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平成29年7月3日

京都大学
科学技術振興機構(JST)

アンモニアを直接燃料とした燃料電池による1キロワットの発電に成功

アンモニアを直接燃料とした固体酸化物形燃料電池(SOFC)注1)で、世界最大規模(1キロワット(kW)クラス)の発電に成功しました。
国立大学法人 京都大学、株式会社ノリタケカンパニーリミテド、株式会社IHI、株式会社日本触媒、株式会社豊田自動織機、三井化学株式会社、株式会社トクヤマは共同研究により、アンモニア燃料電池の世界最大規模の発電に成功しました。

アンモニア(NH)はそれ自身が水素を多く含んでおり、エネルギーキャリア注2)として期待されています。今回、アンモニアを燃料として直接SOFCスタック注3)図1)に供給し、1kWの発電に成功しました(図2:発電結果、発電効率)。これまでも小規模な発電には成功していましたが、研究開発の結果、汎用SOFCと同程度の発電出力を達成できたことで、アンモニアがSOFCの燃料として適しており、有害物質や温暖化ガスの発生を伴わない発電が実用規模まで拡大できる可能性を示すことができました。アンモニアのエネルギーキャリアおよび燃料としての利用技術の大きな進展となり、COフリー発電の実現が期待されます。

この技術の詳細は、2017年7月9日~12日にチェコ共和国プラハで開催される「The 7th World Hydrogen Technology Convention」で発表されます。

本研究は総合科学技術・イノベーション会議のSIP (戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」(管理法人:国立研究開発法人 科学技術振興機構【理事長 濵口 道成】)の委託研究として実施しています。

<開発の社会的背景>

将来、未利用エネルギーや再生可能エネルギーの大量導入や利用の際のエネルギー貯蔵、輸送用の媒体として、エネルギーキャリアへの期待が高まっており、日本の研究開発プロジェクトとしても取り上げられています。エネルギーキャリアとは、常温常圧で気体の水素を、水素を多く含んだ化学物質に変換して、安定に貯蔵・輸送を行うための媒質です。アンモニアはエネルギーキャリアの候補として注目されており、燃料としての利用にも期待が高まっています。アンモニアを燃料として発電しても水と窒素しか排出しないことから、化石燃料である炭化水素を利用した燃料電池に比較し、二酸化炭素排出量の削減効果が大きいことが期待できます。

<研究の経緯>

京都大学 大学院工学研究科 江口 浩一 教授を研究責任者とするアンモニア燃料電池チームは、再生可能エネルギーの大量導入を支えるエネルギーキャリアの研究開発を推進しており、アンモニアを燃料とする燃料電池の開発に取り組んでいます。本発電試験は京都大学において実施されました。

<研究の内容>

今回の直接アンモニア燃料電池は、図3に示すように、電解質であるジルコニアの片面に取り付けた燃料極に発電の燃料となるアンモニアガスを直接供給し、反対側の空気極に空気を供給することによって、両極の間で電力を発生させる原理に基づいています。これまでも小規模な発電は試験されてきましたが、今回の技術はこの燃料電池単セルを30枚積層し、温度分布を最小として、アンモニアが各セルに均等に流れるようにした結果、より実用規模に近い1kWクラスのSOFCスタックへ直接アンモニアを供給し、発電したものです。

本スタックに、直接アンモニア燃料を供給して発電を行ったところ、純水素と比較して、同等レベルの良好な発電特性が確認されました。また、燃料電池の直流発電効率は1kWの規模ながらSOFCの特徴である50%を超える高い値が達成されました(図2)。さらに1kW級評価システムで1000時間の安定した連続運転に成功しました。

異なる燃料供給方式としてアンモニアと空気の混合ガスをハニカム構造の触媒に供給して部分燃焼する触媒およびオートサーマル反応器(自己熱反応器)注4)を開発しました(図4)。この反応器は500℃の出口ガス温度を達成するのに130秒間の高速起動が可能であることを証明しました。反応器により生成した水素を含む混合ガスをSOFCスタックに供給し、この燃料供給方式でも1kW級の発電に成功しました。将来、アンモニアを燃料とするSOFCの外部加熱によらない高速起動の可能性を示す技術といえます。

 ここでの効率は燃料電池に供給したアンモニアの低位発熱量に対する直流発電出力。

<今後の予定>

アンモニア燃料を用いて1kW級のコンパクトなパッケージ実証機を作製し、運転を行う予定です。将来的にアンモニア燃料電池は、分散型電源として業務用の発電などへの展開も期待されます。

<参考図>

図1 開発した1kW級SOFCスタックの外観

図2

  • (左)SOFCスタックの水素およびアンモニアによる電流-電圧および電流-出力特性
  • (右)アンモニア燃料を用いたSOFCスタックの電圧および直流発電効率の燃料利用率依存性

図3 直接アンモニアSOFCの原理

図4 1kW級 SOFC用オートサーマル反応器

<用語解説>

注1) 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
700~900℃で動作する酸化物セラミックスを構成材料とする燃料電池で、すでに都市ガスを供給する家庭用ユニットは実用化されている。発電効率が高く、都市ガスによる発電でその有効性が確認されている。燃料極、電解質、空気極から構成され、燃料には水素のほか一酸化炭素などが使用される。
注2) エネルギーキャリア
液体水素やメチルシクロヘキサン、アンモニアなど水素を多く含む物質のことで、エネルギー生産地で合成して、化学的に安定な液体として保存、運搬し、エネルギー消費地で水素を取り出すか、直接エネルギーに変換して使用する。
注3) SOFCスタック
1個の燃料電池(単セル)では数10ワット(W)程度の出力であるが、燃料電池をセパレーター(インターコネクター)と呼ばれる導電性の材料と交互に数10~数100個コンパクトに直列に連結して、電圧および出力を増加させた燃料電池の集合体。今回の研究ではSOFC燃料電池を連結している。
注4) オートサーマル反応器(自己熱反応器)
アンモニア分解など吸熱を伴う化学反応において、空気を反応原料に混合することによりアンモニア燃焼を同時に進行させ、燃焼熱を利用して、発熱の領域で反応を進行させる反応器。熱自立が可能で、起動時間が短くなる特徴がある。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

江口 浩一(エグチ コウイチ)
京都大学 大学院工学研究科 物質エネルギー化学専攻 教授
〒615-8510 京都市西京区京都大学桂
Tel:075-383-2519 Fax:075-383-2520
E-mail:

<SIPの事業に関すること>

内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付エネルギー・環境グループ
〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館6階
TEL:03-6257-1337
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 環境エネルギー研究開発推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3543 Fax:03-3512-3533
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<報道担当>

京都大学 総務部広報課
Tel:075-753-5727 Fax:075-753-2094
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科学技術振興機構 広報課
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