九州大学,科学技術振興機構(JST),一般財団法人 キヤノン財団

令和元年7月30日

九州大学
科学技術振興機構(JST)
一般財団法人 キヤノン財団

従来よりも10倍厚い有機ELの開発に成功

~ディスプレイや照明への実用化が加速~

電気エネルギーを光に効率良く変換する有機ELに大きな注目が集まっており、ディスプレイや照明などとして既に実用化が進んでいます。有機分子は高い発光量子収率を示す優れた発光体ですが、電気を流しにくいという性質を持ちます。このため、有機ELには100ナノメートル程度(髪の毛の太さの約1/800)の薄い有機膜を用いて、電気を強制的に流す必要がありました。このような極めて薄い有機膜は大面積で均一に形成させることが難しいという問題がありました。

九州大学の松島 敏則 准教授と安達 千波矢 教授らの研究グループは、有機発光層を金属ハライドペロブスカイト注1)層で挟んだ有機ELを開発しました。ペロブスカイトの電気を流しやすい性質と簡単に薄膜化できるという性質を利用して、有機EL中のペロブスカイトの総膜厚を2,000ナノメートルに増加させました。従来の有機ELよりも10倍以上厚いにもかかわらず、優れた発光効率、駆動電圧、耐久性が得られることを見いだしました。

本研究成果を活用すれば有機EL製品を安価に再現性良く作製できるようになるため、産業分野に大きなインパクトがあります。レーザー、メモリー、センサーなどの他の有機デバイスに応用することも可能です。

本研究成果は、2019年7月30日(日本時間)に「Nature」誌でオンライン公開される予定です。

本研究成果は科学技術振興機構(JST) ERATO「安達分子エキシトン工学プロジェクト」(JPMJER1305)の一環で得られ、また、九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所、日本学術振興会 科学研究費(15K14149、16H04192)、キヤノン財団の支援を受けました。

<参考図>

<用語解説>

注1)金属ハライドペロブスカイト
金属ハライドペロブスカイトはABX型のペロブスカイト構造を示します。Aサイトとしてメチルアミン、ホルムアミジニウムアミン、セシウムなど、BサイトとしてはPb2+やSn2+などの金属カチオン、XサイトとしてはI、Br、Clといったハロゲンアニオンが用いられます。BX八面体が頂点共有により連結されることにより3次元構造が形成されます。BX骨格の持つ負の電荷と電気的バランスを保つためにAサイトにカチオンが配置されます。金属ハライドペロブスカイトは太陽電池の光吸収層、LEDの発光層、電界効果トランジスタの半導体層、レーザーデバイスの活性層などとして用いられます。
注2)熱活性化遅延蛍光化合物
有機EL中でキャリアが再結合すると一重項励起状態と三重項励起状態が1:3の割合で生成されます。蛍光材料を用いた有機ELでは、25パーセントの割合で生成される一重項励起状態しか発光しませんでした。その後開発されたイリジウム化合物を用いると、強力な重原子効果により、全ての励起状態を発光として利用できます。熱活性化遅延蛍光化合物は、一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギーギャップが小さくなるように設計されています。そのため、通常は発光しない三重項励起状態が一重項励起状態に変換され、遅延蛍光として観測することができます。熱活性化遅延蛍光化合物にはイリジウムなどのレアメタルは全く含まれていませんが、電気エネルギーの全てを発光に変換することができます。
注3)外部量子効率
有機EL中で生じた発光の大部分は、有機層や基板などを導波するために、ガラス基板表面から素子の外に取り出されません。一般的な有機EL構造では素子外に取り出される発光の割合は20~30パーセント程度です。基板からの光取り出しを考慮した効率は外部量子効率と呼ばれ、(基板から取り出されたフォトン数)/(素子に注入された電子数)の比で表現されます。

<論文タイトル>

“High performance from extraordinarily thick organic light-emitting diodes”
DOI:10.1038/s41586-019-1435-5

<お問い合わせ先>

(英文)“Extraordinarily thick organic light-emitting diodes solve nagging issues”

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