生物の複雑さはタンパク質の種類の多さに依存しますが、ある1つの生物種が持つ遺伝子の数は限られています。したがって、より高度な生命活動を営むためには、機能の異なる複数のタンパク質を1つの遺伝子から生み出す仕組みが必要となります。
九州大学 大学院農学研究院 松下 智直 准教授、牛島 智一 特任助教らの研究グループは、九州工業大学 情報工学部 花田 耕介 准教授らの研究グループ等との共同研究により、転写注1)を開始する位置(転写開始点)のコントロールが、転写や翻訳注2)と並んで、真核生物の遺伝子発現制御における新しい普遍的なステップとして、タンパク質の種類の増加に少なからず寄与することを、世界に先駆けて示しました。
研究グループはこのたび、植物の光を受容するタンパク質であるフィトクロムが、2,000を超える数の遺伝子に直接働きかけてそれらの転写開始点を変化させ、その結果、約400遺伝子のそれぞれから、細胞内での存在場所が異なる複数のタンパク質が生じることを発見しました。さらにこの仕組みにより、1つの遺伝子から生じる複数のタンパク質が細胞内の異なる場所で異なる機能を果たすことで、植物の様々な光環境への適応に働くことを実験的に明らかにしました(図)。
同規模の転写開始点変化は、フィトクロムに限らず、あらゆる刺激に伴って、真核生物において共通の仕組みで起こるものである可能性が高く、したがって今後この現象の詳細なメカニズムが解明されれば、生物学上の大きな進歩となることは間違いないと考えられます。
本成果は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)によって得られました。本研究成果は、2017年11月9日(米国東部時間)に、米国科学誌『Cell』にオンライン掲載されます。