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平成31年2月14日

名古屋大学
九州大学
科学技術振興機構(JST)

簡単に微生物を特定

~感染症の予防に期待~

ポイント

名古屋大学 大学院工学研究科の馬場 嘉信 教授、安井 隆雄 准教授らの研究グループは、九州大学 先導物質化学研究所の柳田 剛 教授、大阪大学 産業科学研究所の川合 知二 特任教授との共同研究で、微生物を簡単に破砕し、微生物の種類を特定する技術を新たに発見しました。

微生物は細胞壁を持っているため、動物細胞に比べて外部からの刺激に対する抵抗力が大きいことが知られています。微生物内部のDNAを調べることで微生物の種類の特定は可能ですが、効率的かつ簡単に微生物を破砕する技術がないために、微生物の特定には、専門家が特殊な薬剤を用いる必要がありました。

本研究では、ナノスケールの棒(ナノワイヤ注1))を用いて、微生物を簡単・効率的に破砕する新しい技術を構築しました(図1)。また、このナノワイヤで破砕可能な微生物は、大腸菌注2)枯草菌注3)だけでなく、酵母にも適用可能であることを発見しました(図2)。さらに、ナノワイヤで破砕した微生物内部のDNAを調べる機構と組み合わせることで、目視による色の変化で微生物を特定できる技術も開発しました(図3)。

本研究成果は、2019年2月14日付けの米国化学会雑誌「ACS Nano」オンライン版に掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「超空間制御と革新的機能創成」研究領域(研究総括:黒田 一幸)における研究課題「がん転移メカニズム解明にむけた人工超空間の創製」(研究者:安井 隆雄)、日本学術振興会(JSPS) 新学術領域研究「分子夾雑の生命化学:がん病態環境の分子夾雑マッピングデバイスの開発」(代表者:馬場 嘉信)の一環として行われました。

<研究背景と内容>

微生物は細胞壁を持っているため、外部からの刺激に対する抵抗力が大きいことが知られています。効率的かつ簡単に微生物を破砕し、微生物内部のDNAを調べることは微生物特定のための重要な課題でした。しかし、該当する技術が存在しないため、微生物の特定には、専門家が特殊な薬剤を用いる必要がありました。本研究では、ナノワイヤの特性を生かした微生物破砕法を新たに開発しました。この技術は、微生物が分散した溶液をポンプで流すことにより、効率的かつ簡単に微生物を破砕することを可能にしました(図1)。本技術を用いることで、大腸菌や枯草菌と比べ、破砕が困難とされる酵母も同様に簡単に破砕することに成功しました(図2)。また、ナノワイヤで破砕した微生物のDNAを増幅することが可能なデバイスと組み合わせることで、目視による色の変化で微生物を特定できる技術も開発しました(図3)。

<成果の意義>

例えば、微生物が含まれる溶液を採取し、検査薬を混ぜた後にポンプにセットしてスイッチを入れるだけで、O-157のような菌の有無を、家庭などでも検査することが可能となると考えられます。今後、本技術を活用することによって、危険な微生物の水際での簡易検出が可能になると考えられます。この可能性は、本技術を用いた微生物の特定法、さらには、微生物由来の感染症の予防にもつながると期待されます。

<参考図>

図1

図1

  • (上)ナノワイヤを用いた微生物破砕。
  • (下)ナノワイヤと微生物がナノワイヤによって引っ張られている電子顕微鏡写真。
図2 酵母がナノワイヤ上で破砕されている電子顕微鏡写真

図2 酵母がナノワイヤ上で破砕されている電子顕微鏡写真

図3

図3

  • (左)ナノワイヤデバイスとDNA増幅デバイスを組み合わせた図。
  • (右)大腸菌(200個)を検出した結果。大腸菌があると溶剤がオレンジから緑に変色する。

<用語解説>

注1)ナノワイヤ
数10~100ナノメートルの大きさから構成される一次元の棒状ナノ構造体。
注2)大腸菌
環境中に存在する細菌(バクテリア)の主要な種の1つ。
注3)枯草菌
土壌や植物に普遍的に存在する細菌(バクテリア)の種の1つ。

<論文情報>

タイトル Engineering Nanowire-Mediated Cell Lysis for Microbial Cell Identification”
著者名 Takao Yasui, Takeshi Yanagida, Taisuke Shimada, Kohei Otsuka, Masaki Takeuchi, Kazuki Nagashima, Sakon Rahong, Toyohiro Naito, Daiki Takeshita, Akihiro Yonese, Ryo Magofuku, Zetao Zhu, Noritada Kaji, Masaki Kanai, Tomoji Kawai, and Yoshinobu Baba
DOI 10.1021/acsnano.8b08959

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

馬場 嘉信(ババ ヨシノブ)
名古屋大学 大学院工学研究科 教授
Tel:052-789-4664 Fax:052-789-4666
E-mail:

安井 隆雄(ヤスイ タカオ)
名古屋大学 大学院工学研究科 准教授
Tel:052-789-4611 Fax:052-789-4666
E-mail:

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2067
E-mail:

<報道担当>

名古屋大学 総務部 総務課 広報室
Tel:052-789-2699 Fax:052-789-2019
E-mail:

九州大学 広報室
Tel:092-802-2130 Fax:092-802-2139
E-mail:

科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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