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平成30年1月29日

大分大学
科学技術振興機構(JST)

再生可能エネルギー利用型のアンモニア合成プロセスに適した触媒を開発

~高温還元処理で発現する複合酸化物担体と金属の特異的な協働作用~

ポイント

大分大学 理工学部の小倉 優太 博士研究員、佐藤 勝俊 客員研究員(京都大学 触媒・電池元素戦略研究拠点 特定助教)、永岡 勝俊 准教授らの研究グループは、再生可能エネルギー利用に適した温和な条件で、非常に高いアンモニア合成活性を示す新規触媒として、ランタンとセリウムの複合希土類酸化物を還元した担体に、ルテニウムを担持した酸化物担持型触媒注1)(Ru/La0.5Ce0.51.75-x)を開発しました。

アンモニアは化学肥料の原料として重要な化学物質であり、近年は再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担うエネルギーキャリア注2)としても注目されています。従来の鉄触媒を用いたアンモニア合成プロセスは大型のプロセスであり、非常に高い圧力と温度下で反応が行われています。これに対して再生可能エネルギーを利用した小型の分散型プロセスではオンデマンドでアンモニアを製造する必要があり、温和で利便性に富む条件(325-400ºC、10-100気圧)でアンモニアを得ることができる高性能な触媒の開発が求められてきました。

研究グループでは、再生可能エネルギー利用に適した条件で、生成速度換算で従来型酸化物担持ルテニウム触媒の約2倍という、非常に高いアンモニア合成活性を示し、高効率でアンモニアを得ることができるRu/La0.5Ce0.51.75-x図1)を開発することに成功しました。また、①ルテニウムが2nm以下のナノ粒子として担持されていること、②還元された担体がルテニウムナノ粒子の一部を覆っていること、という2つの特徴が相乗的に作用することで、高いアンモニア合成活性が実現されていることを明らかにしました。

開発した触媒は簡単に大気中で調製でき、取り扱いも容易なため、再生可能エネルギー利用アンモニア生産プロセスの実現が望まれています。また、今回の触媒設計を応用することで、さらに高活性なアンモニア合成触媒が創製できると期待できます。

本研究成果は、英国王立化学会(The Royal Society of Chemistry)のフラッグシップジャーナル「Chemical Science」のオンライン版にて2018年1月29日9時(日本時間1月29日18時)に公開されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造推進事業 チーム型研究(CREST)「再生可能エネルギーの輸送・貯蔵・利用に向けた革新的エネルギーキャリア利用基盤技術の創出」(研究総括:江口 浩一 京都大学 大学院工学研究科 教授)の研究課題「エネルギーキャリアとしてのアンモニアを合成・分解するための特殊反応場の構築に関する基盤技術の創成」(研究代表者:永岡 勝俊 大分大学 理工学部 准教授)の一環で実施されました。

<研究の背景>

アンモニアは化学肥料の原料として重要な化学物質であり、世界の食糧生産の根幹を担っています。またアンモニアは近年、再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担う、水素・エネルギーキャリアとしても注目されています。

従来の工業プロセスでは、鉄を主成分とする触媒を用い、非常に高い温度と圧力下(>450ºC、>200気圧)でアンモニア合成が行われてきました。これに対して再生可能エネルギーを利用した小型の分散型プロセスでは、再生可能エネルギーの供給状況に合わせてアンモニアを製造する必要があるため、利便性に富む温和な条件(325-400ºC、10-100気圧)でアンモニアを効率的に得ることができる高性能な触媒の開発が求められてきました。さらに、簡単に調製でき、安定で、取り扱いも容易な触媒であることも重要な触媒の要素でした。

<研究の内容>

研究グループでは、これまでに希土類注3)の酸化物にルテニウム注4)を担持した触媒に注目した開発を進めてきました。そして、希土類の一種であるランタン-セリウムの複合酸化物にルテニウムを担持し、これを従来知られていた最適値(500ºC以下)よりも高い温度(650ºC)で処理することによって、Ru/La0.5Ce0.51.75-x図1)を開発しました。開発した触媒は生成速度換算で従来型酸化物担持ルテニウム触媒の2倍以上という、非常に高いアンモニア合成活性を示し、高効率でアンモニアを得ることができます(図2)。また開発した触媒は従来型ルテニウム触媒で問題となっていた水素による被毒の影響を受けにくく、10気圧程度の高圧雰囲気にすることでアンモニア合成速度が飛躍的に向上することを見いだしました(図3)。

さらに、収差補正走査透過電子顕微鏡注5)を用いた高分解能観察とスペクトル測定を中心に、Ru/La0.5Ce0.51.75-xの解析を行った結果、開発した触媒は主に以下の2つの作用によって高いアンモニア合成活性を示すことが明らかとなりました。

① ルテニウムが2nm以下の微小なナノ粒子として担持されていること。

通常、担持型触媒を高温で処理するとルテニウム粒子同士の焼結が起きてナノ粒子の粒径が大きくなり、反応の活性点が減少します。これに対して開発した触媒は、ランタンとセリウムを複合化したことで担体の構造が結晶的に安定化し、高温で還元処理しても表面のルテニウムを微細な状態で保持できることが明らかとなりました。このため、アンモニア合成反応の活性点となる金属原子が触媒表面に豊富に存在していることが分かりました。

② 還元された担体がルテニウムナノ粒子の一部を覆っていること。

複合酸化物中のセリウムは通常+4価の状態で存在していますが、還元処理によって+3価の状態に変化します。この+3価のセリウムを含む還元された担体が、界面付近でルテニウム粒子を被覆することで、担体とルテニウム粒子の間に働く相互作用が強くなり、担体からの電子供与が効果的に起きるようになります。この担体から供給された電子が、アンモニア合成反応の律速段階である窒素分子の三重結合の解離を促進することで反応活性が高まっていることが明らかになりました。

<今後の展開>

ルテニウム、ランタン、セリウムは比較的安価で工業的にも広く利用されている元素です。また、開発した触媒は簡便な手法で調製でき、大気中で安定なため取り扱いも容易です。開発した触媒によって、再生可能エネルギーを利用したアンモニア生産プロセスの実現が望まれており、今回の触媒設計を発展することで、さらに高活性なアンモニア合成触媒が創製できると期待できます。

<参考図>

開発したRu/La0.5Ce0.5O1.75-x触媒の模式図

図1 開発したRu/La0.5Ce0.51.75-x触媒の模式図

LaとCeの複合酸化物上に微細なRu粒子が担持され、さらに還元された担体が部分的にRuナノ粒子を覆っている。

開発した触媒と従来型の酸化物担持Ru触媒のアンモニア生成速度の比較

図2 開発した触媒と従来型の酸化物担持Ru触媒のアンモニア生成速度の比較

開発したRu/La0.5Ce0.51.75-x触媒は、空間速度:72Lg−1−1、反応圧力:1.0MPa(10気圧)という温和な条件でも非常に高いアンモニアの生成活性を示した。

図3 開発触媒と従来型触媒に対する反応圧力の影響

図3 開発触媒と従来型触媒に対する反応圧力の影響

アンモニア合成は熱力学的に高圧なほど高いアンモニア収率が得られるが、ベンチマークである従来型触媒のCs/Ru/MgOは水素による被毒の影響を受けるため高圧条件でもアンモニア生成活性は向上しない。一方、開発触媒は水素被毒の影響を受けにくいため、圧力の上昇に伴って、アンモニア合成活性が飛躍的に向上する。

<用語解説>

注1)酸化物担持型触媒
酸化物粉末の表面に、金属の微粒子や添加物を分散、析出(担持という)させた触媒。酸化物粉末は担体とも呼ばれる。自動車触媒などの工業的に利用される固体触媒のほとんどは酸化物担持型触媒である。
注2)エネルギーキャリア
エネルギーの輸送・貯蔵のための担体となる化学物質。特に、アンモニアや有機ハイドライド、ギ酸など、海外など再生可能エネルギーが豊富な地域で得た電気エネルギーを化学的に変換して消費地まで貯蔵・輸送するのに用いられる化学物質を指す。
注3)希土類
レアメタルの一種であり、周期表上では、第3族のうちアクチノイドを除く第4周期から第6周期までの元素を指す。セラミックス、触媒、磁石などに利用され工業的に重要な材料である。ランタン(La)、セリウム(Ce)などの軽希土類は資源が世界的に広く分布しており、埋蔵量も比較的多いとされている。
注4)ルテニウム
貴金属の一種であるが白金族元素の中では比較的安価であり、工業的にもさまざまな用途で利用されている。東京工業大学の尾崎 萃、秋鹿 研一らがアンモニア合成触媒として温和な条件で優れた特性を示すことを見いだし、1970年頃から先駆的な研究成果を発表している。
注5)収差補正走査透過電子顕微鏡
試料にプローブとなる電子線を走査させながら、透過した電子や反射した電子を結像させナノスケールの観察を行う電子顕微鏡。近年の技術開発により対物レンズの収差を補正することでプローブ径をしぼり、原子レベルでの高分解観察が可能な装置も登場している。

<論文情報>

タイトル Efficient ammonia synthesis over a Ru/La0.5Ce0.5O1.75 catalyst pre-reduced at high temperature
(高温で予備還元されたRu/La0.5Ce0.5O1.75触媒による高効率なアンモニア合成)
著者名 Yuta Ogura, Katsutoshi Sato, Shin-ichiro Miyahara, Yukiko Kawano, Takaaki Toriyama, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, Saburo Hosokawa, and Katsutoshi Nagaoka
doi 10.1039/c7sc05343f

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

永岡 勝俊(ナガオカ カツトシ)
大分大学 工学部 准教授
〒870-1192 大分県大分市大字旦野原700番地
Tel:097-554-7895
E-mail:

<JST事業に関すること>

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〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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<報道担当>

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