早稲田大学,東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和元年7月24日

早稲田大学
東京大学
科学技術振興機構(JST)

太陽光発電有効活用のための電気自動車充電管理手法を開発

~保有者にとって公平で無理のない充電時間シフトをオークションで実現~

ポイント

早稲田大学(以下、早大) 理工学術院の林 泰弘(ハヤシ ヤスヒロ) 教授、および東京大学(以下、東大) 公共政策教育部の大橋 弘(オオハシ ヒロシ) 教授の研究グループ(以下、本研究グループ)は、電力需要家の電気自動車を用いたエネルギーマネジメント手法を開発しました。電気自動車の充電を実施する機会を対象としたオークションの仕組みを利用することで、需要家参加の自主性や利益分配の公平性を確保しながら、太陽光発電の出力抑制量および電力コストの削減が可能となります。

本研究成果は、7月23日(米国太平洋夏時間)に米国電気電子学会誌「IEEE Transactions on Sustainable Energy」のオンライン版に掲載される予定です。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」
(研究総括:藤田 政之(東京工業大学 工学院 教授))
「汎用的な実証基盤体系を利用したシナリオ対応型分散協調EMS実現手法の創出」
林 泰弘(早稲田大学 理工学術院 教授/スマート社会技術融合研究機構 機構長)

<研究背景>

  • 太陽光発電(PV)が大量に接続された配電系統において、PVの電力逆潮流注1)により電圧などの電力品質への悪影響が懸念されています。
  • 電圧維持のための対策としてはPVの出力抑制や供給側による配電線の増強などが考えられてきました。現在、PVの発電機会拡大や対策コスト低減の観点から、需要家エネルギー資源を活用したエネルギーマネジメントが注目されています。
  • なかでも、今後の普及が予想される電気自動車(EV)は、日中にその50%以上の台数が住宅に未稼働のまま駐車されているとされ、適切な時間帯にEV充電を実施することでPVのさらなる活用が期待できます。
  • 需要家のEVを移動手段だけでなく、PVの自家消費に向けたエネルギーマネジメントに活用する上では、次の3つの要件が重要となります。
    • 適切な自家消費量の決定:EV充電によるPV自家消費量の過不足は需要家にとっての利益低下を招く恐れがあるため、それを回避すること。
    • 自主性の確保:PVの自家消費への参加は、その対価とEVを移動手段として用いたときの価値を比較して各需要家が自主的に決定できること。
    • 公平性の確保:EV充電によるPVの自家消費は同一の配電線に接続された別の需要家宅で発生するPV出力抑制も削減し得る(図1)ため、その利益は自家消費によるエネルギーマネジメントへの貢献に応じて配分されること。
  • 上記の3つを満たすようなEVのエネルギーマネジメント手法はこれまで十分に検討されていませんでした。

<研究内容>

本研究グループは、PVが大量に接続された配電系統において発生し得るPV発電の出力抑制量の削減を目的として、需要家が所有するEVの充電機会を対象としたオークション形式に着目したエネルギーマネジメントの手法を開発しました。この開発手法は、個々の需要家がオークションによって、対象時刻にEVを移動目的で使用する便益と、PVの自家消費のために充電行動に充てる便益を、はかりにかけながらエネルギーマネジメントを実現しています。本手法は、前述の3つの要件を満たしつつ、対象エリアに接続されている需要家のPVの出力抑制量、および需要家の電力コスト(買電-売電)を低減することが期待できます。

本研究グループは、この開発手法について、実際の配電系統における電気的な挙動を模した電力潮流シミュレーションと、需要家行動の経済的合理性をモデル化した、オークション・シミュレーションに基づき効果の評価を行いました。その結果、検証条件下でPV出力抑制量を最大で45.1%、需要家の電力コストを同じく20.1%削減できることが確認されました。さらに、エネルギーマネジメントに際して必要となるPV発電・電力消費予測の誤差の影響や、外出などに伴うEVのエネルギーマネジメント用途での利用の不確実性の双方を考慮した条件下でも、本開発手法によってPV出力抑制量、需要家の電力コスト削減を期待できることが合わせて示されました。

  • EVのエネルギーマネジメント目的の利用において重要だと考えられる前述の3つの要件を満たすような手段として、ゲーム理論に基づくセカンドプライス・シールドビッド・オークション注2)方式(以下、オークション)を活用して需要家EVの充電管理の手法を開発しました。
  • 本開発手法は、配電系統エリアの需要家のPV出力抑制が大きく発生することが見込まれる時間帯において、アグリゲータ注3)が主催するEV充電時間を対象としたオークションに基づいて行われます。
  • オークションの参加者は、自宅のPV出力抑制が削減されることによって得られる便益を考慮しながら、指定される時間帯にEV充電を行うことに対する入札額を決定します。
  • 落札した需要家は、EVの充電を対象時間に実施することで報酬を受け取ることになります。
  • この報酬は、オークションに参加した需要家がアグリゲータを介して分配して負担する形にすることで、個々の需要家にとっては自宅のPV出力抑制が安価に軽減・解消されるという恩恵が受けられることになります。
  • このようなオークションの仕組みは、電力系統全体の需給調整を目的として用いられることはありました。今回の開発手法は、特に配電系統において発生が不可避なPV出力抑制を、地域が取り組むべき公共財と見なし、経済的な行動原理を用いることで、出力抑制を最大限回避するという特徴を有しています。今後も普及が見込まれるEVを活用していく際の経済学的な解決策提示の一例として、本開発手法は他に類を見ないユニークな提案となります。
  • 需要家が有する数あるEV間の情報交換に基づいて個々の充電管理を行うアプローチや、アグリゲータが中央司令的にEV群の充電管理を行うアプローチと比較すると、高度な通信インフラを要しないという点も、本開発手法の特徴と言えます。

<研究の波及効果や社会的影響>

PVを中心とした再生可能エネルギーの主力電源化を目指して社会環境が変化するなかで、需要家への普及が期待されるEVの充電にエネルギーマネジメントを活用することは、付設されたPVの発電機会の増加につながります。すなわち、再生可能エネルギーの有効活用を促進することに寄与します。また、需要家の自主性や公平性を担保する本手法は、需要家にとって交通手段としてのEVという利便性を損なうことなく電力コスト削減を可能にします。加えて、電力供給側にとっては、数多く存在する配電系統における個々の電力品質を維持管理するための新たなアセット管理手段となることが期待されます。

<今後の課題>

本研究は、配電系統において大量に接続されたPVの出力抑制を最大限回避することを目的として、EV充電時間帯を誘導する仕組みを提案しています。一方で、PVの導入がさらに進み、配電系統における電力潮流が現在とは著しく異なった振る舞いを見せることが想定される将来の状況下では、EVのみならずさまざまなエネルギー機器を活用した多角的なアプローチが求められます。本開発手法は、配電系統における電圧安定、およびPV出力の有効活用を促進するうえで、さまざまなエネルギー機器の運用に対しても応用可能と考えられます。本提案手法の応用を含め、再生可能エネルギーを有効に活用するための包括的なエネルギーマネジメント手法の開発をさらに検討していきます。

<参考図>

<用語解説>

注1)電力逆潮流
これまでの電力系統上では、大規模発電所で発電された電力が需要家まで届けられて消費されるという電気の流れ(順潮流)を想定した運用が行われていた。一方、家庭向けPVの普及が進み、発電が消費電力を上回った際に配電系統を通して余剰電力を売るという選択を多くの家庭がとることで、これまで一方向的に電力消費箇所に向けて流れてきていた電気の流れが時間帯に応じて逆転することが出てくる。従来の想定と逆向きとなるこのような電力系統上の電気の流れを電力逆潮流と呼ぶ。電圧の適切な維持管理が求められる。
注2)セカンドプライス・シールドビッド・オークション
オークションの形式の1つで、各入札者は売り手(主催者)に対してのみ入札額を提示する。本開発手法のなかでは低値を付けた人が落札をするが、取引自体は主催者に対して提示された2番目に低い値をもって行われる。この形式により、一人の入札者が仮に過度に低い入札額を提示しても、周囲の需要家にとっての出力抑制軽減の便益が適切に反映されることになる。また、落札できなかった需要家にとっては入札時に自宅のPVの出力抑制軽減に対して負担しても良いと考えていた金額よりも安価に出力抑制の軽減が実現されることになる。
注3)アグリゲータ
効果的に規模の大きなエネルギーマネジメントサービスの実現を行うことを目的として、複数需要家の電力需要の管理を行う管理者を意味する。

<論文タイトル>

“Electric Vehicle Charging Management Using Auction Mechanism for Reducing PV Curtailment in Distribution Systems”
著者名:喜久里 浩之、藤本 悠、花田 真一、五十川 大也、芳澤 信哉、大橋 弘、林 泰弘
DOI:10.1109/TSTE.2019.2926998

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