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平成29年4月29日

九州大学
科学技術振興機構(JST)

世界最長寿命30ミリ秒(ms)の有機薄膜レーザーの連続発振に成功

~電流励起型有機半導体レーザーの実現に向けた重要な一歩~

九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)の安達 千波矢 教授らの研究グループは、紫外線励起による世界最長寿命である30ミリ秒(ms)の有機薄膜レーザーの連続発振に成功しました。これは、従来の報告の100倍以上の長寿命化を達成したことになります。そして本研究成果は、将来の“電流励起型有機半導体レーザー注1)を実現するための重要な一歩を踏み出したことになります。
 有機薄膜レーザーは、無機レーザーでは実現が困難な、可視域から赤外域全域にわたる広範囲の波長を任意に発振できるという有望な特徴があり、将来の光通信やセンシング、そしてディスプレイまで幅広い新しい分野への応用が期待されます。
 本研究における光励起型の有機薄膜レーザーは、有機レーザー活性層注2)と、DFB構造注3)を含んだ光共振器注4)とで構成されます。有機薄膜レーザー発振は、有機レーザー活性層に含まれる有機レーザー分子を紫外線で励起し、それによって発生する吸収エネルギーが発光に変換され、さらに同じ波長の光が増幅された後、光共振器によるフィードバック効果によって起こります。従来のデバイス構造では、有機分子によるレーザー光の吸収や有機レーザー活性層での熱劣化および光損失が大きく、有機薄膜レーザーの連続発振時間は大きく制限されていました。
 本研究は、次の3点の条件を揃えることで、30ミリ秒に達する世界最長の連続レーザー発振に成功しました。1点目に、有機薄膜レーザーの発振を阻害する要因の除去に取り組みました。レーザー動作中に蓄積される寿命の長い三重項励起状態注5)によって、光が吸収されてしまうという重大な課題がありましたが、三重項励起状態の吸収スペクトルとレーザー発振スペクトルの重なりが十分に小さい有機レーザー分子をレーザー活性層に用いてレーザー光の吸収を減らすことにより解決しました。

2点目に、熱劣化の抑制に取り組みました。有機薄膜レーザー素子の下層基板として放熱性に優れた単結晶シリコン基板を、上部保護層として高分子材料を薄く接着したサファイアガラスを用いることでカプセル化し、放熱性の問題を解決しました。

3点目に、光共振器構造として最適化を行ったDFB構造を用いることで光損失が抑制され、従来報告されている有機レーザー発振閾値としては最も低い値を実現しました。 

本研究成果は、科学技術振興機構(JST) ERATO「安達分子エキシトン工学プロジェクト」の一環で得られました。

本研究成果は、2017年4月28日(米国東部夏時間)に国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されます。

<参考図>

紫外線励起による有機薄膜レーザーの発振状態の写真
1次と2次のDFB構造を含有するレーザー素子構造の光学顕微鏡像と電子顕微鏡像

<用語解説>

注1) 電流励起型有機半導体レーザー
有機分子をレーザー発振させるためには、外部から有機分子にエネルギーを供給し、高密度の励起状態の有機分子を形成させる必要がある。外部エネルギーとして紫外線などの光を用いて励起状態を形成させる手法を光励起と呼び(例えば今回実現した光励起型の有機薄膜レーザー)、外部エネルギーとして電流を用いて励起状態を形成させる手法を電流励起と呼ぶ。
注2) レーザー活性層
レーザー素子中で紫外線励起により発光する層。有機薄膜レーザーでは有機レーザー分子の薄膜を用いる。
注3) DFB構造
Distributed feedback構造の略。レーザー素子で用いる光共振器の1つ。本研究では光学特性が異なる二酸化ケイ素(SiO2)と有機レーザー分子を周期的に配置した回折格子構造を採用した。効率良くレーザー発振を生じさせるために、周期が異なる1次と2次の回折格子構造を組み合わせた。
注4) 光共振器
DFB構造で構成された光共振器中で有機レーザー分子が発光した光がレーザー活性層の中へ反射される。その反射された光が励起されている有機レーザー分子と相互作用することで増幅される。
注5) 三重項励起状態
有機レーザー分子を光や電流で励起することにより形成される励起状態の1つ。レーザー発振が始まった時には三重項励起状態は少ないが、寿命が長いため時間とともに蓄積する。三重項励起状態はレーザー光を吸収してしまうので、レーザー発振が停止してしまう場合が多い。本研究で用いた有機レーザー分子は三重項励起状態によるレーザー発振の吸収が非常に弱いので、三重項励起状態がレーザー発振を阻害することはない。

<論文情報>

タイトル:“Toward continuous-wave operation of organic semiconductor lasers”
doi: 10.1126/sciadv.1602570

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

安達 千波矢(アダチ チハヤ)
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長
Tel:092-802-6920 Fax:092-802-6921
E-mail:

<JST事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068
E-mail:

<報道担当>

九州大学 広報室
〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744
Tel:092-802-2130 Fax:092-802-2139
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科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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(英文)“http://www.kyushu-u.ac.jp/en/researches/view/54