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平成29年9月28日

立教大学
科学技術振興機構
内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

ゲノムが増える仕組みを試験管内に再現し、巨大DNA増幅技術を開発

ポイント

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の野地 博行 プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として、立教大学の末次 正幸 准教授(元 JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ 研究員(兼任))らは、バクテリアゲノム複製サイクル注2)の繰り返しを試験管内に再構成することに初めて成功しました。

構築した複製サイクル再構成系は、複製開始配列注3)を持つ長鎖環状DNA1分子からの指数増幅を導くものでした。従来、長鎖DNAのクローニングには大腸菌細胞を宿主としたDNA組換え操作が必要でしたが、本技術により、数時間の等温反応のみで、20万塩基対(遺伝子200個程度)を超える長鎖DNAを正確に試験管内増幅する事ができるようになりました。この成果は、ゲノム複製のメカニズム解明につながるだけでなく、ゲノムレベルの長鎖DNAを人工合成するための次世代遺伝子工学ツールとしての利用が期待されます。

本研究は、2017年9月28日17時(日本時間)に英国の科学雑誌『Nucleic Acids Research』オンライン速報版に掲載されます。

本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。

末次 正幸 准教授

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
http://www.jst.go.jp/impact/

プログラム・マネージャー 野地 博行
研究開発プログラム 豊かで安全な社会と新しいバイオものづくりを実現する人工細胞リアクタ
研究開発課題 人工ゲノムの試験管内合成法の開発
研究開発責任者 末次 正幸(立教大学 理学部 准教授)
研究期間 平成28年4月~平成31年3月

本研究開発課題では、「ふえる」人工細胞デバイスの開発にむけて、人工的にデザインされたゲノムDNAを試験管内合成する技術と、合成された人工ゲノムを起動させるための技術の開発に取り組んでいます。

<野地 博行 プログラム・マネージャーのコメント>

PM

バイオ産業の市場規模は年々急速に拡大していますが、天然細胞の代謝系に依拠した従来の物質生産法には自ずと限界があり、人工細胞を用いた有用物質の革新的な生産方法の開発が望まれています。ImPACT野地プログラムの「ふえる」プロジェクトでは人工細胞技術の根幹である試験管内人工ゲノム合成法を開発するため、バイオ産業で広く利用されており解析も進んでいる大腸菌のDNA増幅システムに着目し、簡便で精度の高い長鎖環状DNAの増幅技術の開発に取り組んできました。本技術開発により、無細胞系のワンポッド反応で長鎖環状DNAを短時間で指数的に増幅させることが可能となり、今後の合成生物学やバイオ産業の発展に大きく寄与すると期待しています。

<研究の背景と経緯>

バイオテクノロジーの基盤をなすDNA増幅技術として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)がよく知られています。この技術は人為的な温度サイクルにより比較的短いDNA(遺伝子1個程度)を指数増幅するものです。一方で細胞は、増殖過程において、温度サイクルによらずともゲノム複製のサイクルを幾度も繰り返し、ゲノムという長大なDNA(大腸菌では約4000の遺伝子)の正確な増幅を達成しています。そこで我々はこの細胞のもつDNA増幅の仕組みを試験管内に丸ごと再現することに挑戦しました。

<研究の内容>

30年以上も前にアーサー・コーンバーグ博士らによって大腸菌環状ゲノムの複製機構の試験管内再構成系が構築されました。この再構成系では複製開始配列から両方に複製フォーク注4)が進行します。我々は、この系に、さらに複製終結および複製後DNAの分離反応の融合を検討しました。分離反応により、うまく複製後の産物をもとの鋳型と同じ環状単量体DNA分子に戻すことができれば、倍加された環状DNA分子は引き続き次のラウンドの複製サイクルに突入できるのではないかというアイデアです(図1)。検討を重ね、大腸菌由来の25種のタンパク質より構成される反応系を構築し、この反応系において環状DNA分子の指数的な増幅が導かれていることを検出しました(図2)。この結果は、期待通り複製サイクルが自律的に繰り返され、環状分子が倍々に増えていることを示しています。我々はこの系を「複製サイクル再構成系(Replication Cycle Reaction;RCR)」と名付け、DNA増幅法として、次のような特徴を持つことを示しました。

つまり、まるで細胞を培養するようにして、環状DNA分子を自律的に増殖させることができるようになりました。従来の大腸菌を用いたDNAクローニング技術は、長鎖環状DNA調製法として、近年のバイオテクノロジーの発展を支えてきた技術です。一方で、大腸菌内へのプラスミド化した環状DNAの導入や、菌の培養、プラスミドDNA抽出など、多くの手間と日数のかかる手法でもありました。今回我々が構築した反応系によって、数時間の保温のみで長鎖環状DNAを正確に増幅調製することが可能となりました(図3:無細胞クローニング)。細胞を使わない反応であるため、細胞に導入可能なDNAサイズの制約はなく、また細胞毒性を有するDNA配列も問題なく増幅できます。

バクテリアの中にはカルソネラ・ルディアイのように16万塩基対という小さなゲノムをもつものが知られています。我々が増幅に成功した20万塩基対というサイズは、バクテリアレベルの小さなゲノムであれば、ゲノム丸ごとを試験管内増幅できる革新的な技術であることを意味します。

<今後の展開>

遺伝情報の増殖は、おそらく原始生命が誕生した頃から継承されてきた生命共通の現象です。本研究はこのような生命の自己複製能の本質的な部分を試験管内に再現したものであり、今後、自律増殖可能な人工細胞などへとつながるものと期待されます。さらに、我々の構築した再構成系はゲノムレベルの長鎖環状DNAの試験管内調製法として優れた特徴を有しており、近年米国を中心に注目を浴びつつある「ゲノム人工合成」の時間短縮とコスト削減に大きく貢献する可能性があります。

<参考図>

図1 複製サイクル再構成系

図1 複製サイクル再構成系

大腸菌環状ゲノムの複製開始・伸長・終結・分離のサイクルが自律的に繰り返され、複製開始配列(oriC)を持つ長鎖環状DNAが指数的に増幅

図2 複製サイクル再構成系における環状DNA分子の指数増幅

図2 複製サイクル再構成系における環状DNA分子の指数増幅

1万塩基対の環状DNA分子を複製サイクル再構成系に添加し、30℃で保温後、継時的にサンプリングし環状DNA分子数を調べた。用いた環状DNAは複製開始配列に加え薬剤耐性遺伝子を持つので、大腸菌形質転換後の薬剤耐性コロニー数を計測することによって、環状分子としての分子数を定量した。なお、本手法により計測された環状分子の倍加時間は5〜10分であった。

図3 無細胞クローニング

図3 無細胞クローニング

oriCを含むDNA断片と目的とする複数のDNA断片を連結後、複製サイクル再構成系(RCR)により、連結環状化したDNA分子を増幅調製

<用語解説>

注1) 大腸菌を用いたDNAクローニング
任意のDNA領域をプラスミドと呼ばれるベクター(運び屋)DNAに連結し、これを大腸菌細胞内に導入後、大腸菌を培養することにより、当該遺伝子を増幅させる方法。大腸菌宿主を用いるため遺伝子組み換え実験となる。
注2) ゲノム複製サイクル
複製開始、複製フォークの進行、岡崎フラグメント連結、終結、姉妹DNA分離、からなるサイクル。
注3) 複製開始配列
大腸菌ゲノム(約500万塩基対)は環状構造をしており、oriCと呼ばれる複製開始配列(約300塩基)から両方向に複製フォークが進行する。
注4) 複製フォーク
複製タンパク質複合体が親鎖となるDNA2重鎖を1本鎖に開裂しながら1本鎖に相補的なDNAを合成していく。この時のY字型のDNA構造のこと。

<論文情報>

タイトル Exponential propagation of large circular DNA by reconstitution of a chromosome-replication cycle
著者名 Masayuki Su’etsugu, Hiraku Takada, Tsutomu Katayama, Hiroko Tsujimoto
掲載誌 Nucleic Acids Research

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

立教大学 理学部 生命理学科 准教授 末次 正幸
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
Tel:03-3985-2372
E-mail:

<ImPACTの事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室
〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
Tel:03-6257-1339

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-6380-9012 Fax:03-6380-8263
E-mail:

<報道担当>

立教学院 広報室
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科学技術振興機構 広報課
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