別紙14
創造科学技術推進事業においては、プロジェクト終了後5年以上を経過したすべてのプロジェクトについて、研究の継続性、進展性、実用化、人材育成などについての追跡調査(1998-1999)を行った。その結果、「新たな科学技術の流れ」を創り出した例や「科学技術の芽」が革新的な科学技術に育った多数の例が検証された。そのような例には、プロジェクトの終了時点では必ずしも明確でないが終了後に顕わになるものが多く、とりわけ「科学技術の芽」は、プロジェクト終了後10年あるいは15年を経過してはじめて真の価値を検証することが可能であった。以下に代表的な事例を示す。
林超微粒子プロジェクト(1981-1986、総括責任者 林主税) |
金属超微粒子は、戦前、我が国においてはじめて発見された新しい金属構造である。本プロジェクトは、当時日本真空技術(株)社長であった総括責任者のもとに、金属だけでなく半導体、磁性、有機材料などの様々な材料の超微粒子を作る技術、それら超微粒子の特に常温における基礎特性の解明、ならびに新材料としての応用開発をめざした。その研究は、当事業団の委託開発や、(株)真空冶金における開発研究などに継承して、各種超微粒子製品、超微粒子製造装置や高温超伝導ガスデポジション装置などが事業化されている。このように、金属超微粒子は新材料として科学技術界に完全に定着している。一方、有機材料および高温超伝導材料の微粒子は今後の発展が期待される。本研究分野は現在ではプロジェクト開始時の5倍以上に成長していることが論文調査から判明した。因みに、1990年代後半からは海外においてもスウェーデン、ドイツ、イギリス、フランス、米国、中国などの大型研究プロジェクトとして進行中である。 飯島澄男が、その場・実時間の電子顕微鏡法を用いて偶然に発見したカーボンナノチューブは、その後NEC筑波研究所に移った飯島自身によって炭素だけからなる新しい安定構造体として同定され、現在ICORP(1997-2002:日本側代表者 飯島澄男)をはじめ、世界各地で盛んに研究されて、水素の格納庫や最小安定な導電性ワーヤーなどの可能性を秘めた先端工学材料として最も注目を集めている。 |
増本特殊構造物質プロジェクト(1981-1986、総括責任者 増本健) |
本プロジェクトは、新しい金属材料としてのアモルファスに注目し、アモルファス相、アモルファス分解相、人工結晶相、超格子相、複合構造相、準結晶相、ナノ複合相、組織勾配相などの作成法、構造、物理特性などを組織的に研究した。本研究は通産省基盤技術研究開発((株)アモルファス電子デバイス研究所(1988-1994))、(株)YKK、トヨタ自動車工業(株)などに継承されて、それらの実用化研究が行われた。なかでもアモルファス金属微粒子は、委託開発課題での開発研究を経て、半導体産業用有毒ガスのセンサー製品として実用化されて世界一のシェア―を占めている。 研究の一課題であるアモルファス分解相の研究過程で、ある種の複合アモルファス系は、低温で長時間処理を施すと内部にナノ結晶が生まれること、併せて、通常の結晶転移点と異なるガラス転移点とおぼしき温度が存在するという「科学技術の芽」が生まれている。その芽は、プロジェクト終了後に東北大学金属材料研究所において、井上明久らの増本グループによる組織的な研究によって金属ガラスという特殊な安定金属相として同定された。金属ガラスは、ERATO井上過冷金属プロジェクト(1997-2002、総括責任者 井上明久)に引き継がれて金属材料の新たな歴史を作ろうとしている。 |
緒方ファインポリマープロジェクト(1981-1986、総括責任者 緒方直哉) |
本プロジェクトは、縮合系ポリマーを主な材料に用いて、光、熱、圧力など種々の外因性の刺激に応答する機能性ポリマーを設計、作成し、インテリジェント材料化学の領域を体系的に作ることをめざした。その結果、耐熱性単分子薄膜や高選択的分離材料などの機能性ポリマーを開発したが、併せて、高導電性を有する結晶性大型グラファイトの開発にも成功した。 当プロジェクトの中心課題とはやや異質であった結晶性グラファイトの研究は、プロジェクトでその研究を行った吉村進自身によって企業(松下グループ)に継承されて、さらにERATO吉村パイ電子物質プロジェクト(1991-1996、総括責任者 吉村進)においても推進されて、オーディオ用振動板、X線回析集光素子、中性子線フィルター、放熱シートなどに適した新しい機能性材料として実用の途についている。 |
掘越特殊環境微生物プロジェクト(1984-1989、総括責任者 堀越弘毅) |
本プロジェクトは、高温、強アルカリ、高塩などの特殊な環境に住む微生物を多種採取培養して、有機溶媒耐性菌などの同定や、耐熱性酵素や好アルカリ性酵素などを分離して、それらの特殊な微生物の生物学的な意義と資源としての有用性を示した。本プロジェクトが使用した特殊環境に住む微生物を示すsuperbugという用語は科学技術用語として世界的に定着している。好アルカリ性細菌酵素を利用した植物製品は実用化の一例である。 本プロジェクトは海洋科学技術センターの深海微生物研究グループ(1990-)に継承され、CRESTなどにも展開した。特に海洋微生物に注目した研究が、我が国の特徴を活かした研究として進展している。本プロジェクトの影響は学術面に強く認められ、その影響は日本だけに止まらず欧州における国際プロジェクト(1992-)や 米国におけるLife in Extreme Environment (LEXEN: 1997-) の誕生のきっかけともなり、併せて専門誌Extremophiles: Life under Extreme Conditions(1997-)が発刊されるなど、特殊環境微生物学の世界規模での定着に大きく貢献している。 |
宝谷超分子柔構造プロジェクト(1986-1991、総括責任者 宝谷紘一) |
生物を構成する諸装置は、人工機械と違って環境変化に適宜適応しながら柔らかい制御の仕組みで効率よく作動する「柔らかい分子機械」である、という考えを基にして、本プロジェクトは、細胞分裂装置、細菌鞭毛、鞭毛モーターなどの超分子を研究対象として、それらの自己形成と作動原理の解明をめざした。得られた成果のうち、鞭毛の構造を原子精度で解明し、さらに、鞭毛モーターの部品の同定を行って「分子機械」という概念を科学界に定着せしめた功績はとりわけ高く評価されている。 本プロジェクトの基となった「柔らかい分子機械」の考えは、筋肉の運動原理の解明をめざしたERATO柳田生体運動子プロジェクト(1992-1997、総括責任者 柳田敏雄)に継承されて、生体分子一分子のその場・実時間観測、および力測定という新しい研究分野を確立し、超経済的なエネルギー効率を可能とする生体に特有な仕組みに対して、従来にない独自の視点を提供した。本研究は、さらにICORP一分子過程プロジェクト(1998−2002: 日本側代表 柳田敏雄)に継承されている。一方、宝谷超分子柔構造プロジェクトにおける細菌鞭毛の研究は、企業に新しい研究所(松下電器(株)国際研究所(1994−))を発足させるきっかけとなった。その研究はさらにERATO難波プロトニックナノマシンプロジェクト(1997-2002、総括責任者 難波啓一)に継承されている。その成果として、回転運動が伸長運動や分子スイッチ運動に変換される原理が解明された。筋肉や鞭毛の構造や作動原理は、メカニクスやエレクトロニクスなどの人工機械のものとは違っているが、ナノサイズの人工機械(人工ナノマシーン)の設計原理として応用できる可能性を秘めている。これら筋肉の研究と鞭毛モーター研究は、日本から生まれた独創的な研究分野であり、世界に類を見ないものとして注目されている。 |
榊量子波プロジェクト(1988-1993、総括責任者 榊裕之) |
10 nm程度の微小な半導体に閉じ込められた電子が示す波としての挙動を制御できれば、従来にない機能素子や超高速素子などの量子デバイスを作ることができる。本プロジェクトは、主として半導体細線を利用しながら量子デバイスを作成するための基礎的研究を行い、細線中における電子の挙動とその制御法、さらにトランジスタ機能に関する有用な知見を多数生み出した。これらの量子細線に関する成果もさることながら、提示された半導体材料と次元の関係の概念、すなわち、3次元(バルク)
→ 2次元(薄膜)→ 1.5 次元(多層薄膜)→
1次元(細線)→ 0次元(量子点)、という材料の次元と量子デバイスを統括する概念が、とりわけ高く評価されている。得られた成果の一部は偏光を持った面発光レーザーとして実用化の途上にある。なお、本研究はICORP量子遷移プロジェクト(1994-1999:
日本側代表者 榊裕之)に継承され、その成果の一つである独自の設計による榊型量子箱はテラヘルツ通信をめざして応用研究されている。 本プロジェクトにおいてGaAs表面におけるInPの自己形成的な島様構造が偶然に発見されたが、この「科学技術の芽」は、のちにStranski-Krastanovモードと呼ばれる自己形成的量子点の作成法として世界で広く研究されるに至っている。 |
This page updated on August 22, 2001
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