岡山大学,筑波大学,理化学研究所,京都大学,神戸大学,日本医療研究開発機構(AMED),科学技術振興機構(JST)

令和元年7月30日

岡山大学
筑波大学
理化学研究所
京都大学
神戸大学
日本医療研究開発機構(AMED)
科学技術振興機構(JST)

褐色を呈する光化学系II-集光性色素タンパク質複合体の立体構造を解明

~光合成生物の進化と多様化を解明する糸口に~

ポイント

岡山大学 異分野基礎科学研究所の長尾 遼 特任助教、加藤 公児 特任准教授、秋田 総理 准教授、沈 建仁 教授、大阪大学 蛋白質研究所の宮崎 直幸 助教(現 筑波大学)らの共同研究グループは、理化学研究所、京都大学、兵庫県立大学、基礎生物学研究所、神戸大学との共同研究により、クライオ電子顕微鏡注1)を用いて、海産性珪藻の光化学系II-集光性色素タンパク質注2)複合体の立体構造解析に成功し、珪藻特有の色素組成とその並び方を明らかにしました。この結果から、水中で太陽光エネルギーを効率よく収集・逸散する仕組みや、光合成生物が多様な環境に応じて集光性色素タンパク質を進化させてきた仕組みが明らかになりました。

本研究成果は、なぜ光合成生物は多様な色を持ち、さまざまな場所に生育できるのか?という問いに対する答えを与えるものです。色の違いは光合成生物の生存戦略の一環で、褐色を呈する珪藻が水中で限られた光エネルギーをいかにして利用するのか、その仕組みが明らかになりました。この成果は、光合成生物の進化と多様化の謎をひもとく知見となり、絶えず変動する太陽光エネルギーの効率的・選択的な利用を目指した人工デバイスの創出についても重要な知見を提供するものです。

本研究成果は、日本時間7月30日(火)午前0時(英国時間:29日午後4時)に英国の科学雑誌「Nature Plants」に掲載されます。

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)(課題番号:JPMJPR16P1)、先端的低炭素化技術開発(ALCA)(課題番号:JPMJAL1105)、日本学術振興会 科学研究費補助金「基盤研究C」(課題番号:JP17K0744)、「新学術領域研究(研究領域提案型)」(課題番号:JP17H06433、JP16H06553)、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「創薬等ライフサイエンス研究のための相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化」(課題番号:JP18am0101072)、基礎生物学研究所共同利用研究(課題番号:18-451)の支援を受け実施しました。

<研究背景>

植物、藻類、シアノバクテリアといった光合成生物は、太陽光エネルギーを利用して水・二酸化炭素から糖を合成する酸素発生光合成を行います。光合成反応の中核を担うのが、光化学系I・光化学系IIと呼ばれる膜タンパク質複合体であり、光エネルギーを化学エネルギーに変換する役割を担っています。これら光化学系タンパク質は光合成生物種間で広く共通していますが、光化学系タンパク質に光エネルギーを供給する集光性色素タンパク質は極めて多様性に富んでいることが知られています。これは、集光性色素タンパク質に結合した色素やタンパク質自体の組成が異なるためです。従って、光合成生物が多様な色を持つ理由は、集光性色素タンパク質にあるといえます。

陸上植物と異なり、水域に存在する藻類やシアノバクテリアはそれぞれの生存環境に応じて異なる集光性色素タンパク質を持ちます。水中では太陽光エネルギーの波長成分のうち、青色から緑色の光が透過します。水域に存在する光合成生物は水深によって種の分布が異なり、陸上植物よりも限られた光エネルギー資源を確保するために多様性が生まれたと考えられています。従って、光合成生物にとって、集光性色素タンパク質を最適化することは生存戦略の一環となります。水域に広く分布する珪藻は緑色植物とは異なり褐色を呈しています。その原因は集光性色素タンパク質であるフコキサンチン-クロロフィルa/c結合タンパク質(FCP)にあります。FCPは太陽光エネルギーの中の青色から緑色の光を吸収することに優れており、これは植物が持つ集光性色素タンパク質の吸収領域である赤色と青紫色と大きく異なります。しかし、FCPがどのように光エネルギーを吸収し、光化学系タンパク質に伝達しているのか、その詳細は不明でした。珪藻のFCPと光化学系IIとの間で行われる光エネルギーをやり取りする仕組みを明らかにすることは珪藻の光捕集戦略の解明だけでなく、なぜ光合成生物が色の多様性を持つようになったのか?という進化的な疑問を解明する上でもとても重要です。

<研究内容>

長尾特任助教、加藤特任准教授、秋田准教授、沈教授、宮崎助教らの共同研究グループは、珪藻から光化学系II-FCP複合体を精製し、クライオ電子顕微鏡により3.8Å(1Åは1mmの1千万分の1の長さ)の解像度を持つ立体構造を解明しました。解析された光化学系II-FCPは、二量体構造を形成していました。光化学系II当たり、2つのFCP四量体と3つのFCP単量体が結合しており、多数の色素分子が配置していることが分かりました()。また、褐色を示す色素の結合様式および色素を固定するタンパク質場が、植物の光化学系II-集光性色素タンパク質複合体と比べ、大きく異なることも分かりました。光合成生物は進化の過程において、色素成分のみならず、タンパク質環境も変化させてきたことが示されました。

<社会的な意義>

本研究成果は、エネルギー問題や環境問題の解決に向けた基盤研究となります。今回解明された光化学系II-FCP複合体は、植物とは異なる太陽光エネルギーの成分を効率よく吸収・利用しますので、これらの太陽光エネルギーの成分を利用した電気エネルギーへの変換に必要な分子配置の設計に指針を提供することが期待されます。将来的には、得られた構造やこれまで解析された他の光合成装置の構造の知見を利用することで、太陽光エネルギーの成分の選択的利用に基づいたエネルギー利用デバイスの創出が期待されます。

<研究者から一言>

この研究は、なぜ珪藻は褐色をしているのか?なぜ植物と色が違うのか?という単純な疑問から始まり、10年以上前から取り組んできたテーマです。現在、主流となりつつあるクライオ電子顕微鏡を利用することにより、褐色の要因となる色素タンパク質の構造決定に成功しました。クライオ電子顕微鏡が無ければ達成できなかった成果であり、最先端の技術のすごさを実感しました。

<参考図>

<用語解説>

注1)クライオ電子顕微鏡
液体窒素温度でタンパク質粒子を観察する電子顕微鏡のこと。サンプルへの電子線ダメージを軽減するために液体窒素温度での測定を行う。多数のタンパク質粒子の形状を計測して平均化することで、当該タンパク質の立体構造を解析する。2017年にはノーベル化学賞を受賞した。
注2)集光性色素タンパク質
クロロフィルやカロテノイドなどの色素を結合した、太陽光エネルギーを集める役割を持つタンパク質。光合成生物の種類に応じて異なる集光性色素タンパク質が存在する。本報告で明らかにした、フコキサンチン-クロロフィルa/c結合タンパク質(FCP)は珪藻や褐藻に特有であり、その名の通りクロロフィルa、クロロフィルc、フコキサンチンを結合している。

<論文タイトル>

“Structural basis for energy harvesting and dissipation in a diatom PSII-FCPII”
(珪藻光化学系II-FCPのエネルギー収集と散逸の構造基盤)
著者名:Ryo Nagao, Koji Kato, Takehiro Suzuki, Kentaro Ifuku, Ikuo Uchiyama, Yasuhiro Kashino, Naoshi Dohmae, Seiji Akimoto, Jian-Ren Shen, Naoyuki Miyazaki and Fusamichi Akita
DOI:10.1038/s41477-019-0477-x
URL:https://www.nature.com/articles/s41477-019-0477-x

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