改善し、科学の振興を強化することが重要である。
 国民の科学技術理解を増進するためのJST事業は優れて居り、印象的ではあるが、もっと尽力した方がよいと思う。一つ考えられる活動として、もっと公開講座を増やし、非常に面白い講座を開く能力があることが立証されている海外の一流科学者に実地講演をしてもらうことが挙げられる。

 
履歴書
コリン・ジョン・ハンフリーズ FREng
現職:
ケンブリッジ大学、材料科学、Goldsmiths’教授(1990-)
王立科学研究所、実験物理学、教授(1999-)
ケンブリッジのセルウイン大学、特別研究員(教授)(1990-)
材料研究所、当選所長(2002-)
ロールス・ロイス大学ニッケル合金技術センター、所長(1994-)
"Reports on Progress in Physics"、編集長(2001-)
賞:
ロイヤル ソサイエンティー オブ アーツ メダル、1963
レジナルド・ミッチェル記念講演、同メダル、1989
金属研究所、ローゼンハイン・メダル、同賞、1989
トロント、D.K.C.マクドナルド記念講演、1993
材料研究所、Elegant Work賞、1996
オーストラリア科学アカデミー、セルビー・フェロー、1997
オックスフォード、ヒューム・ロスリー記念講演、1997
ロンドン、グラッドストーン講師、1999
物理学研究所、ケルビン・メダル、同賞1999
シェフィールド、ハットフィールド記念講演、2000
シンガポール及びマレーシア、スターリング講師、2001
欧州材料協会連合、金メダル、2001
生年月日等: 1941年5月24日、既婚、2児、英国人
自宅: 8 Diamond Close, Cambridge CB2 2AU
Tel:01223 365725
勤務地: 材料科学・冶金学部
ケンブリッジ大学
Pembroke Street, Cambridge CB2 3QZ
Tel:01223 334457; Fax:01223 334437
e-mail:colin.humphreys@msm.cam.ac.uk
学位:
理学士(ロンドン、インペリアル大学)物理学最優等学位
文学修士(オックスフォード);博士(ケンブリッジ)
専門機関: FREng、FIM(副社長、2000-01)、FInstP、FRMS
国内及び国際協会:
王立工学院、特別会員(1996-)
欧州アカデミー(Academia Europaea)、会員(1991-)
ゴールドスミス・カンパニー、同業組合員(1997-)
旧ロンドン市部(City of London)、自由市民(1994-)
Armourers and Braisiers' Company、自由市民(1998-)
リンク・ハウス、保管人(1994-)
アメリカ、ジョン・テンプルトン協会、会員(1994-)
カナダのヴィクトリア、カナダ中国研究大学、名誉学長(1996-)
物理学研究所、Public Understanding of Physics、 特別会員(1997-99)
英国科学振興協会、物理部門、会長(1998-99)
産業界での職歴:
米国ピッツバーグ、US スチール・コーポレーション(1969)
ニュージャージー州マレーヒル、AT&T ベル研究所(1979)
現在所属する委員会:
ケンブリッジ大学物理化学部教授会、議長(2000-)
電子素材・装置に関する国家諮問委員会(1999-)
HEFCE研究評価実践2001材料・冶金委員会(1999-2001)
EPSRC,ESRC,BBSRC、Innovative Manufacturing Initiative、管理委員会(1994-)
EPSRC 、機能性材料大学(1995-)
リンク・ハウス、管理委員会(1994-)
クランフィールド大学、役員会(1994-)
過去の役職:
ケンブリッジ大学、材料科学・冶金学部長(1991-95)
ケンブリッジ大学、材料科学・冶金学部、材料科学部教授(1990-92)
リバプール大学、材料工学Henry Bell Wortley教授及び同大学材料科学・工学部長(1985-90)
オックスフォード大学、冶金学・材料科学部、講師(1980-85)
オックスフォード、イエズス会大学、シニア・リサーチ・フェロー(1974-85)
海外での役職:
日本、科学技術庁、ERATOプロジェクト、シニア・リサーチ・アドバイザー(1996-)
米国、アリゾナ州立大学、客員教授(1979)
米国、イリノイ大学、材料研究所、顧問(1982,1983)
イリノイ大学、材料科学・工学部、客員教授(1984,1985,1986)
日本、筑波、金属材料技術研究所、客員教授(1996)
過去に所属していた委員会:
合同研究審議会の長期技術検討委員会(1999-2000)
材料の強度に関する国際会議の国際委員会(1991-2000)
DTI、犯罪防止特別調査委員会(1999-2000)
英国科学振興協会、物理部門、プログラム委員会、委員長(1998-1999)
EECの国際科学協力プログラムに対する先端材料評価委員会(1989-95)
Innovative Manufacturing Initiative、航空宇宙部門標的諮問グループ(1995-98)
科学技術省、材料に関する技術予測委員会、副委員長(1994-99)
工学技術プログラムに対するBBC独立諮問委員会(1995-97)
科学技術省、金属限界調査委員会、委員長(1996-99)
材料研究所、審議会(1992-96)
EPSRC濃縮物質物理学検討委員会(1995-96)
EC加盟国を代表してPettenとIspraのEC先端材料研究所を評価するためのEC視察グループ(1993)
先端材料国家研究プログラムのリーダーの欧州ネットワーク、副委員長(1991-94)
金属研究所、審議会(1989-91)
SERC、審議会(1988-92)
新素材の原子構造、設計及び制御に関する英日共同国際研究プログラム、代表研究者(1992-98)
SERC、材料科学・工学委員会、委員長(1988-92)
航空宇宙材料・構造調整委員会、副委員長(1996-98)
SERC、科学局(1990-92)
SERC、工学局(1988-92)
SERC、工学局、兼職(1988-92)
SERC、Council Awards Panel(1988-92)
SERCシンクロトロン放射光施設委員会(1980-83)
SERC半導体・表面物理学小委員会(1981-84)
SERC金属小委員会(1981-84)
SERCシンクロトロン科学検討委員会(1985-86)
SERC金属小委員会、委員長(1986-88)
SERC材料委員会(1986-88)
SERC科学局考古学委員会、プログラム諮問委員会(1987-88)
SERC材料検討委員会(1987)
SERC材料上級検討委員会、委員長(1987-88)
LINK先端半導体材料プログラムのDTI/SERC諮問委員会(1987)
SERC低次元構造・装置検討委員会(1988)
SERC材料調査委員会、委員長(1988)
国際結晶学同盟、電子回析委員会、委員長(1984-87)
国際結晶学同盟、国際会議委員会(1984-87)
王立顕微鏡協会、審議会(1988-89)
王立科学研究所、デイヴィー・ファラデイ研究所委員会(1989-92)
編集委員会:
固体物理学・化学ジャーナル(Journal of the Physics and Chemistry of Solids)
材料科学ジャーナルーエレクトロニクスの材料(Journal of Materials Science-Materials in Electronics)
 

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