JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成28年11月24日

科学技術振興機構(JST)
鳥取大学

電力使用量を調整する新たな手法を開発

~スマートメーターの通信ネットワークを活用~

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業において、鳥取大学の櫻間 一徳 准教授らは、再生可能エネルギーを含む複数の発電と蓄電によって構成される電力システムにおいて、スマートメーター注1)間の通信を利用して、分散的に電力使用量を調整する新たな手法を開発しました。

電力価格や需要家の節電意識を高めるサービスで、電力需要のピーク時などに需要家へ電力使用の抑制を促す(デマンドレスポンス)ことで、日々の電力需給のバランスを調整させることが期待されています。しかし、需要家全体からの情報を集約し、大量のデータを処理することが必要とされていました。

本研究では、スマートメーターの通信ネットワークを活用し、スマートメーター同士が需要量や供給量を交換することで、分散的に価格やインセンティブ(報償)の調整量を決定する新たなアルゴリズムを開発しました。これにより、大量のデータを集約し管理する必要がなくなるため、サーバーなどの情報インフラの設置や運用の必要がなく、低コストで電力システムを管理することが可能となります。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の一環として行われ、鳥取大学の三浦 政司 助教と共同で行ったものです。

本研究成果は、2016年11月21日(米国東部時間)に米国電気電子学会誌「IEEE Transactions on Industrial Electronics」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」
(研究総括:藤田 政之 東京工業大学 教授)
研究課題 「太陽光発電予測に基づく調和型電力系統制御のためのシステム理論構築」
研究代表者 井村 順一(東京工業大学 教授)
研究期間 平成27年4月~平成32年3月

JSTは本領域で、分散協調型エネルギー管理システムを実現するための研究を電力、制御、経済などの多角的な観点から進めています。上記研究課題では、大量導入された太陽光発電のもとで、電力系統全体の需給バランスを実現するための次世代の電力系統制御技術の構築を目指しています。

<研究の背景と経緯>

現在、温室効果ガスの排出量を削減するため、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が増えています。しかし、このようなエネルギー源による発電は一般的に発電量が大きく変動することから、電力需給のバランスを一定に保つことが難しいという問題があります。

この問題を解決する手段として、需要家へ電力使用の抑制を促すデマンドレスポンスを導入することが期待されています。価格やインセンティブの調整量はスマートメーターを通じて送信され、需要家は電力使用量を手動あるいは自動で調整します。

価格やインセンティブの調整量は、電力系統全体を管理する独立系統運用機関注2)や系統の一部分を管理する電力事業者注3)などが、需給インバランス注4)の大きさをもとに決定します。一般的に電力系統全体の需給インバランスは電源周波数の変動から算出することができます。しかし、電力系統の一部分の電力インバランスはこのように算出できないため、通信ネットワークを通じてスマートメーターから情報を収集することで間接的に測定します。個々の需要家から電力需給の情報を収集し、集められた大量のデータを処理する必要があり、デマンドレスポンスを実施するには、高性能なサーバーや高速な通信回線の導入および運用が不可欠になります。しかし、特に、小規模な電力事業者やマイクログリッド注5)では、このような情報インフラの導入や運用は大きな負担となり、この問題を解決する新たな手法の開発が必要とされていました。

<研究の内容>

ここでは、図1のように複数のマイクログリッドが接続された電力システムを考えます。赤線のように各需要家に備え付けられたスマートメーターの通信ネットワークによって、スマートメーター同士が情報交換をすることが特徴です。各マイクログリッドはデマンドレスポンスを通じて需給インバランスを解消することが必要となります。既存手法では、需給インバランスを測定するために、需要家の電力需給量を集約し、解析するアルゴリズムが用いられていました。

本研究では、個々の需要家の電力需給量を集約せずにデマンドレスポンスを行うため、スマートメーター同士が需要量や供給量の情報を交換することで、分散的に価格またはインセンティブの調整量を決定する新たな手法を世界に先駆けて開発しました。この手法の具体的な手順を図2に示します。

さらに、開発したアルゴリズムの持つ重要な特徴として、次の点を明らかにしました。

最後に、図4のような電力システムにおける数値シミュレーションを行いました。14個のマイクログリッドが接続されており、各マイクログリッドには40〜50程度の需要家と供給家がいます。また、各マイクログリッドは自身の中にいる需要家の総需要量の30%を賄えるバックアップ電源を備えており、需給インバランスをその範囲で収めながら、できるだけ早く需給インバランスを解消する必要があります。ここで、1つのマイクログリッドにおける発電機が故障した時に需給バランスの要求を満たすことが可能か検証しました。図5(a)は需給インバランスを(b)は各マイクログリッドにおける価格を表しています。(a)より、初期時刻であるマイクログリッドの需給インバランスが崩れているものの、少しずつ需給インバランスが解消されていくことがわかります。(b)より、故障したマイクログリッドのみならず隣のマイクログリッドの価格も変化しており、協調して需給インバランスを解消していることがわかります。以上のように、開発手法を用いて分散的にデマンドレスポンスを行うことで、効果的に需給インバランスを解消できることを確認しました。

<今後の展開>

本研究では、大量の需要家の電力需給量を集約する必要がなく、分散的な処理でデマンドレスポンスを可能とする手法を開発しました。これにより情報インフラを新たに用意することなくデマンドレスポンスを実施できるため、今後、マイクログリッドなどの小規模な電力システムに対する簡単で容易な管理方法の1つとして普及する可能性があると考えています。

<参考図>

図1 複数のマイクログリッドが接続された電力システム

本研究が対象とする電力システムの概念図。このシステムには複数のマイクログリッドが存在し、それらが電力融通を行う。各マイクログリッドには、数十から数百の需要家と供給家が存在する。需要家は家庭や工場などが、供給家は太陽光や風力発電事業者などが相当する。需要家と供給家のスマートメーターには通信機能があり、これによる通信ネットワークの例を赤線で示した。デマンドレスポンスのための信号はこの通信ネットワークを介して交換される。

図2 提案手法のフローチャート

スマートメーター同士が需要量や供給量の情報を交換することで、分散的に価格またはインセンティブの調整量を決定する。繰り返しの規定数はネットワークの接続状況に依存し、例えば、この後のシミュレーションでは50回程度の繰り返し回数が必要であり、この数の繰り返しを価格の調整量を決める単位時間(例えば1時間)中に行う。

図3 必要な通信中継設備を付加した通信ネットワークの例

図の赤矢印はスマートメーターの通信経路を示し、この方向に情報が伝達される。このネットワークは強連結ではないため、デマンドレスポンスを実施することはできない。そこで、通信中継設備を付加し、青矢印の通信経路を得たとする。このネットワークは強連結になるため、デマンドレスポンスが実施可能である。

図4 シミュレーションで想定する電力システム

電力システムは互いに接続された14個のマイクログリッドから構成されており、これらの間で電力融通が行われる。各マイクログリッドには40~50程度の需要家と供給家が存在しており、総需要量の30%を賄えるバックアップ電源が配備されている。

図5 各マイクログリッドにおける需給インバランスと価格

図4の電力システムにおいて、1つのマイクログリッドの発電機が故障したときの、(a)需給インバランスおよび(b)各マイクログリッドにおける価格を表す。(a)より、初期時刻では発電機の故障によってあるマイクログリッドの需給インバランスが崩れているものの、少しずつ需給インバランスが解消されていることがわかる。(b)により、故障したマイクログリッドのみならず隣のマイクログリッドの価格も変化しており、協調して需給インバランスを解消していることがわかる。

<用語解説>

注1) スマートメーター
デジタル化され、通信機能を持つ次世代の電力メーターのこと。
注2) 独立系統運用機関
電力事業者とは独立し、送電系統の運用管理を行う組織のこと。
注3) 電力事業者
電力を発電・供給する事業を行う事業者のこと。東京電力・関西電力などの送配電も担う一般電力事業者とそれ以外の新電力事業者がある。
注4) 需給インバランス
電力系統全体、あるいは特定の電力事業者の管轄する系統の一部における、電力の需要量と供給量の差のこと。
注5) マイクログリッド
大規模発電所からの送電に(ほとんど)依存せず、自前のエネルギー源による発電によって賄われている小規模な電力システムのこと。
注6) 強連結
グラフとよばれる複数の頂点とそれらを結ぶ矢印からなるネットワークの表現形式において、どのような2つの頂点を選んでも、一方からもう一方へ矢印を進んでたどりつけるような構造のこと。

<論文情報>

Communication−based Decentralized Demand Response for Smart Microgrids
(通信に基づいたスマートマイクログリッドのための分散的デマンドレスポンス)
doi :10.1109/TIE.2016.2631133

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

櫻間 一徳(サクラマ カズノリ)
鳥取大学大学院 工学研究科 機械宇宙工学専攻 准教授
〒680-8552 鳥取市湖山町南4丁目101
Tel:0857-31-5323 Fax:0857-31-5835
E-mail:

<JST事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

(英文)“A new method to adjust electricity consumption via communication networks of smart meters