コリン・ハンフリーズ
材料科学・冶金学部
ケンブリッジ大学
Cambridge CB2 3QZ, UK
2001年3月31日
1. 要約及び勧告 | |||||||||||||||||||||
科学技術振興事業団(JST)がERATO、CREST、PRESTO、ICORPの各事業の下で出資している研究は国際的に最先端の研究であり、極めて革新的かつ印象的である。私は以下の通り勧告する。
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2. 序文 | |||||||||||||||||||||
当評価は、科学技術分野におけるJSTの基礎研究事業を評価するためにJSTが設置した国際評価委員会の一員として、2001年2月22日-28日まで訪日した体験に基づいている。私以外に訪日した委員会のメンバーは、パー・カールソン教授(スウェーデン)、ジョージ・ガモタ博士(米国)、ガイ・ウィリソン教授(フランス)及びハンス・クワイサー教授(ドイツ)である。 評価委員会はJSTが出資する多くの研究グループや研究者を視察し、研究グループのメンバーのプレゼンテーションを聞き、老若を問わず大勢の科学者と議論した。我々はJSTの出資戦略全般と個々のプロジェクトの詳細な資金提供に関して、優れた文書による資料を受け取った。我々はまた、JSTの役職員とも会合を持ち、討議した。これらの会合は全て非常に情報に富み、有益で、JSTは我々の訪日をきわめてうまく計画して下さった。 この評価では、ERATO、CREST、PRESTO及びICORPの各JST事業に対して個別にコメントしようと思う。また、イギリスにおける間接費の実情と国民の科学技術理解に関してもコメントすることにしよう。 |
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3. ERATO-Exploratory Research for Advanced Technology(創造科学技術推進事業) | |||||||||||||||||||||
ERATO事業において、JSTは、5年間出資する主な研究プロジェクトの総括責任者となる人物を新しい重要な研究領域に取り組んでいる主だった研究者の中から慎重に選ぶために、「シンクタンク」を利用し、大勢の科学者と何度も面談している。5年間のプロジェクトに対する出資総額は通常20億円(約1600万米ドル、約1100万英ポンド)である。JSTと総括責任者は大学や国立研究所や産業界の科学者(通常、若手の科学者)から成るプロジェクトチームを選考する。資金面に関して言えば、当然、大部分の機材は1年目か2年目に購入され、後半の3年間は資金の大半が科学者に対する給与にあてがわれる。我々は、現在進行中の20のプロジェクトのうち、以下に述べる3ケ所のERATOプロジェクト現場を視察した。
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4. CREST-Core Research for Evolutionary Science and Technology(戦略的基礎研究推進事業) | |||||||||||||||||||||
CRESTの目的は、大学や国立研究機関を通じて戦略的研究領域における基礎研究を推進することにある。JSTは旧科学技術庁が定めた戦略目標の範囲内で主要研究領域を選定し、各領域の研究提案を募集する。研究期間は5年間が限度で、1プロジェクト当たりの研究予算は通常、年間5000万円から2億円(40万米ドルから160万米ドル或いは30万英ポンドから110万英ポンド、間接費を含む)である。1プロジェクト当たりの研究者は通常10-20名である。我々は現在進行中の287のCRESTプロジェクトのうち、以下のプロジェクト現場を視察した。
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5. PRESTO- Precursory Research for Embryonic Science and Technology(個人研究推進事業) | |||||||||||||||||||||
PRESTOの研究領域として、真に胎芽的な科学技術領域が選ばれている。応募者の年齢制限がないため、若手研究者が独立して自らのアイデアを追求する絶好の機会となっている。PRESTOプロジェクトの期間は3年間で、各研究者に助言と研究支援を行う著明な領域総括(メンター)を置く。研究実施場所の制限もないため、各研究者は国公立大学や私立大学や研究所など、どこでもPRESTOの助成金を使用することができる。2000年度は、382名の研究者が総額40億円以上(約3400万米ドル、2400万英ポンド)に上るPRESTO助成金を得ていた。3年間にわたるプロジェクト期間中、各研究者が機材や消耗品を購入するためにあてがわれた予算は3000-4000万円(約25-32万米ドル、17-22万英ポンド)である。 PRESTOは、若手科学者がERATO及びCREST事業で生まれたアイデアを追求するのに絶好の事業である。実際、ERATOプロジェクトに雇用された12名の若手科学者は後にPRESTOプロジェクトに移り、CRESTの場合も5名の若手研究者が引き続きPRESTOの助成金を獲得した。更にICORP(以下を参照)プロジェクトからも2名の若手研究者がPRESTOプロジェクトに移った。その逆の過程もある:成功を収めたPRESTOプロジェクトから7名の科学者がCRESTプロジェクトのリーダーに選ばれ、もう2名がERATOプロジェクトのディレクターに選ばれた。更にPRESTOから7名の研究者が引き続きTORESTプログラムで研究を継続した。このようにJSTの事業が互いに連動した、統合プログラムを形成していることが私にはとても印象的であった。 我々は京都で4名のPRESTOの研究者からプレゼンテーションを受けた。それぞれが極めて印象的であり、PRESTOは明らかに非常に優れた仕組みである。若いPRESTOの科学者と会って話してみて、PRESTOが非常に競争的であり、3年間の助成期間が時には短すぎること、また年間予算を年度毎に使い切らねばならないということがわかった。PRESTOに選考された研究者の多くはその後、速く昇進する。例えば、3年間のPRESTOプロジェクトを終了した200名の研究者のうち、25名の大学講師または助手が教授か助教授に昇進し、21名の助教授が教授に昇進した。更に6名の民間企業の研究者が大学に移り、11名の民間研究機関の研究者が教授になった。 私は、非常に成功しているPRESTO事業の規模を50%拡張することを勧告する。質を低下させずにこれを実現可能だと思う。1プロジェクト当たりの資金はまず適切である。 また、3年間と5年間の2通りのPRESTOプロジェクトを設置することを考慮するよう、勧告する。また、研究予算の使い方にもっと柔軟性を持たせるべきであり、そうすれば、年度から年度への予算の繰り越しが可能となる。 |
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6. ICORP-International Co-operative Research Project(国際共同研究事業) | |||||||||||||||||||||
最後になったが重要なICORP事業について述べよう。ICORPの目的は、費用の平等負担を前提として日本と外国の研究者が提携することにより、科学技術の主要領域において新しい知識と概念を開発することにある。そこで日本で設置された研究チームが外国で設置された同様の研究チームと緊密に協力して研究する。研究プロジェクトとして選ばれる主要領域は、新素材、生命科学、電子工学などである。 各ICORPプロジェクトの研究期間は5年間であり、各国10名程度の研究者を雇っている(プロジェクト全体としては20名)。通常、資金の60%は給与に支払われ、残りは機材や消耗品などの購入に当てられる。各研究チームは大学、産業界、政府研究機関の研究者で構成され、各国1名ずつの代表研究者が置かれている。1プロジェクト当たりの予算は、合計20億円(約1600万米ドル、1100万英ポンド)である。JSTとJSTに相当する相手国の機関との間で知的所有権を共有する。 我々はナノチューブ状物質に関するICORPプロジェクト(代表研究者は名城大学の飯島澄男教授とフランスのCNRSエミー・コットン研究所のChristian Colliex教授)の現場を視察した。カーボンナノチューブの発見者である飯島教授は、このICORPプロジェクトで進行中の世界を先導する研究について述べた。それらは様々な視点から行われているカーボンナノチューブの研究で、特に、カーボンナノチューブの成長機構、ナノチューブやその他のナノ構造用新素材の合成、最新の電子顕微鏡や電子エネルギー損失分光計(EELS)を駆使した原子レベルでのナノチューブの評価などであった。最近では、ナノチューブに水素を閉じこめることができるかどうかを探索している。この非常に刺激的なプロジェクトは間違いなく世界的であり世界を先導している。 私は特にICORP事業の継続と拡張を奨励したい。第一に、ICORPのような国際間協業は本来非常に難しいものであるということを認識せねばならない。両国の代表研究者は非常に優秀な科学者とリーダーであらねばならず、互いにうまくやって行かねばならない。両国の研究チームもまた同様であらねばならない。両国の管理者は、アプローチの違いや研究方法の違いを認識せねばならない。「全体になると部分の総和以上の力を発揮する(the whole is greater than the sum)」よう、2つの国際チームが真の統合を達成することは非常に難しいことであり、恐らく中には上述のような障害により失敗する国際プロジェクトもあるだろう。 しかし成功の報酬は大きい。もしも日本と外国の世界一流の研究チームの統合が達成されれば、「全体になると部分の総和以上の力を発揮する」ことになり、そのプロジェクトは見解やインプットの違いから大きな利益を得るはずだ。更に、5年間というICORPプロジェクトのタイムスケールを超えて長期に存続する研究協力を達成すべきである。 そこで私は、優れたICORPプログラムを継続し、拡張するよう、勧告する。 |
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7. 間接費 | |||||||||||||||||||||
現在JSTは大学や研究機関に間接費を支払っていないか、支払っていても少額であるが、この点に関してはどうするか検討中である、と推察する。イギリスにおける間接費の実情は以下の通りである。欧州連合(EU)が出資する欧州ネットワーク助成金に関しては、EUが助成金を獲得した大学に対して助成金総額の20%の間接費を支払う、という取り決めになっている。多くの欧州諸国では、大学がこの間接費を全額あるいは大半、助成金を生み出した研究グループに研究費として返還している。大概のイギリスの大学(例えばケンブリッジ大学)はそうではなく、大学の中央管理部門が間接費を保持している。イギリスの大学のスタッフは、自分たちが他の欧州の研究グループと比べて不利になるため、この現状には不満である。 研究会議(Research Council)(例えばEPSRC-Engineering and Physical Sciences Research Council)が支出するイギリス政府助成金に関しては、政府は研究助成金の給与部分に対して46%の間接費を支払っている。大学によっては、この間接費の一部を当該研究グループに返還しているが、ケンブリッジ大学ではこれも返還されていない。 産業界が大学と結ぶ研究契約に関しては、間接費の請求額は大学次第である。Imperial College Londonは100%以上の間接費を請求している。ケンブリッジ大学は助成金の給与部分に対して最低70%の間接費を請求している。この場合もまた、ケンブリッジ大学は助成金を生み出した研究グループにこの間接費を返還しておらず、間接費を他のプロジェクトに使っている。イギリスの産業界の多くはこのように多額の間接費を支払うことに憤慨しており、これにより産学間の協力が弱まることになるだろうと思う。実際、イギリスの産業界は、海外の大学の方が間接費の請求額が少ないため、次第に海外の大学の研究に対する出資を増やしている。イギリスの学者の多くも、このような多額の間接費をもらっている大学本部に対して憤慨している。 従って私は、JSTが多額の間接費を支払う結果とならないよう、忠告する。給与部分に対して20-40%の範囲の間接費が望ましい。 |
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8. 国民の科学技術理解 | |||||||||||||||||||||
世界の多くの国々は、国民の科学に対するイメージと将来科学者やエンジニアになりたいと願う学童数の点で、問題をかかえている。 科学技術の成功は経済の成功にとって欠くことができないため、科学に対する国民の意識を改善し、科学の振興を強化することが重要である。 国民の科学技術理解を増進するためのJST事業は優れて居り、印象的ではあるが、もっと尽力した方がよいと思う。一つ考えられる活動として、もっと公開講座を増やし、非常に面白い講座を開く能力があることが立証されている海外の一流科学者に実地講演をしてもらうことが挙げられる。 |
履歴書 コリン・ジョン・ハンフリーズ FREng |
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現職: |
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賞: |
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生年月日等: | 1941年5月24日、既婚、2児、英国人 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
自宅: | 8 Diamond Close, Cambridge CB2 2AU Tel:01223 365725 |
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勤務地: | 材料科学・冶金学部 ケンブリッジ大学 Pembroke Street, Cambridge CB2 3QZ Tel:01223 334457; Fax:01223 334437 e-mail:colin.humphreys@msm.cam.ac.uk |
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学位: |
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専門機関: | FREng、FIM(副社長、2000-01)、FInstP、FRMS | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
国内及び国際協会: |
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産業界での職歴: |
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現在所属する委員会: |
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過去の役職: |
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海外での役職: |
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過去に所属していた委員会: |
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編集委員会: |
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