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平成31年1月7日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

切り取り可能なワイヤレス充電シートを実現

~簡単にワイヤレス充電可能な製品の制作を可能にする手法の開発~

ポイント

ワイヤレス充電注1)用のコイルを家具や衣類などの製品に組み込む場合、まず製品の形状を決めた後に、コイルアレイを設計・実装する手法が主流でした。しかし、このようなコイルアレイを用いた手法では、形に合わせた配線と磁気的な干渉を考慮したコイルの配置・設計が必要なため、高周波回路の知識と多くの時間・労力が必要でした。

そこで、東京大学 大学院情報理工学系研究科の川原 圭博 准教授らの研究グループは、ユーザーが望む形状に切って貼り付けるだけでワイヤレス充電を実現できるシートを開発しました。切断されてもコイルアレイの機能をできるだけ失わないような配線形状と、隣り合うコイル間の磁気的な干渉を回避する制御とを組み合わせ、切り取り可能なワイヤレス充電シートを実現しました。

提案するシステムの実証実験として、大きさ400mm×400mmのフレキシブル基板注2)上に重さ82gのワイヤレス充電シートを作製しました。このシートは、人体への影響が小さいとされる、数百kHzから数MHzの磁界を用いてコイル間で電力をやりとりしながら、最大5W程度まで電力を送ることが可能です。さまざまな形状に切り、貼り付けるだけという手軽さを生かし、置くだけでスマートフォンを充電できる机や棚、ポケットに入れるだけで電子デバイスを充電できる鞄や衣服への応用が期待されます。

なお、本研究の詳細は、論文誌「Proceedings of the ACM on Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies(IMWUT)」にて2018年12月27日(米国東部標準時間)に、オンライン公開されました。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業

研究プロジェクト ERATO 川原万有情報網プロジェクト
研究総括 川原 圭博(東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)
研究期間 平成27年10月~平成33年3月

上記研究プロジェクトでは、センサーネットワークやIoT機器がより自律的で能動的な人工物として作用し、自然物と共生して新しい価値を生むための万有情報網の構築を目指します。センサーやロボットを低コストで迅速に作ることを可能とするファブリケーション技術の研究開発のほか、IoT機器のサステイナブルな動作の実現のためのエネルギーハーベスティング(環境発電)や無線給電技術の開発に取り組みます。

<発表内容>

近年、電磁誘導方式注3)磁界共振結合方式注4)を用いたワイヤレス充電システムが次々と実用化されています。しかし、ワイヤレス・パワー・コンソーシアム(Wireless Power Consortium; WPC)注5)エアフューエル・アライアンス(AirFuel Alliance)注6)が標準仕様としている現状のワイヤレス充電規格は、たかだか数個の送電コイルを内蔵した送電器とその真上に置かれた受電コイル間での送電に限られており、狭い領域でしか充電できません。そこで、給電対象が限られた充電器の上に置くのではなく、どこにでもある机・棚・壁などの家具や内装にコイルを組み込み、モバイルデバイスやセンサー、家電や照明などの、あらゆる電子デバイスを自動的に給電できる環境が理想です。これまでにもさまざまなワイヤレス充電シートが提案されてきましたが、いずれも形状に合わせた設計・実装が必要であり、一部の配線を切断するだけで、送電器の他の部分または全体が機能しなくなる問題がありました。そのため、家具や衣類の形状に応じてワイヤレス充電シートを作り直さなければならず、時間と労力がかかっていました。特に、磁界共振結合方式は隣り合うコイル間の磁気的な干渉による給電効率の低下の影響が大きいため、より一層作製に多大なコストを必要としていました。

今回提案する、磁界共振結合方式を用いたワイヤレス充電シートは、既存の家具や衣類などの形状に合わせて切断し貼り付けることで、ワイヤレス充電機能を持たせるシートです(図1)。形状に合わせてコイルを必要な数だけ並べる方式とは異なり、あらかじめ定型で用意したコイルアレイから不要なコイルを減らす点に新規性があります。

シートを切り取り、既存の家具や衣類に貼り付ける場合、シートの切断は外側から行われます。しかし、これまでのワイヤレス充電シートはコイルアレイをマトリックス状に配線したものが多く、切断すると縦横に接続されたコイルの一部が機能しなくなる問題がありました。そこで、電源部が切断されないよう電源をシート中央に配置し、H木型配線を利用して中央から外側に向かって配線しました(図2)。この配線により、切断後も、コイルアレイに電流が行き渡ります。また、H木型配線は電源から各コイルまでの配線の長さを等しくするため、高周波回路特有の、電源から見た各コイルのインピーダンス注7)のばらつきを抑えることができます。

コイルをなるべく密に配置することでシート上のどこに受電器を置いても給電が可能になります。一方で、コイルが密接になればなるほど、コイルの磁気的な干渉が強くなり、給電効率に悪影響を及ぼします。そこで、同時にオンとなるコイル同士が距離を保つ、時分割給電を用いました(図3)。コイルアレイを互いに隣り合わないコイル同士でグループ分けし、グループごとに給電を繰り返すことで、隣り合うコイル間の磁気的な干渉を回避できます。このように、H木型配線と時分割給電とを組み合わせることで、切り取り後のシート上でのワイヤレス充電を最大限活かせるシステムにしました。

上記の提案手法により、家具(図4)や鞄・衣服(図5)、収納ボックス(図6)などの生活用品にワイヤレス充電機能を気軽に付与することが期待できます。今後は、印刷エレクトロニクス技術を活用し、シート内の配線と素子を一括で印刷する研究に取り組んでいきます。

<参考図>

図1

図1

切り取り可能なワイヤレス充電シート。

図2

図2

(a)正方形状コイルアレイへのH木型配線。H木型配線により、(b)長方形・丸・ハート・星などの凸型図形や(c)L・T・H・+などの凹型図形への形状の変更が可能です。ただし、(d)中央のコネクターを切り抜く、あるいはコネクターにつながる配線を全て切り抜くような形状の変更はできません。

図3

図3

(a)時分割給電。隣接するコイル同士が同時にオンとなることを回避するために、最小の分割数でコイルアレイをグループ分けし、(b)グループごとに給電を繰り返します。これにより、隣り合うコイル間の磁気的な干渉を回避できます。

図4

図4

ワイヤレス充電可能な家具。

図5

図5

ワイヤレス充電可能な鞄・衣服。

図6

図6

ワイヤレス充電可能な収納ボックス。

<用語解説>

注1)ワイヤレス充電
電源から専用ケーブルなどを使わずに電力を無線で伝送・供給する技術。
注2)フレキシブル基板
電子部品を固定して配線するために用いられる薄くて柔らかい基板。
注3)電磁誘導方式
ワイヤレス充電の方式の1つ。コイルの電磁誘導を利用して送電コイルから受電コイルへ電力を無線で送る。
注4)磁界共振結合方式
ワイヤレス充電の方式の1つ。共振コイルを用いて電力を伝送する。電磁誘導方式に比べ、電力伝送距離が長く、送受電コイル間の位置のずれにも強くなる。
注5)ワイヤレス・パワー・コンソーシアム(Wireless Power Consortium; WPC)
主に電磁誘導方式を規定(Qi規格)する団体。
注6)エアフューエル・アライアンス(AirFuel Alliance)
主に磁界共振結合方式を規定する団体。
注7)インピーダンス
交流回路における抵抗。

<論文情報>

タイトル A Cuttable Wireless Power Transfer Sheet
著者名 Ryo Takahashi, Takuya Sasatani, Fuminori Okuya, Yoshiaki Narusue, Yoshihiro Kawahara
DOI 10.1145/3287068

なお、実験動画を下記URLにて公開します。
https://youtu.be/eBqJG65DhPQ

また、写真素材は下記URLにて公開します。
https://drive.google.com/drive/folders/1qlhZjMx3U4fkHBnzfwEd2AYj2CX4Mz6T?usp=sharing

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

對尾 健二(ツシオ ケンジ)
東京大学 大学院情報理工学系研究科 特任研究員
ERATO 川原万有情報網プロジェクト 研究推進主任
Tel:03-5841-6710
E-mail:

<JST事業に関すること>

内田 信裕(ウチダ ノブヒロ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
Tel:03-3512-3528
E-mail:

<報道担当>

東京大学 大学院情報理工学系研究科 広報室
Tel:03-5841-8981
E-mail:

科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404
E-mail:

(英文)“A Cuttable Wireless Power Transfer Sheet