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補足資料

今回の実験の詳細

~“最終提案ゲーム”~

[実験内容と結果]

図1 最終提案ゲームで被験者が見る画面

図1 最終提案ゲームで被験者が見る画面

94名の被験者にfMRI装置の中で“最終提案ゲーム”という課題に取り組んでもらい、この時の脳血流量をfMRI装置で観測しました。“最終提案ゲーム”は提案者が提案者と被験者の間のお金の配分を被験者に提案します。図1の例では、提案者は自分に269円、被験者に232円を提案しています。次に、被験者はこの提案を受け入れるか、拒否するかを決めます。被験者が提案を受け入れればお金は提案どおりに分けられ、拒否すればどちらの取り分も0円となります。“最終提案ゲーム”の目的は自分と相手の配分の差に対する感情の働きを調べることです。 被験者が自分の取り分を多くするためには全ての提案を受け入れるのがベストですが、不平等を嫌う人は配分が20%より低い不平等な提案は拒否することが知られています。

今回の実験では、提案者と提案内容を変えて、被験者に56回の決定を行ってもらいました。(図1参照)。様々な配分の提案をすることで配分の差に反応する脳の場所を特定することが容易になります。

図2 経済的不平等に対する扁桃体と海馬の活動パターン

図2 経済的不平等に対する扁桃体と海馬の活動パターン

被験者はあらかじめsocial value orientation注7)という基準に従い、不平等を避ける人(向社会的:59名)と自分の取り分を多くしたい人(個人的:35名)に分類されました。

向社会的な人と個人的な人で、56回ある提案のタイミングの「相手の配分が自分よりどれだけ多いか」を表す経済的な不平等と脳活動との相関が異なる脳の場所として、左右の扁桃体と海馬が見つかりました(図2参照)。

MRI装置の中で“最終提案ゲーム”を行ったのと同時期に測定した各被験者のうつ病傾向を、不平等に対する扁桃体と海馬の脳活動パターンから予測することを試みました(テストするデータは学習には用いません)。その結果、うつ病傾向の実際の値と脳活動パターンからの予測値の間には、統計的に有意な正の相関(右上がりの直線)があることが分かりました(図3参照)。このことは、現在のうつ病傾向が予測可能であることを示しています。

次に、1年後にも再度、うつ病傾向を計測した73名(向社会的: 47名、個人的:26名)について、同じ扁桃体と海馬の経済格差に対する脳活動パターンから、1年後のうつ病傾向の変化が予測可能か調べました。その結果、実際の1年後のうつ病傾向変化値と予測値の間にも、統計的に有意な正の相関(右上がりの直線)があることが分かりました(図4参照)。

さらに、提案者や提案の提示などに関係するほかの脳活動パターン、“最終提案ゲーム”中の被験者の行動、被験者の社会経済的地位など、様々な情報から現在と1年後のうつ病傾向予測が可能か検討しました。その結果、うつ病傾向の予測ができたのは、経済的不平等に対する扁桃体と海馬の脳活動パターンのみでした。これらの結果は、うつ病傾向を決める要因としての経済的不平等の重要性とともに、扁桃体と海馬がその脳内基盤であることを示唆しています。

図3 現在のうつ病傾向の予測

図3 現在のうつ病傾向の予測

横軸は各被験者のうつ病傾向の実際値、縦軸は機械学習による予測値を示し、一つの○は一人の被験者を示す。実際値と予測値の間に正の相関が見られる。

図4 1年後のうつ病傾向変化の予測

図4 1年後のうつ病傾向変化の予測

横軸は各被験者の1年後のうつ病傾向変化の実際値、縦軸は機械学習による予測値を示し、一つの○は一人の被験者を示す。 実際値と予測値の間に正の相関が見られる。

付記

本研究の実施に当たり、事前に被験者全員に対して実験内容を説明し、同意を得ました。また、実験計画については情報通信研究機構及び玉川大学の倫理委員会の承認を受けています。