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平成26年10月1日

筑波大学
産業技術総合研究所
大阪大学
科学技術振興機構(JST)

硫酸性温泉紅藻が強酸性条件下でレアアースを効率的に吸収する

ポイント

国立大学法人 筑波大学 生命環境系の蓑田 歩 助教らは、硫酸性温泉に生息する紅藻Galdieria sulphuraria が、特定の条件下で、希少金属として知られるレアアース注1)を選択効率的に回収することを明らかにしました。

レアアースは、私達の豊かな生活を支える先端機器などに用いられる重要な元素ですが、資源リスクや環境負荷低減の観点から、そのリサイクルが重要な課題です。

レアアースのリサイクルを行う場合、大量の鉄や銅を含む酸性の廃液中に、ごく少量含まれるレアアースを高い効率で選択的に回収する技術が必要となります。

今回、蓑田助教らは、高温・酸性条件に生息する硫酸性温泉紅藻Galdieria sulphuraria に着目し、この紅藻が、一定の条件下で、複数の金属を含む酸性溶液から低濃度のレアアースを高効率で回収することを見いだしました。さらにそのメカニズムが、従来提案されている微生物による金属回収方法とは異なるものであることを明らかにしました。

本研究成果は、酸性の金属廃液からレアアースを高効率で回収する新しい技術の開発に繋がる大きな一歩です。

本研究は、産業技術総合研究所 計測標準研究部門の宮下 振一 研究員、稲垣 和三 研究室長、大阪大学の山本 高郁 招へい教授、東京薬科大学の都筑 幹夫 教授との共同研究です。

本研究成果は、Applied Microbiology and Biotechnologyのオンライン速報版で間もなく公開される予定です。

本成果は、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)によって得られた成果です。

<研究の背景>

レアアースと呼ばれる希少金属は、ハイブリッド自動車のモーターや、超強力磁石材料、光学ディスクなど、私達の豊かな生活を支える重要な元素です。そのため、年々増大する先端産業における需要の増大に対して、資源の少ない我が国では供給が不安定であり、そのリサイクルが重要な課題の1つです。

しかし、レアアースのリサイクルを行おうとする場合、通常、ベースメタル注2)と呼ばれる鉄や銅などの金属が大量に存在する酸性廃液中から、ごく少量しか含まれていないレアアースを回収することになります。現在、コストや回収効率の問題を解決するために種々の方法の開発が進められていますが、まだ実用化には至っていません。

一般に、微生物による金属回収は、化学薬品やイオン交換樹脂を利用する方法に比べて、コストが安く、環境に優しい技術として知られています。これまでに提案されている微生物による金属回収の主要な原理は、細胞表層の負電荷に正電荷をもつ金属を回収させる方法 (バイオソープション注3))であり、レアアースを回収する方法も複数提案されています。しかし、これらの方法では、(1)複数の金属が存在すると、細胞表層の負電荷の取り合いになってしまい、回収効率が低下する、(2)酸性条件では、細胞表層の負電荷が、正電荷を持つ水素イオンによってブロックされてしまい、低濃度での回収効率が大きく低下するという問題が存在しました。

そこで、複数の金属を含む酸性の金属廃液中のレアアースを、微生物を用いて高効率で回収することを目的として、蓑田助教らは、硫酸性温泉紅藻Galdieria sulphuraria に着目しました。この紅藻は、硫酸性温泉に生息する藻類で、低濃度(6ppm)の銅を嫌気条件下で高い効率で回収するという報告が30年前になされていたものです。

<研究の内容と成果>

硫酸性温泉紅藻Galdieria sulphuraria は、日本でも、草津や登別などの硫酸性温泉の緑色の岩場で見られる、イデユコゴメという和名をもつ藻類の仲間です。Galdieria sulphuraria は、イデユコゴメの中で、唯一、有機物を利用して増殖することから、複数の培養条件に適応することができます。

最初に、ネオジム(Nd3+)、ディスプロシウム(Dy3+)、銅(Cu2+)、鉄(Fe2+/3+),アルミニウム(Al3+),コバルト(Co2+),マンガン(Mn2+),亜鉛(Zn2+)、クロム(Cr3+)、ニッケル(Ni2+)の10種類の金属を低濃度(各5ppm)で含む酸性溶液中から、ハイブリッド自動車のモーターなどに使われるレアアースである、Nd3+、Dy3+を効率良く回収できる培養条件を探しました。その結果、検討した5つの培養条件(①光合成のみで増殖する光独立栄養条件、②光合成と有機物の代謝の両方を行う光混合条件、③暗所で有機物のみを代謝する従属栄養条件、④100%二酸化炭素通気条件で、光のみを利用して増殖する準嫌気独立栄養条件、⑤100%窒素通気で、暗所で有機物のみを代謝する準嫌気従属栄養条件)のうち、⑤の条件において、Cu2+、Nd3+、Dy3+が、約70%の高い効率で回収されることがわかりました(図1)。⑤の嫌気条件で、Cu2+が高い効率で細胞に回収されることは、30年前の研究結果と一致しました。それに加えて、⑤の条件では、複数の金属が存在するにもかかわらず、酸性条件で、低濃度(5ppm)のNd3+とDy3+が高い効率で細胞に回収されることがわかりました(図2)。

次に、⑤の条件で、酸性の培養液に、ランタン(La3+)を含むレアアース(Nd3+,Dy3+,La3+)とCu2+の4種を加えると、0.5~5ppmという非常に低い濃度では、80-100%の効率で細胞にレアアースとCu2+が回収されました。さらに、pHを1.0に下げることにより、レアアースが選択的に細胞に回収されることがわかりました(図3)。

この様なレアアース回収のメカニズムの解明を進めるためのステップとして、⑤の培養条件で上記4元素を回収したGaldieria sulphuraria の元素の蓄積状態を位相差顕微鏡を用いて検討したところ(図4)、レアアースとCu2+の蓄積は細胞内部で生じていることが確認できました。

さらに、Galdieria sulphuraria の細胞の活性が高い40℃と、活性が低くなる4℃の条件、および、活性を持たない死んだ細胞で、レアアースと銅の回収効率を検討したところ、4℃と死んだ細胞では、回収効率が大きく低下しました。

バイオソープションは生物活性を必要としない細胞表層での反応であり、温度の影響を受けないことが知られていることから、Galdieria sulphuraria による、⑤の培養条件でのレアアースと銅の回収は、バイオソープションとは異なるメカニズムで生じており、それには、生物活性が必要であることが明らかになりました(図5)。

今回の成果をまとめると、

(1)硫酸性温泉に生息する紅藻Galdieria sulphuraria が、一定の条件下で、酸性溶液中に低濃度で含まれるレアアースを、高い効率で細胞に回収できること、培養条件やpHによってレアアースの選択性を高められることを見いだしました。

(2)Galdieria sulphuraria がレアアースを回収するメカニズムは、従来提案されているバイオソープションとは異なるものであることを明らかにしました。

<今後の展開>

本研究成果は、低濃度のレアアースを含む酸性の金属廃液からレアアースを高効率で回収する新しい技術の開発に繋がるものです。

今後、Galdieria sulphuraria がレアアースを細胞内に蓄積するメカニズムの解明を進め、条件の最適化を図ることなどにより、高効率で経済性のあるレアアースのリサイクル技術の構築に寄与することが期待されます。

<参考図>

図1 5つの異なる培養条件に適応する硫酸性温泉紅藻 Galdieria sulphuraria

図2

準嫌気従属栄養条件(⑤)で、他の金属を含む酸性溶液から、Galdieria sulphuraria は低濃度のレアアースと銅を効率良く細胞に回収する。

図3

準嫌気従属栄養条件(⑤)では、pH1にすることで、レアアースのみを細胞に高い効率で回収することができる。

図4 準嫌気従属栄養条件(⑤)で、レアアースと銅を回収した細胞のアリザリンレッド染色

アリザリンレッド溶液に浸漬して染色し、表面洗浄を行った後、位相差顕微鏡で観察。

図5

準嫌気従属栄養条件(⑤)でのレアアースと銅の回収は、活性の高い細胞でのみ生じている(図中で回収率100%を越える結果になっているものがあるのは、わずかな測定上の誤差が生じたため)。

<用語解説>

注1) レアアース
希土類元素。スカンジウム、イットリウムとランタノイド(15元素)を含む。化学的な性質が非常に近い。希少性が高く、レアメタルの一種。
注2) ベースメタル
鉄・銅・亜鉛・アルミニウムなど、埋蔵量・産出量が多く、精錬が簡単な金属。社会において、さまざまな形で利用されている。
注3) バイオソープション
生物吸着。微生物が金属イオンなどを吸着・保持する現象。活性汚泥などに応用されている。吸着・保持能力に、細胞の生死は関係しない。

<掲載論文>

題名 “Recovery of rare earth elements from the sulfo-thermophilic red alga Galdieria sulphuraria using aqueous acid”
(酸性条件下での硫酸性温泉紅藻Galdieria sulphuraria によるレアアースの回収)
著者名 Ayumi Minoda, Hitomi Sawada, Sonoe Suzuki, Shin-ichi Miyashita, Kazumi Inagaki, Takaiku Yamamoto and Mikio Tsuzuki
掲載誌 Applied Microbiology and Biotechnology
doi 10.1007/s00253-014-6070-3

<お問い合わせ先>

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蓑田 歩(みのだ あゆみ)
筑波大学 生命環境系 助教
〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1
Tel:029-853-6662 Fax:029-853-6662
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<JST事業に関すること>

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