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機関評価を行うに当たっては、短期的な視点で考えるよりも少なくとも10年程度は先を見た上で判断していくべきであるが、今日のWWWの重要性を10年前に理解していた専門家がほとんどいないことからわかるように、このようなタイムスパンで考えることは容易ではない。しかしながら、インターネットとWWWに関連する新しい情報科学技術の急速な発達は、今回評価の対象とした全ての事業の将来に大きなインパクトを与えることは確実である。特に科学技術文献に関しては、学会誌を嚆矢として電子ジャーナルへの移行が進み、自由に、あるいは限定的にではあってもインターネットでの閲覧が可能となりつつある。検索エンジンの進歩を併せて考えると、データベースを介さないでも自由な検索が可能になる。このようなシステムは、事業団が一般会計で進めている電子ジャーナルや分散型デジタル・コンテンツ統合システムの発展と深い関係にある。文献の抄録作成についても科学技術庁科学技術政策研究所が1997年に明らかにした技術予測によれば、「図書、資料の要約・抄録を自動的に行う装置(要求により任意の圧縮比で出力ができる)が開発される。」という
設問に対し実現予測時期は2009年とされている。この質問項目は1992年に実施した同様な調査の結果によれば2010年に実現するものと予測されており、5年を経過した後の調査において実現予測時期が1年繰り上がったことからわかるように、その実現性は大きい。もし、これが可能になればフルテキストからの自動抄録作成もかなり現実的なものとなってくるし、これを更に機械翻訳による英文化と組み合わせれば、若干正確性は劣るが海外に向けての情報発信も格段に容易になる。 |
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このような状況を踏まえると、インターネット上に存在する、@統合的に検索できるデータベース群とA検索エンジンによって検索可能なテキスト情報の両者をどう連動させるかが大きな課題となる。また、これまでは独立に扱われてきた、フルテキスト、その抄録及びデータベースの三者をどう連動させるかが新しい課題として浮上してくる。その際、著作権制度との連携も大きな課題である。科学研究の中では爆発的にデータが増大している生命科学や環境科学の分野では、データや知識をどのように蓄積し、どのような方式で検索するかが、研究を展開する上で極めて重要になってきている。このことは、大規模なデータや知識ベースを解析することによって新しい知識を生み出す方法論の重要性を意味している。こうした方法論は、データマイニングや知識マイニングと呼ばれる。計算科学技術活用型特定研究開発推進事業においては、当然こうした方法論の研究が提案されるだろう。 |
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こうした流れは当然データベース開発支援事業の見直しをも迫るものでもある。これまでのように申請者の求めに応じて従来型のデータベースの開発を支援することばかりでなく、新しいデータベースの開発を支援しなければならない。また、情報媒体のウエブサイトへの急速な移行に伴い、情報資源の維持、管理に関しての新たな問題が発生してくる。即ち、版元における情報資源の維持、管理が商行為で行われる以上、将来にわたる継続性が保証されるわけではないことから、情報提供の継続が出来なくなった場合は情報源としてのウエブサイトの継続性を国として確保すべきではないかと考えられる。特に、科学技術分野では既に重要なウエブサイトがあるにもかかわらず、国としてこのような観点からの動きもないので早急にその対策を講じる必要があり、その実施主体として事業団を視野に入れるべきである。 |
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これらはいくつかの例に過ぎない。現在の情報科学技術の発展方向を勘案するなら、今回、評価対象とした事業の内容はこれから5年ないし10年の間に劇的に変化する。このような事態に対処するため、事業団は今回評価の対象としたほとんどすべての事業を、統一的な理念の下に有機的に連携して進める必要がある。当然のことながら、供給すべき商品については現在の形態の是非を含めて冷静に判断し、先手を打つくらいのアプローチをすべきである。委員会としては、事業団が変化に受け身で対処するのではなく、むしろ積極的に対処することを望みたい。事業団がこうした積極性と進取の精神を示すことは、第25号答申の理想を実現する大きな力になるであろう。いうまでもなく、このような指摘は事業団の事業の範囲を無制限に拡大することを勧めるものではなく、民間ベースでできるものについては、これをできるかぎり民間に任せ、事業団の事業の範囲がいたずらに膨張することのないようにしなくてはならない。 |