岡山大学,科学技術振興機構(JST)

令和元年8月6日

岡山大学
科学技術振興機構(JST)

キウイフルーツが紐解く「植物が性別を手に入れた進化の仕組み」

ポイント

「性別」による有性生殖は生物の多様性を維持する最重要システムです。また、農業という観点から見ても、性別は作物の性表現として、栽培や育種など多くの場面で考慮するべき性質です。しかし、植物における性別の決定の仕組みやその成立過程は100年以上も謎に包まれています。岡山大学 大学院環境生命科学研究科(農) 赤木 剛士 准教授は、これまでキウイフルーツを用いた植物の性別決定の仕組みの解明に取り組んでおり、このたび、オス機能の制御を担う性別決定遺伝子を発見し、「Friendly Boy」と命名しました。さらに、赤木准教授らの研究から既に見つかっていたメス機能の制御を担う「Shy Girl」遺伝子とともに、2つの遺伝子の成立過程を明らかにし、40年以上前から提唱されていた「植物が性別を手に入れる進化の仕組み」に関する理論の証明に至ることができました。また、本来は性別を持っているキウイフルーツにおいて、本研究で明らかになった性別決定遺伝子の組み換え・遺伝子編集を行うことで「人為的に両性花を作り出すこと」に成功しました。本研究の成果は今後、作物の性表現を自由自在に制御する技術へと発展していくと期待できます。

本研究は、香川大学 農学部、京都大学 大学院農学研究科、立命館大学 グローバルイノベーション研究機構、ニュージーランドPlant&Food Research、カリフォルニア大学 デービス校との共同研究として行われました。

本研究成果は、日本時間8月6日(英国時間:8月5日)、英国の科学雑誌「Nature Plants」に掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「フィールドにおける植物の生命現象の制御に向けた次世代基盤技術の創出(研究総括:岡田 清孝)」における研究課題「カキ属をモデルとした環境応答性の性表現多様化機構の解明(JPMJPR15Q1)」(研究者:赤木 剛士、研究期間:2015年10月〜2019年3月)、新学術領域「植物新種誕生の原理」における「植物における性表現の揺らぎを成立させる進化機構(19H04862)」(研究者:赤木 剛士、研究期間:2019年4月~2021年3月)の支援を受けて実施しました。

<現状>

「性別」に由来する有性生殖は生物が種内の多様性を維持するために進化させてきた最も重要な仕組みの1つです。動物ではこれまでいくつもの種で性別決定を担う遺伝子と性別を決める仕組みが解明され、その進化の過程も明らかにされてきました。一方、植物では、性別についての研究が始まって100年以上が経っているにも関わらず、性別を決定する遺伝子が発見されたのは近年のことであり、それもわずかな種のみであることから、その成立過程はいまだに多くの謎に包まれています。植物において性別を決める仕組みは、植物種ごとに独立している(異なっている)と考えられており、これは一種の収斂進化注1)であると考えられています。しかし、いかにして植物が種ごとに異なった性別決定の仕組みを作り上げたのか、そのメカニズムも含めて、全く分かっていませんでした。さらに、いくつかの植物種は人間が生き抜くために必須の「作物」ですが、その性別(性表現)は栽培や新しい品種を作る育種の上で考慮すべき、とても大事な特徴であり、人為的に性別を制御できる技術は広く望まれています。

<研究成果の内容>

私たちの研究では、このたび、キウイフルーツにおいてオスの機能(器官)の維持を担っている遺伝子を発見しました。これまでに私たちはメス機能の制御を担う「Shy Girl」と名付けた遺伝子を発見しており、これと対をなすオス器官を維持する遺伝子を「Friendly Boy」と名付けました。Friendly Boy遺伝子は、Fasciclinと呼ばれるタンパク質をコードし、本来は両全性注2)であった植物が共通して持っていた遺伝子です。今回の研究により、このFriendly Boy遺伝子がキウイフルーツを含むマタタビ属で「のみ」壊れることによって、マタタビ属に特異なメスを作る仕組み(オス器官が壊れる=メスになる)が生じたことが明らかになりました。

一方、メス化を抑制する遺伝子であるShy Girl遺伝子は、マタタビ属で「のみ」見られる遺伝子の重複によって生まれた「マタタビ属に特異な新しい機能をもつ遺伝子」であると考えられており、本研究では、Friendly Boy遺伝子との比較によって改めてその進化成立パターンが示されました。植物種間で機能が共通したオス器官を維持する遺伝子がX染色体上で失われ、メス化を抑制する遺伝子が新しくY染色体上に成立するという、2つの性別決定遺伝子の成立過程(図1)は、1978年に提唱された「植物の性別獲得における二因子理論注3)」を証明するものであり、同時に、「いかにして植物が種ごとに異なった性別決定の仕組みを作り上げたのか?」という問いに対しての答えとなるものでした。さらに、今回の研究で、Friendly Boy遺伝子の機能を明らかにするために、本来はメスであったキウイフルーツにFriendly Boy遺伝子を導入したところ、両性花をつける個体(両全性)の作出に成功しました(図2)。この結果はFriendly Boy遺伝子がオス化に関わる遺伝子であることを示しています。

<社会的な意義>

キウイフルーツは、受粉のための花粉の安定的な確保や、育種における交雑組み合わせの制限など、性別に由来する問題が非常に多い作物です。今回の研究により、キウイフルーツでの両性花の作出が可能になったため、人為的に性表現を改変し、安定的な栽培やこれまで出来なかった組み合わせでの育種が可能となります。また、今回の研究成果により、キウイフルーツを通して、植物の性別獲得における進化の道筋と、植物がいかにさまざまな方法で性別を手に入れることができるかという柔軟性が実証されました。この知見を応用することで、他の作物でも性表現の自由な改変が可能になることが期待されます。

<参考図>

<用語解説>

注1)収斂進化
遠い類縁関係の生物間で、独立した要因によって、似通った姿あるいは似通った器官を持つようになる進化のことを指す。
注2)両全性
雄しべと雌しべの両者を1つの花に持つこと。雌雄両方の機能を併せ持つ。ほとんどの植物は両全性である。
注3)二因子理論
イギリスの進化学者Deborah CharlesworthとBrian Charlesworth夫妻によって1978年に提案された植物における性別の進化理論。オス器官(雄しべ)を維持する因子の変異(不全)が起こってメス個体ができ、その因子と隣り合う形でメス器官(雌しべ)を抑制する因子が新規に成立することでオス個体が出来るという理論。

<論文タイトル>

“Two Y-encoded genes determine sex in kiwifruit”
著者名:Takashi Akagi, Sarah M. Pilkington, Erika Varkonyi-Gasic, Isabelle M. Henry, Shigeo S. Sugano, Minori Sonoda, Alana Firl, Mark A. McNeilage, Mikaela J. Douglas, Tianchi Wang, Ria Rebstock, Charlotte Voogd, Paul Datson, Andrew C. Allan, Kenji Beppu, Ikuo Kataoka, Ryutaro Tao
DOI:10.1038/s41477-019-0489-6

<お問い合わせ先>

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